突然のトップ交代劇で社長職を兼務することとなった間塚道義氏。世界的不況のなか、急きょトップとして舵を切ることになった同氏は、前社長が定めた中期経営計画を踏襲する考えを示している。「2010年は前向きな策を打つ年」とし、中計の目標達成に向けてアクセルを踏む。
やることはしっかりとやった
──突然のトップ交代には驚きました。会長と社長職を兼務することになった2009年は、間塚さんにとって激動の年だったと思います。まずは09年の富士通を振り返っていただけますか。
間塚 09年は構造改革を断行した年。「やることはしっかりやった」と思っています。2010年は前向きな施策をどんどん出していこう、と。IT業界の回復時期は読めないというのが本音ですが、(回復の)兆しはあります。10年度(11年3月期)の第1四半期(10年4~6月)には、たぶん好転しているのではないかとみており、中期経営計画で定めた目標達成に向けてしっかりと手を打ちます。
──未曾有の危機といわれる現在、企業経営に求められる姿勢とはどんなものと考えておられますか。
間塚 ユーザー視点に尽きます。ユーザー企業・団体のニーズを聞いて、単純にそれを具現化するだけではなく、ユーザーの経営目標や事業方針を理解し、今後の成長を支える新しいシステムを、ともに知恵を出し合って考え、新たな価値を提供していくことが必要だと感じています。
──社長交代会見の際、「暫定社長」を明言し、自身の後任選定を下期に進める方針を示しました。来年度には新たな人材が社長のポストに座っていることになるのでしょうか。
間塚 確かに指名委員会をすでに数回開催し、私に代わる新たなトップの選定を進めています。しかし、誰が、いつなるのかはまったく決まっていません。クラウドの台頭など、新しい流れのなかで経営の舵をとるには、やはり新しい考えをもつ人が適していますので、しかるべきタイミングで新たなトップに任せようと思っています。
──クラウドは今後の事業戦略を立案するうえで重要なポイントかと思いますが、どうお考えですか。
間塚 クラウドには、パブリックとプライベートの2種類がありますよね。富士通の基本的な考え方として、どちらかに傾注するのではなく、ハイブリッドで展開していくつもりです。
ユーザー企業が、基幹システムなどのミッションクリティカルなシステムをパブリッククラウドで運用するとは思えません。基幹系はプライベート、ノンコアなアプリはパブリックという形で、ユーザーは棲み分けるはずで、富士通としてもそのニーズに応えるためにハイブリッドでの展開が望ましいと考えています。
──クラウドは他社も強化領域です。
間塚 富士通はこれまでさまざまな業種・業態のシステムを構築し、運用してきました。ユーザーの業務ノウハウを熟知している点は大きな強みです。プライベートかパブリックかを見極めるうえでも業務の知識が必要ですから。そのうえで、信頼性や柔軟な連携性も他社との差別化ポイントになります。
──クラウドが浸透すれば、コンピュータメーカーの収益が減るとの指摘があります。
間塚 クラウドが中心になると、サーバー台数が減るという見方もありますが、私はそうは思っていません。データセンターはかなり巨大化し、サーバーの設置台数は増えるはずです。加えて、ユーザーがこれまで手がけていた運用業務を引き受けることができるのですから、ビジネス自体は増えていくと思いますよ。
──富士通自体の売り上げ・利益は増えたとしても、サーバーやPCを販売しているパートナーのビジネスは減りませんか。
間塚 パートナーさんにも新たな価値を加えてもらうことが重要だと思います。富士通だけが伸びるのではなく、パートナーとともに成長することを前提としていますので、富士通とパートナーの双方が伸びるための策を考えていくつもりです。富士通のパートナーさんは、ハードだけを売る企業はそう多くありませんから、クラウドに関しても、ソリューションのように新たな付加価値を追求してくれると思います。
──クラウドをグループ全体で強化する観点で、全国15か所にデータセンターをもつ富士通エフ・アイ・ピー(富士通FIP)との連携は必須とみています。富士通FIPから一部の機能を移管するなど、より連携を強める新たな体制はお考えですか。
間塚 富士通と富士通FIPとは、顧客の規模で棲み分けがしっかりとしているので、現時点で組織を変える必要性は感じていません。ただ、ニフティを含めて今後の市場動向に合わせて、どんなフォーメーションでやるかは検討材料です。
ICTを活用することで、個人や企業、社会を豊かな社会に変えていきたい。
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