クラウドが国家競争力を生む
──今年度(2012年1月期)の国内成長率の目標は、どのくらいを見込んでおられますか。
宇陀 日本法人単独では売上高を公開していませんが、30%以上といっていい。ユーザー数でいえば前年度比で倍以上の伸びをみせています。当社はすでに、単にCRM(顧客情報管理)だけではなく、プラットフォームを提供するビジネスモデルに変わってきていて、単価は安いけれども全社規模で利用する事例が増えています。
現在、国内だけでも100万ユーザーを超えています。例えば、損保ジャパンは37万5000人の利用を公表しているし、日本郵政の利用者も10万人近い。
とはいっても、家電エコポイント制度を例にとれば、1500万人規模の利用を想定したシステムを構築しましたし、住宅版エコポイントも加えると4500万人規模にまでなります。ユーザー本人たちはセールスフォースを使っている意識がありません。
従来は1ユーザーで利用しているという意識がありましたが、プラットフォームなので、知らないところで自分が使っているということになってきました。
──この10年の間に、御社のビジネスモデルは大きく変貌しているわけですね。今後はどのようなことに取り組んでいきますか。
宇陀 東京に設置する新しいデータセンター(DC)と「Cloud 2」が二大キーワードになります。
新DCは2011年に稼働を開始します。日本には本当のクラウドの技術を浸透させたいと思っています。当社のプラットフォーム上でパートナーはさらに技術を磨き、新しいサービスを生み出すことができればいい。大手企業ばかりではなく、地方・中小企業が活躍できるように、協業を推し進めます。
「Cloud 2」は、モバイル、リアルタイム、コラボレーションがテーマ。スマートフォンなどのモバイルデバイスやTwitterをはじめとするソーシャルネットワークの利活用が広がっている現状に対応していくつもりです。
──今後、クラウドビジネスはどのように発展していくとお考えですか。
宇陀 これからは、ICTプラットフォームという考え方がより重要です。クラウドの利用によって、あらゆる業種・業態の関係者がサービスを組み合わせながら新しいビジネスを創造できるようになります。将来、日本が世界に向けて売っていくのは、単なるモノではなく、社会システムになるでしょう。
例えば、農園の温度管理や日照管理などのベストプラクティスを、クラウドで簡単に、しかも安く全国の農家で共有することで、日本の高い品質を輸出できます。
巷にあふれている「今の日本はダメだ」という声は聞き飽きました。日本にはすぐれたところがたくさんあります。クラウドで何でもできるとは思っていませんが、企業や産業のグローバル進出に少しでも役に立てればと思っています。
・こだわりの鞄以前の鞄はルイ・ヴィトン製で、15年ほど使っていたが「破れたので、昨年3月くらいに新しく購入した」。とくに、ブランドにこだわりはなく「いいモノ」「安くて丈夫なモノ」を求めていたという。ボッテガ・ヴェネタ製で、日本だと「28万円くらいはする」のだとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
歯に衣着せぬもの言いで、クラウドについて縦横に語る。その発言には、同社のクラウドサービスに対する確かな自信がのぞく。「単にCRMだけではなく、プラットフォームを提供するビジネスモデル」で、エコポイント申請サイトの構築などを手がけ、日本市場で着実に地歩を固めてきた。
同社をライバル視するマイクロソフトは、「Dynamics CRM Online」のユーザー拡大に躍起だが、どこ吹く風。10年遅れているとまで言い切った。
2011年は、新しいDCが稼働を開始。一段とユーザー獲得に力を入れる。2010年には、「Cloud 2」という新しい方向性を打ち出しており、ソーシャルネットワークの企業内活用を促進する考えだ。
長い目でクラウドビジネスを見据えている。あらゆる業種・業態の関係者によるコラボレーションが新ビジネスを創造し、ひいては高い国家競争力を生む。「あまり暗いことは話したくない」と笑いながら自分の考えを述べていた。(宮)
プロフィール
宇陀 栄次
(うだ えいじ)1956年8月3日生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、81年に日本IBM入社。日本IBM在任中は、大手企業担当の営業部門や社長補佐、製品事業部長、理事情報サービス産業事業部長などを歴任。01年、ソフトバンク・コマース社長に就任。04年3月、米セールスフォース・ドットコム上級副社長に就任。同年4月からはセールスフォース・ドットコム日本法人社長も兼務する。
会社紹介
2000年4月、米セールスフォース・ドットコムの日本法人として設立。アプリケーションの基盤となるクラウド型プラットフォーム「Force.com」やクラウド型CRM「Salesforce CRM」、導入支援コンサルティング/トレーニングサービスなどを提供する。もともとSaaSベンダーとして成長してきたが、近年はプラットフォームベンダーとして事業の幅を拡大している。なお、2011年に東京にデータセンターを開設する予定となっている。