従業員10人以下の中小企業・SOHO向けシステム提供を得意とするカシオ情報機器。ビジネス専用機「楽一(らくいち)」で知られるベンダーだが、近年、伸びが鈍化傾向にあった。この巻き返しの旗振り役として、昨年8月、常務取締役であった轟宏一氏が新社長に就任。得意業種で培ったノウハウを生かし、顧客の商売に直結するソリューションを仕立てて、新たな市場を開拓するという大改革を断行している。
「楽一」に頼らない戦略を打つ
──親会社のカシオ計算機からカシオ情報機器の社長に指名(2010年8月1日付で社長就任)された際の胸中はいかがでしたか。
轟 カシオ情報機器の業績が下降気味でしたし、日本の経済環境が厳しい状況でもあったので、正直、本当に自分でいいのかなと思いました。ただ、すぐに「やるからには、なんとしてもやり抜く」という強い意志に変わりました。
──社長に就任し、カシオ情報機器が持続的に成長を遂げるうえでの課題をどうみましたか。
轟 ここ数年はビジネス専用機「楽一」でメシを食ってきたといいますか、「楽一」のおかげで急成長を遂げることができました。とはいっても、全売上高に占める「楽一」事業の割合は4分の1に過ぎません。「楽一」の事業部門ばかりがクローズアップされ過ぎて、他の4分の3の部門が見過ごされていた感がある。本来は一緒でなければなりませんが、若干、バラバラになり始めているというのを自分なりに感じていました。
──「楽一」は経済産業大臣表彰を受けるなど、確かに、IT業界内でも目立った存在でした。
轟 私は「Wa(=和、輪、話、羽、倭、我)」という言葉が好きで、当社はここが欠けていると感じていました。まずは社内を一つにすることが重要と考えています。いま検討しているのですが、社員が会社を評価する調査機関のGreat Place to Work(GPTW)で調査・分析している「働きがいのある会社」で、できるだけ上位を目指そうとしています。これを目標にして、社内のみんなが目を輝かせる会社にしたい。
──その「Wa」という経営方針のもと、具体的に何をどうしていこうとしておられますか。
轟 「楽一」は際立って素晴らしく、顧客に確実にマッチしていました。ただ、近年、「楽一」が伸びなくなりつつあります。当社は「楽一」だけでなく、シナジー(相乗効果)を生む四つの事業を展開しています。一つは「SME(中堅・中小企業)事業」として、中小規模企業向けのソリューションがあり、小規模向けの「楽一」や木材・建材関係などの仕組みをもっています。また、「流通事業」としては、大手特化のホームセンターや小売業向けのPOPを使ったセールスプロモーションですごいシェアをもっていまして、大手500社のうち半数で使われているんです。
あとは特殊領域になりますが、「健康医療事業」として、調剤薬局や健保組合、フィットネスクラブ、動物病院などのシステム提供を得意にしているほか、「モバイル事業」として携帯電話や電子辞書に新たな利用シーンを創造するコンテンツを提供しています。このように幅広く事業を展開していますが、それぞれがバラバラになっていました。これらの事業を生かし、会社が一つになってシナジーを発揮しながら生き残る道は、SMEだと思っています。
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