「中小企業を元気にする」が合言葉
──SMEといっても、かなり規模の小さい企業層ということですね。最近は、ここを狙って多くのITベンダーが参入してきています。
轟 はい、中堅というよりは、どちらかというと中小企業・SOHO向けになる。最近では、大手ITベンダーなどがこの領域に手を出し始めていますね。ただしそれらは、しょせん、中堅・大手企業向けにつくったソリューションを下に降ろしたに過ぎません。この層にいる企業に働く人の人柄や実像を理解しないで提供している。当社の流通や健康医療事業は、大規模を相手にしています。そこでやっていた利用用途を、「楽一」の販売で培った中小企業・SOHOに対する展開のノウハウを生かし、SME向けに最適な商品に仕立てようとしています。これを当社では「エアボーン戦略」と呼んでいます。
──その戦略をもう少し具体的に教えてください。
轟 流通・健康医療向けの特性を噛み砕いて「楽一」ナイズに仕立て、中小・SOHO向けに横展開したい。例えば、先ほど触れたPOPですが、商店街を丸ごと相手にして、商店街にある小売店の皆さんがセールスプロモーションする際に共同で使ってもらうことなどを検討しています。これからの時代は、「地域コミュニティ」が重要だと考えています。リアルやサイバーのなかに地域があると思いますが、この地域活性化に貢献するために当社の多様なビジネスモデルを提供して、地域を丸ごと獲得するようなことをやりたい。
──地域を丸ごと手中に収める方法とは?
轟 「楽一」にウェブ機能を搭載し、商品を販売できる通販の仕組みができました。また、電子レジスターもネットレジになってインターネットに接続した売上集計管理サービスなどができますし、いま、クラウドを利用してPOPサービスを検討しています。こうしたサービスで、地域全体を「カシオ」で丸抱えで獲得するような提案ができる。あるいは大手スーパーを起点として、インターネット・サービスを使ったビジネス・ソリューションなどを想定しています。中堅・大企業向けに当社が提供しているシステムやソリューションが、下の層にどう展開できるかが、当社が生き残ることができるかどうかの重要な要素になると考えています。
──日本に中小企業は約432万社あり、その大半がITをうまく利活用できていないといわれています。そこをよく知るITベンダーは意外に少なく、ここにカシオ情報機器の出る幕があるはずです。
轟 そうなんです。全国各地に代理店がいっぱいありますので、当社の意思が全国に伝わりやすい。合言葉として「中小企業を元気にする」と言っています。当社には、泥臭く、何でも売ってこいという魂が根本にあって、中小企業・SOHO向けのビジネスに自信をもっています。ただ、「楽一」もそうですが、計算機やシステム系も含めて基幹システムを買っていただけない時代になりました。そこで、こんなキャッチフレーズを掲げています。「IT Front-Yard Supporter」。いまは、顧客の商売に繋がる提案をしないと、ITに投資していただけません。これを実現できれば、新しい市場に新しい切り口・用途で事業を伸ばすことができると考えています。
──これから具体的な戦術を組まれるのですね。
轟 当社で“頭脳”と呼んでいる「戦略企画部」という部署を新設して、新たな商品づくりと仕組みを考え各事業部へ落していくようにしています。
・こだわりの鞄市販のメーカー製品ではなく、職人が仕立てたハンドメイドの鞄。「機能性にこだわりがある」(轟宏一社長)と、営業職に長く就いていたこともあり、用途に応じた使い勝手を追求した逸品という。かなり年季の入った鞄だが、1泊2日程度の出張ならばこれ一つで十分足りるそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
山々に囲まれた長野県安曇野市の出身。地域特性もあって、身近にある山で滑るスキーが大好き。とくに「コブをガンガン攻める」(轟宏一社長)ことを好む。いわゆる「モーグル」で鳴らしたスポーツマンだ。
カシオ計算機に入った当時、システムエンジニア(SE)として入社したが「性が合わなかった」と、半年で営業職に転属してしまう。だが、これが吉と出た。カシオ情報機器が設立されて松本営業所長になると、持ち前の運動能力を発揮したかどうかは不明だが、「楽一」の販売で全国トップを獲得したほどの凄腕だ。
前任の前田憲一社長が、一人でどんどん決めて「ついてこい」というタイプなのに対し、轟社長は「Wa」という言葉を好むというほど、みんなで何かを成し遂げたいとする協調性を重視する。
期の途中の8月に突然就任することになったが、すぐに全社にトップの方針を伝え、次の成長へ向けて力をみなぎらせている。 (吾)
プロフィール
轟 宏一
(とどろき こういち)1957年9月、長野県安曇野市生まれ、53歳。1981年3月、東京理科大学理工学部卒業後、同年4月、カシオ計算機にシステムエンジニア(SE)として入社。半年後には営業職に転属。以降、営業畑を歩む。92年にカシオ情報機器の設立と同時に松本営業所長に着任。「楽一」販売の県別単位でトップの成績を収める。その後、2002年からの中部支社長を経て、09年に取締役、10年6月に常務取締役、同年8月から現職。
会社紹介
カシオ情報機器は1992年4月、カシオ計算機の100%出資子会社として設立された。中小企業・SOHO向けの基幹・業務システム販売を手がけている。ビジネス専用機「楽一」の販売会社として知られるが、流通、健康医療、モバイルの領域で中堅・大企業の顧客も多く抱えている。年商は約125億円。従業員は454人(2010年6月現在)。営業拠点は東は北海道から南は沖縄まで16拠点を構えている。