地場企業と組み、アジアで事業展開
――5月に開催された決算発表会の後、鈴木社長は今年の後半から、「IIJ GIO」をはじめとして、アジアでのビジネスを開始するというニュアンスで語られましたが、明言を避けておられる印象でした。アジアでのビジネス展開について、改めて教えてください。
鈴木 日本企業が拠点を海外に広げていく流れが加速しており、ITサービスやネットワーク環境を日本と同じように使いたいというニーズが高まっています。われわれは、これを受けて、アジアからスタートして、当社のサービスを海外でも展開していこうと考えています。主なターゲット市場は、中国とインド、それからタイなど東南アジアの諸国としていますが、国によっては政治的な混乱が起きていたりするので、サービス開始の具体的な時期についてはまだ不確定の部分があります。
当社は、今後のアジアでの事業展開にあたって、日系企業にサービスを提供するというビジネスモデルにとどまらず、地場の通信キャリアと提携して、OEMなどのかたちで現地市場に向けたネットワークサービスも提供していきたい。とくに中国では、IPv6や、機器同士が通信し合う「M2M」の市場が伸びており、IPv6/M2M関連のビジネスには、いろいろな可能性があるとみています。
――アジアで「IIJ GIO」やネットワーク関連サービスを提供するということは、現地のDCも利用していくということでしょうか。
鈴木 自前でもつか、借りるかは別にして、現地のDCを利用したいと思います。海外でDCを利用することになると、例えば並行して日本のDCも利用して重要なデータを国内に置くなど、データの分け方が重要な課題になってきます。
――冒頭、アウトソーシングサービスが伸びているとおっしゃいましたが、今後、御社のビジネスに刺激を与えそうな事業領域は何でしょうか。
鈴木 今、非常に注目を集めている分野は、ワイヤレス(無線)通信です。iPadやスマートフォンといった新型端末が普及し、高速なワイヤレス通信ができるネットワーク環境の需要が急増しています。スマートデバイスの利用は個人ユーザーから始まって、業務に活用する法人ユーザーも増えているので、社内ネットワークの改善・強化の分野に、新しいマーケットができつつあります。当社は、ワイヤレス関連サービスを提供するための技術的な準備を整えており、これからどんなかたちで企業に展開できるかについて検討している段階です。ワイヤレス関連の市場は、今後、大きな伸びをみせるとみています。
――2012年度以降の事業目標についてはいかがでしょうか。
鈴木 売上高の10%前後の成長は、来年度以降も続けていきたい。今後の事業拡大を目指して、システムインテグレータ(SIer)と組んでビジネスを展開したり、M&Aも想定できます。
――M&Aは、例えばどのような会社を?
鈴木 当社が今、外注しているような会社の買収が考えられます。
・こだわりの鞄鈴木社長は過去20年間、約700回にわたって海外へ出張したそうだ。ルイ・ヴィトン製のビジネス鞄を片手に、1400回も飛行機に乗った勘定になる。「ロンドンから日本へ帰国する直前に、部品が壊れて、ヒースロー空港の鞄屋で迅速に修理してもらったことある」とエピソードを語る。
眼光紙背 ~取材を終えて~
あくなき事業成長を目指しているIIJの鈴木社長。「当社はすでに17年前からウェブホスティングサービスを提供してきた、世界のなかでも老舗のインターネットサービスプロバイダ(ISP)だ」と鼻を高くする。クラウドコンピューティングが普及し、スマートデバイスが人気を集めているなかで、鈴木社長は「インターネットを得意としている」ことを前面に押し出すことで、コンペティターとの差異化を図っている。
鈴木社長はIIJのトップを務めるかたわら、雑誌やブログにコラムを連載し、本を執筆している。2009年に、講談社から鈴木社長が上梓したエッセイ集『言葉の水割り──酒と煙草と、ぼくの思いはインターネット』が刊行され、現在、アマゾンジャパンで星5つの「おすすめ度」を獲得している。インタビュー中にもタバコを手にした鈴木社長。エッセイ集のタイトルをみて、「なるほど、愛煙家だ」と思った。(独)
プロフィール
鈴木 幸一
(すずき こういち)1946年生まれの64歳。72年、早稲田大学文学部卒後、日本能率協会に入社し、インダストリアル・エンジニアリング(IE)や新規事業開発を担当。82年、日本アプライドリサーチ研究所の取締役に就任。ベンチャー企業の育成指導、産業、経済の調査・研究、地域開発のコンサルテーションなどに携わる。92年、インターネットイニシアティブ企画を創立、取締役に就任。94年に、インターネットイニシアティブ(IIJ)代表取締役社長に。
会社紹介
インターネットイニシアティブ企画として、1992年12月に設立。93年5月に現社名に変更し、同年11月、インターネット接続サービスを開始する。事業内容は、法人向けインターネット接続サービスとネットワーク関連サービスの提供に加え、ネットワーク/システムの構築・運用保守、通信機器の開発および販売など。2010年度(11年3月期)の売上高は824億1800万円。東京・神田神保町に本社を構え、グループ連結の従業員数は1944人(2011年3月末現在)。