約70億円を投じて大型DCを東京に開設
――今年6月、ラック換算で約1000ラック規模の大型DCを都内に開設されました。首都圏では三つ目とのことですが、東日本大震災で高まっている事業継続計画(BCP)やDR(災害復旧)ニーズの高まりは、御社のビジネスにとって追い風なのでは?
スミス まず、一人のアメリカ人として、先般の大震災については深く心を痛めています。被災地の方々が一日も早く平穏な日々を取り戻せるよう願ってやみません。
ビジネスの話に戻りますが、日本の震災や原発事故に伴う電力事情の悪化は、世界のユーザー企業のBCPやDRに対する意識を大きく刺激しました。先ほども触れたように、当社は複数のハブ型DCを軸に、世界中をカバーするDCネットワークを日々拡充していっています。現時点でのDC数は97か所ですが、ブラジルに2か所、香港とシドニーでDCの増設が決まっていますので、早々に100か所を超えます。アジアの東京、上海、香港、シンガポールなどを中核ハブ拠点とするDCネットワークは、BCPやDRにも大いに役立ちます。
東京の三つ目のDCは、約70億円を投じて新設したものですが、日本の多くの顧客から非常に強い引き合いをいただいて、驚いています。ただ、もし当社が東京にしかDCをもっていない事業者であるならば、果たしてここまで強い引き合いをいただけたか……。
――今、日系企業の多くが、急成長を続ける中国やASEANへの進出を加速させています。これに伴って、日系SIerも顧客とともに海外展開に積極的です。御社にとって、中国、ASEAN市場はどのような位置づけですか。
スミス この手のITビジネスは、北米地区がどうしても売り上げボリューム的に大きくなるのですが、しかし、伸び率でみるとアジア、とりわけ中国での成長幅が大きい。当社の業績も、北米のIT投資が回復してきていることや、アジア地区の伸びなどが後押しするかたちで、今期(2011年12月期)は前年度比25%ほど売り上げが伸びそうです。
中国については、ぐんぐんとマーケット規模が大きくなっている反面、規制緩和が追いついていない側面もあります。中国国内と国外の接続点に強力なファイアウォールがあったり、中国国内でも南部と北部の通信が微妙に遅延したり、事業者にとってみると、いろいろとノウハウが必要なところでもあります。グローバルサービスは当社の最大の強みですので、中国当局の理解を得ながら、進出を進めていきたい。幸いにも当社アジアパシフィック担当プレジデントには、香港出身で中国の情報通信業界に精通しているサミュエル・リーが就いていますので、心配はしていません。
今、日本のSIerは、中国やASEANなどに積極的に進出しています。DCネットワークの部分で日系SIerのニーズに応えて、より一層、協業関係を強めていきたいと考えています。
・お気に入りのビジネスツールお気に入りのビジネスツールはiPhone。「私のすべての情報がここに入っているといってもいいほど」という。さらに「ちょっと時間があるときはiPadを使い、ガッツリ仕事をするときはノートPCを使う」と、まるで今どきのITデバイス活用の模範のような使い方だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
エクイニクスは、ユニークなビジネスモデルで業績を伸ばしている。DCネットワークのハブ機能を担うことで、2007年から2011年の売上高の年平均成長率は約38%増の見込みだ。スティーブン・M・スミスCEOは、「業界で唯一のネットワークニュートラルなグローバルDCサービスプロバイダ」と自負している。
DCネットワークに特化することで、IBMやGoogleなどIT業界の巨人と競合するのではなく、協業関係を築いたことがビジネス拡大につながった。「敵をつくるのではなく、味方を増やす戦法」である。全世界におよそ100か所展開するDCネットワーク網は、例えば通信遅延を嫌う金融取引業界のユーザーやデジタルメディア、クラウドベンダー、製造業や流通サービスなど幅広い業種業態のユーザーから大きな支持を得ている。「ユーザーが多く集まれば集まるほど、“駅ナカ”は活気づく」と、ユーザー同士の相乗効果の最大化に努める。(寶)
プロフィール
スティーブン・M・スミス
STEPHEN M. SMITH
1956年、米国ニューヨーク州ポツダム生まれ。米国陸軍士官学校卒業。工学士。79年、米軍に在籍。太平洋方面駐在米軍の司令官付き副官を務める。87年、エレクトロニックデータシステムズ(EDS)入社。副会長補佐。02年、同社CSO(最高営業責任者)。04年、ルーセント・テクノロジーズのマネージド・サービス部門担当バイスプレジデント。05年、米ヒューレット・パッカードのサービス部門担当上級バイスプレジデント。07年、エクイニクスのCEO&プレジデントに就任。
会社紹介
エクイニクスの昨年度(2010年12月期)の連結売上高は前年度比38.3%増の12億2000万ドル(約976億円)と大幅に伸びた。M&Aなどが貢献して高い伸びとなった。今年度(2011年12月期)は、前年度比約25%増の15億2500万ドル(約1220億円)を見込む。2013年度の連結売上高は20億ドル(約1600億円)を目指す。