ソリューションビジネスを育てる
――これから御社が成長していくために、どんな手を打っていきますか。 影山 もともと強みとしてきたハードウェアのビジネスに注力していきます。ですが、どちらかというとハードウェア偏重のビジネスだったことは否めません。ハードウェアを売るんだというミッションが先行していたんです。難しいことですが、当社がどういう方向に向かっていくべきかをしっかりと考えていかなければなりません。
――粗利益が獲得しにくいハードウェアに偏りすぎた事業モデルから脱却しなければならない、と。
影山 これから目指さなければならないのは、「dynabook(ダイナブック)」やタブレット端末などのハードウェアの販売にこだわりつつも、周辺の付加価値ソリューションを提案する事業モデルをつくることです。ハードウェアのビジネスに、ソリューションビジネスを新たに加えていくというイメージです。
ソリューションビジネスの展開を推進するにあたっては、プラットフォームソリューション本部を立ち上げました。
なぜ、ソリューションか。利益が獲得できる持続的成長のために必要だからです。現状のままでは、売り上げを伸ばすことは難しい。コモディティ化が進めば進むほど、価格が下がっていきます。タブレット端末が続々と登場してきていますが、これも同様に、峻烈な価格競争が待っています。ハードウェア偏重から舵を切ることで、収益の改善につなげます。
ここで重要なのは、ストックという概念です。サービスや保守なども含め、ストックの売上比率を高めていくことが課題です。
――今年1月には、「Windowsプラットフォーム・ソリューション・センター」を社内にオープンされました。この狙いは?
影山 営業担当者のレベルアップや啓発に活用しています。一番の狙いは、お客様に足を運んでいただいて、Windowsプラットフォーム・ソリューションの導入のメリットを体感していただくことです。
――とくに関心をもっておられるソリューション分野やテクノロジーなどはありますか。
影山 ソリューションビジネスの展開にあたり、注目しているのがクラウドです。遅ればせながら、クラウドビジネスに参入するために東芝と検討を重ねています。国内のデータセンター事業者と提携して、IaaSを提供していくことを考えています。東芝のクライアントPC暗号化ツール「SmartDE」やクライアント管理システム「SmartUJ」のほか、中堅企業向け基幹業務ソリューション「AGENT3」などの業務パッケージのクラウドサービス化もアイデアとしてあります。当面はプライベートクラウドの形態でサービスを提供する方針ですが、パブリッククラウド形態の提供についても検討を進めていきます。
――売上目標は?
影山 昨年度の売上高は798億円でした。これを早いうちに引き上げて、1000億円企業になることが目標です。
・こだわりの鞄 東芝のデジタルプロダクツ&サービス第一事業部を去る際に、同僚から送別の品として贈られた鞄。ブランドは不明だが、「でかいので、1泊2日の出張でも十分なだけの容量がある。でもそんなに重くない」と、気に入っている様子。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ハードウェアの販売を主軸として安定した収益を上げていくのは、難しい時代になった。
東芝情報機器は、国内の法人向けのPC販売を担う中核会社としてのミッションを担ってきた。しかし影山岳志社長には、東芝「情報機器」にとどまっていられないとの認識がある。その認識の現れとして、「Windowsプラットフォーム・ソリューション・センター」の開設が挙げられる。さらに、クラウドサービスの提供に乗り出すことを検討している。
短期的にみれば、クラウドサービスを展開することによって売り上げが減少する可能性がある。だが、保守やサポートなどとあわせて、ストックビジネスの売上比率を高めることは、事業の永続性を考慮すれば避けて通れない戦略なのだろう。
ハードウェアビジネスに慣れきった企業体質を転換していくのは容易ではない。新社長の力量が問われることになる。(宮)
プロフィール
影山 岳志
(かげやま たけし)1960年1月12日、山口県生まれ。83年、早稲田大学商学部を卒業後、東芝に入社。97年、パーソナル情報機器事業部ワープロ部ワープロ営業担当課長。01年、PC事業部PC・情報機器営業部長。経営監査部参事、デジタルプロダクツ&サービス第一事業部国内企画部部長などを経て、11年6月1日、東芝情報機器の社長に就任。
会社紹介
1954年9月、川崎航空機工業と磐城セメントが共同出資し、川崎タイプライタを設立。1958年5月、東京芝浦電気(現東芝)が全株式を取得し、東芝タイプライタに社名を変更。1984年10月、東芝ビジネスコンピュータと合併し、東芝情報機器となった。国内市場における法人向けPC販売の中核会社であり、近年はソリューションビジネスの強化に取り組んでいる。