「ビッグアジェンダ」を軸にする
――とくに好調だった事業は何でしょうか。
橋本 サーバー、ストレージをはじめとするハードウェアの販売が非常に好調でした。IBMのテクノロジーが評価された結果だと思っています。システムの集約や災害対策のための運用のアウトソーシングなど、世の中の変化もうまく取り込めました。サーバーは、少なくとも第3四半期までに2ケタ成長しています。
このほかクラウドです。本格的に売るフェーズに入ってきました。もともとプライベートクラウドから提供を始めて、2011年はパブリッククラウドのサービスをかなり拡充してきました。これがぐーっと伸びた。まずは、プライベートクラウドを利用してクラウドに対する理解を深めたお客様が、パブリッククラウドと使い分けています。
1時間10円クラウド(IBM SmartBusiness Cloud─Enterprise)は、270社のお客様がついています。一番伸びたのは、「MCCS(IBMマネージド・クラウド・コンピューティング・サービス)」です。オープン系のサーバーをお客様が共有して使えるようにしています。もともとアウトソーシングで個別のお客様に提供していたサービスを改良したもので、これがとても売れている。無停止であるということや高い堅牢性、メインフレームと同等の品質を、安く提供できているからでしょう。
「MCCS」は日本で始めたサービス。今後はグローバルでも新しいサービスメニューとして横展開していきます。
――そのほかトピックスとして挙げるとすれば。
橋本 一つは、「IBM LotusLive」のデータセンターを日本に置いたことです。日本のお客様はより安心してクラウドを使っていただけます。
もう一つはスマーターシティ。これまで実証実験レベルでした。2012年以降、リアルなビジネスにしていきます。Smarter Cities Challenge(都市のスマート化のために、テクノロジーや技術支援を無償で行うプログラム)での東北大学の津波シミュレーション支援をはじめ、仙台市沿岸部の農業の復興を目指す仙台東部地域6次化産業研究会、石巻復興協働プロジェクト協議会への参画を発表しました。
――2012年の抱負をお聞かせください。
橋本 「ビッグアジェンダ(大きな行動計画)」がキーワードとなります。お客様もIBMも大局的な視点で、5年先のあるべき姿を考えてどうすべきか、戦略コンサルティング部門を起点に提案できるようにしていきたい。
課題は、スキルの強化。お客様のビジネスをわかっていないと提案などできません。インダストリスキル(業界知識)を磨いていきます。
パートナーとの関係強化にも努めたい。2011年12月には、パートナーとお客様のグローバル化を一緒に支援するチームを立ち上げました。スマーターシティやクラウドでの協業も進めます。
・お気に入りのビジネスツール 3年ほど前に、誕生日祝いとして奥さんにプレゼントされたモンブランのボールペン。「家族旅行でハワイに行く際に、女房に買ってもらった。書きやすいし、気に入っている」そうである。家族思いの橋本社長の人柄が伝わってくるエピソードだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
東日本大震災後の特定サービスの需要の高まりは、多くのベンダーにみられることである。正直なところ、BCP対策やクラウドサービス、ビジネス・アナリティクス分野の伸長は日本IBMに限った話ではない。同社では、「IBM Smart Business Cloud-Enterprise」や「IBMマネージド・クラウド・コンピューティング・サービス」の販売が好調だという。環境の変化を日本IBMがうまく捉えたということだろう。
スマーターシティをはじめとするスマート○○は、震災を受けて普及のスピードが速まっている特筆すべき分野だ。2011年に入り、Smarter Cities Challengeなどを通じて東北の被災地を支援。秋田市が同年3月に策定した「あきたスマートシティ・プロジェクト基本計画」にも参画している。
2012年は、「ビッグアジェンダ」をキーワードにする。スマーターシティやクラウド事業の伸展に伴い、パートナーとの関係構築も進めるという。(宮)
プロフィール
橋本 孝之
橋本 孝之(はしもと たかゆき)
1954年7月9日、愛知県生まれ。78年3月、名古屋大学工学部卒業。同年4月、日本IBMに入社し、ゼネラル・システムズ西日本名古屋営業所に配属。米IBMへ出向、帰国してから、93年1月に東京首都圏営業統括本部・第二営業部部長に、96年にAS/400の製品事業部長に就任。03年4月には、常務執行役員BP&システム製品事業担当に就任し、常務、専務と取締役を歴任した。09年1月から代表取締役社長。