SI業界を挙げて勝ち進む
――投資負担が大きいDCをフルに活用するクラウドコンピューティングの大きな潮流は、情報サービス業のなかでの格差が広がることが懸念されます。
岡本 私は、2012年、情報サービス業にクラウド化とグローバル化のパラダイムシフトが加速するとみています。クラウド化すれば、ユーザーのITコストは下がるので満足度は高まる一方、われわれSIベンダーの投資負担は大きくなります。グローバル展開にしても、ユーザーがアジアの成長国へ積極的に進出するなか、ベンダーも身銭を切って全力でサポートしなければならない。そこで、一つ提案なのですが、もう、こうなってきたら情報サービス業全体が大団結するのも手ではないでしょうか。
――「大団結」とは、どういう意味ですか?
岡本 クラウドやグローバル化が進む今、従来型の手組みの受託ソフト開発はだんだんと通用しなくなるのは明らか。クラウドやグローバル規模の先進的なサービスを提供し、ユーザーのビジネスを成功させてこそ、真のビジネスパートナーになれる。ところが、現状の主な情報サービスベンダーでは、規模がまだ十分ではないのです。ならば、有志ベンダーが団結することで、ユーザーの期待を超えるすぐれたサービスを提供することこそが勝ち残る道だと考えています。
――トップのNTTデータを除けば、年商3000億円規模のプレーヤーが5~6社ある“3000億円クラブ”の現状を変えなければならない、と。
岡本 “年商3000億円クラブ”って、もう古いですよ(苦笑)。将来的にはSIerトップ3くらいに集約されていかないと、おそらくユーザーの要望に応えられない。
もちろん、大きい会社が小さい会社をいじめるようではダメで、これまでの多重下請け構造を温存したままでは国際競争に勝てない。そうではなくて、それぞれ力量のあるベンダーが再編を経ていくなかで、世界のトップSIベンダーと伍していく規模と体力をつけていく必要があるということです。
グローバルサポートの面で、当社グループは中国・ASEANで主要13拠点、海外社員数約600人まで拡大、中国天津には1200ラック相当の高規格DCも運営していますが、まだまだ足りません。グループ会社の組織改革も前倒しで取り組み、国内外で事業拡大や収益力向上に努めています。目指すべきは、当然ながらトップであり、そのためには業界を挙げてグローバルでの競争に勝ち進んでいかなければならない。とりわけ、情報サービス業のビジネスモデルが大きく変わる2012年、業界再編を見越した大団結で、他社よりも早く“3000億円クラブ”から一つ頭を抜け出していく必要があります。
・お気に入りのビジネスツール キャッツアイ(猫目石)のカフスボタン。TISの担当役員としてフィリップス子会社との合弁事業に関する商談で赴いたとき、オランダ・アムステルダム市街で買った。「まだ通貨がギルダーで、店のマダムと(主に値段について)なごやかに話したことが印象に残っている」と懐しむ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ITホールディングス(ITHD)は2012年度(13年3月期)から新しい中期経営計画をスタートする。パラダイムシフトが起きるなかで、ビジネスモデルを本格的に転換する。なかでも重視するのが、先行投資や新規市場開拓に耐えうる強固な財務基盤や収益体質だ。
岡本晋社長は「米自動車業界のビッグスリーのように、いずれわが国の情報サービス業もトップ3に集約される」と見通している。これに備えて、さらに踏み込んだ“大団結”が不可欠。TISやインテックのような有力事業会社がより多く集まることで、財務基盤を強化し、収益力のより一層の強化を図っていく。ITHDはその中心的な役割を担う。
ITHDは、グループの本社系組織や事業会社、首都圏のオフィス、調達購買の統合・再編を前倒しで行っており、「トップを目指す体制づくり」を着実に推し進める。(寶)
プロフィール
岡本 晋
岡本 晋(おかもと すすむ)
1943年5月12日、東京生まれ。68年3月、東京大学文学部卒業。同年4月、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。75年、東洋情報システム(現TIS)入社。90年6月、取締役。92年4月、常務取締役。96年6月、代表取締役専務。04年4月、代表取締役社長。08年4月、TISとインテックホールディングスが経営統合。共同持ち株会社のITホールディングス代表取締役社長に就任。情報サービス産業協会(JISA)副会長。