インターネット接続プロバイダ(ISP)大手のニフティは、パブリッククラウドサービスの「ニフティクラウド」を戦略事業と位置づけ、重点的に伸ばしていく。ISPという安定収益源があるものの、固定系からモバイル系スマートデバイスへとネット接続環境が大きく変わるなか、いつまでも従来型のISP依存のままではいられない事情もある。ニフティクラウドでは、ビジネス利用を念頭に、SIやサービス、アプリケーションを提供するビジネスパートナーと密接に連携するなど、これまでのコンシューマ中心とは一線を画する事業形態をとっている。この6月にトップに就任した三竹兼司社長に話を聞いた。
「中途半端」に済ますつもりはない
──パブリッククラウドサービスの「ニフティクラウド」を戦略事業に位置づけておられますが、直近の状況はいかがですか。
三竹 富士通グループの一社として長年インターネット接続プロバイダ(ISP)を手がけてきた当社は、システムの維持運用や課金、セキュリティなど総合的なインフラをもっていることが大きな強みです。仮想化技術も社内でいち早く取り組んでいて、このインフラを広く一般のユーザーに使ってもらおうというのが、2010年1月に始めた「ニフティクラウド」なのです。おかげさまでスタートから倍々の勢いで伸びており、ユーザー数はすでに1000社を超えました。今期(2013年3月期)の同事業の売り上げは、ほぼ倍増を見込んでいます。
──クラウド事業は、インターネットと親和性が高い。グローバル大手のAmazon Web Services(AWS)などとの正面対決になりませんか。
三竹 クラウドサービスは、どちらかといえばドメスティックなISP事業とは性格が違うことは確かでしょう。本来ならばグローバル大手に勝って……と申し上げたいところなのですが、ここは彼我の差を現実として受け止めなければなりません。
正面から挑むのは不利ですので、ISPが手がけるクラウドサービスの特色、あるいは「ニフティクラウド」ならではの使い勝手のよさ、アプリケーションの豊富さを前面に打ち出していく必要があります。
──失礼な言い方ですが、御社はISPの安定収益に依存しすぎてしまって、ISP以外の事業が中途半端な感じになっている印象を受けます。
三竹 何をもってそんな印象を抱かれたのかはわかりませんが、「中途半端」にやっているつもりは毛頭ありません。これまでもネット通販、ブログ、動画投稿コミュニティなどさまざまな事業に挑戦してきましたし、これからも挑戦し続けます。ただ、ビジネスには勝ち負けがあるわけで、ネット通販ではAmazonや楽天、動画の分野ではYouTubeやニコニコ動画には勝てたとはいえません。当社のブログサービス「ココログ」では善戦しましたが、コミュニティの中心がソーシャルメディアに移行した後、じゃあFacebookに対抗できているのかといえば、やはり難しいものがあります。
──ISP事業のほうはどうでしょうか。売り上げが減っているように見受けます。
三竹 見かけ上の売り上げは、減少傾向が続くでしょう。理由は単純で、これまで通信回線を通信キャリア(事業者)から仕入れて、これにインターネットに接続するサービスを付加するかたちでユーザーから総額で代金をいただいていましたが、近年ではこの“仕入れて売る”部分に相当するキャリア回線部分については、キャリア自身で料金を回収する方向へと徐々に変わってきている事情があるからです。
当社は純粋にネット接続部分の付加サービスの料金だけをいただくかたちなので、キャリア部分の売り上げが目減りしているようにみえるわけです。とはいえ、今後は従来の主力だった固定回線系の接続ユーザーが大きく伸びるかといえば、LTEやWiMAXなど無線ブロードバンドへのシフトが進む動きも活発化していることもあって、正直、厳しいものがあります。
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