使いやすさ、わかりやすさで差異化
──再びニフティクラウド事業の話題に戻したいのですが、先ほど言及された使い勝手のよさやアプリケーションについてもう少し詳しく聞かせてください。
三竹 ミドルウェアやセキュリティ、運用管理などはライバルのAWSでも揃えていると思いますが、おそらく彼らは業種・業務の領域まではすぐには来ないとみています。グローバルで展開していて、そうそう各国の業種・業務まで踏み込んで、なおかつカスタマイズまでやり始めるとは思えない。カスタマイズをするとしたら日本のSIerなどからなるAWSのビジネスパートナーだと思いますが、であるなら、当社の「ニフティクラウド」をこうしたSIerの方々がもっとビジネスに活用しやすいように改善していくことで、より高度で複雑なサービスを提供できるようにするまでの話です。
──ビジネスパートナーの支持を得られるかどうかがカギを握りそうですね。
三竹 おかげさまで、「ニフティクラウド」では大手有力SIerやソフト開発ベンダー(ISV)の方々にビジネスパートナーになっていただいていて、すでに100社を上回る規模で推移しています。これからもパートナーの方々と密接に連携していくことで、使い勝手のいいサービスに仕上げていきたいと思っています。
──グローバル展開の可能性についてはどのように考えておられるのでしょうか。
三竹 富士通本体は、グローバルトップグループの一角を占めるITベンダーとして、海外事業を拡大していますが、当社はまずはアジア市場をメインターゲットとして、今年5月に官民投資ファンドの産業革新機構との合弁会社のグロザスを立ち上げました。まずはASEAN地域への展開を予定しており、ASEANへの進出拡大を目指す日本のユーザー企業のインフラとして「ニフティクラウド」を積極的に活用していく方針です。ここでもポイントとなるのは、単にインフラを提供するのではなく、各国の事情に即したサービスやアプリケーションをパッケージ化していくことです。ネット通販やコンテンツ販売で、例えばマレーシアで最もよく使われる決済や地場のソーシャルメディアとの連携部分など、事前に「ニフティクラウド」上に用意しておけば、投資余力や人的リソースが限られる中小企業やベンチャー企業にとって利便性が高いサービスになる。
──中小企業やベンチャー企業にとっては、大いに助かりますね。
三竹 最初は「日本語で使えるパブリッククラウド」というコンセプトで始まったくらいですから、どなたでも気軽に使えるサービスとして定着させていきたいですね。ネット通販に限っても、在庫管理のほかにサイトの構築や商品データの最適化、販売促進支援など、当社グループ内外のサービスを極力パッケージ化します。もちろん、他の業種・業務領域でもわかりやすいサービス体系をいち早く整備して、ビジネスパートナーやユーザーに提案していくことで事業を急ピッチで拡大させていきます。
・こだわりの鞄 「ダンヒル」のビジネスバッグ。「シンプルなデザインが気に入っている」とのことだが、実はこの鞄を買いに行ったお店が売り込み上手で、同時にDUNHILLのベルトも購入することになった。以前にDUNHILLの名刺入れも購入しており、「今では鞄、ベルト、名刺入れの三点セットで愛用している」そうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
富士通でパソコンを中心とするパーソナルビジネスの指揮を長らく執ってきた三竹兼司社長。FMVシリーズのパソコンはもちろんのこと、「今、愛用のスマートフォンは『REGZA Phone』で、今度は『ARROWS』の最新型も買い足す予定」(三竹社長)と、並々ならぬこだわりをもつ。ただ、サービスを販売することになるのはニフティが実質初めて。昨年6月に執行役員としてニフティに来たときは、「多少、戸惑いもあった」という。
もともと「守りよりも、攻めを得意とする」のが三竹流のビジネススタイル。実際、今年に入ってニフティは動物病院向けカタログ通販のプロミクロスの子会社化や、産業革新機構との合弁など矢継ぎ早に投資を拡大している。トップのバトンを引き継いだ今も「成長に向けた次の一手の準備を進める」と、従来の安定事業であるISPとは別に、クラウドやネットサービスなど次の収益の柱を早期に確立することに全力を挙げる。(寶)
プロフィール
三竹 兼司
三竹 兼司(みたけ けんじ)
1959年、東京都生まれ。82年、早稲田大学商学部卒業。同年、富士通入社。03年、パーソナルビジネス本部パーソナルマーケティング統括部長。07年、パーソナルビジネス本部長代理。10年、パーソナルビジネス本部副本部長。11年6月、ニフティ執行役員。12年6月19日、社長就任。
会社紹介
ニフティの昨年度(2012年3月期)の連結売上高は前年度比11.2%減の919億円、営業利益は同43.9%増の53億円。売上構成比の8割余りをISP事業が占める。今年度(13年3月期)連結売上高は同15.2%減の780億円、営業利益は同2.4%増の55億円を見込む。キャリア通信料金を含まないISP料金のみの商品構成へ変化しているために売り上げが減少しているが、収益力は依然として高い。