直近の中国情報サービス市場は、日本の約1.3倍の13兆円規模とみています。バブル経済化を防ぐための調整期に入っているとはいえ、それでも、労働集約型の産業構造から脱却していく過程で、ますますITの活用が進み、近い将来20兆円程度まで拡大することが予想されています。国内10兆円、中国13兆円という数字は、調査会社などのデータをもとに同業者間取り引きなどを除いた“真水”ですので、実態により近い。これだけの市場が創出されるわけですので、この10分の1、いや100分の1のシェアでも十分すぎるほどのボリュームがあります。
ただ、ご指摘の通り、中国にはさまざまな規制や制約がありますので、日系企業がなかなか入りづらい側面はあります。とりわけ大型プロジェクトには民間企業だけではハードルが高く、ときには政治的な仕掛けが求められることもあるかも知れませんが、グローバルビジネスでは必要不可欠な市場ですので、粘り強く取り組んでいきます。
──どのような方策で臨みますか。 岩本 単独資本では難しいので、地場SIerなどといかにパートナーシップを組むかがポイントになってくる。先に挙げた地銀の共同利用型システムのノウハウは、当社が強みとする領域であるとともに、中国でもニーズが高い。日本で言うメガバンクのような大手銀行向けビジネスは一足飛びには難しいとしても、地銀や信金クラスなら、過去の実績をみても、パートナーと組むなどして十分に受注可能だと考えています。
「Global One Team」で商材を届ける
──グローバル市場で競争力を高めるためには、他社にはないNTTデータ独自の商材も増やしていく必要があると思いますが……。 岩本 地域統括方式に移行するとともに、SAPやOracle、BI、テレコム、テスティングなどの商材や技術を「Global One Team」として組織横断で取り組む体制を構築しています。「Global One Team」は、世界中のあらゆる顧客にソフトやサービスを届ける役割も担っているのです。2000年代中盤からグローバル展開を本格化するにあたって、まずはSAPの扱いに慣れた海外のSIerを中心にグループに迎え入れてきた経緯があります。SAPならERP(基幹業務システム)として世界中で知られているので、ユーザー企業に「ああ、世界中でSAPベースのシステムをサポートしてくれるんだな」と理解してもらいやすい。その後も、OracleやBIなど、できる限り世界共通でわかりやすい商材を展開してきました。
とはいえ、ご指摘の通り、SAPやOracleは世界中のベンダーが扱っているわけですので、これからはもう少し独自性の高いものを投入していかなければならないのかもしれません。具体的には、地銀や信金の共同利用型システムも有力ですし、地域の病院や診療所をネットワークで結ぶ地域医療連携システムや、M2M(マシン・ツー・マシン)プラットフォーム「Xrosscloud」、エンタープライズクラウド基盤「BizXaaS」、国産のERP「Biz∫(ビズインテグラル)」、あるいは海外グループ会社が独自に開発した商材など、候補はいろいろ挙がっています。海外市場の動向や顧客ニーズなどを考慮しながら、効果の期待できる独自性を打ち出していきたい。
──ソフト開発の体制はどうでしょうか。 岩本 ユーザーから受注したシステムやアプリケーションソフトは、世界で最も適した場所で開発するオフショアやニアショア体制の整備も加速します。当社の単体ベースのソフト開発における外注金額のうち、中国など海外オフショアを活用している比率は直近で10%程度です。海外グループ会社では、インドや南米などのオフショア、欧州における南欧地域、アメリカにおけるカナダへの発注など、ニアショア体制も確立しつつあります。
今後は、世界の開発拠点を連携させ、時差を活用した「24時間開発」の推進や、ソフト開発の自動化を進めることで品質や納期、価格を抑制していく考えです。単体テスト工程の自動化ツールを活用した例では、すでに従来比40%のコスト削減を達成するなど、成果も徐々に出はじめています。開発の標準化や生産性を高めることで競争力を増し、世界トップベンダーに追いつき、追い越していきます。
・FAVORITE TOOL 「モンブラン」の万年筆。取締役に就いた2004年、「これからサインをしたり、お礼状を書くことも増える」として、夫人の父君から贈られたもの。適度な重さがあり「字がきれいに書けるような気がする」とお気に入りの様子。日常はスマートデバイスなどの電子機器を使うが、手書きのよさも大切にしている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
幼い頃の社会見学で、岩本敏男社長は、生まれ育った地のカメラメーカー、ヤシカの工場を見学した。長野県諏訪の生産ラインでは、女性作業員が一列に並んで部品を取りつけていた姿が強く印象に残った。「当時としては最新鋭のラインだったが、今から思えばずいぶんと労働集約型だ。しかし、ふとわが社、わが業界を見回せば、今でも手作業でソフトを組んでいる」という状況に疑問を抱くことになった。
そこで打ち出したのが、ソフト開発の自動化だ。「例えば自動車業界は、機械化によって人手を排除したことで、高品質な製品を、安く、短時間で生産できるようになった。今、われわれの業界に求められているのが、まさにこうした生産方式の近代化だ」と持論を展開する。ソフト開発の自動化は強力なITリソースが必要であり、ひと昔前までの非力なCPUやメモリ、ストレージでは実現は難しかったが、「今は十分なITリソースが容易に確保できる。あとは実行あるのみ」と、生産革新に並々ならぬ意欲を示す。(寶)
プロフィール
岩本 敏男
岩本 敏男(いわもと としお)
1953年、長野県生まれ。76年、東京大学工学部卒業。同年、日本電信電話公社入社。85年、データ通信本部第二データ部調査員。91年、NTTデータ通信(現NTTデータ)金融システム事業本部担当部長。04年、取締役決済ソリューション事業本部長。07年、取締役常務執行役員金融ビジネス事業本部長。09年、代表取締役副社長執行役員パブリック&フィナンシャルカンパニー長。12年6月、代表取締役社長。
会社紹介
NTTデータの昨年度(2012年3月期)の連結売上高は前年度比7.7%増の1兆2511億円。営業利益は同2.7%増の804億円。今年度(13年3月期)の連結売上高は同2.3%増の1兆2800億円、営業利益は同5.7%増の850億円を見込む。昨年度の海外売上高は2083億円に達し、今期は2200億円程度を見込む。直近の海外社員数は約2万6400人で、グループ全体の44.3%を占めるまでに拡大した。