シンガポールと香港に新DC確保を検討
──アジア全域に高速光ファイバーネットワークを展開するイメージは掴めましたが、DC設備をつくる予定はありますか。 東瀬 あります。2012年末までに釜山で中規模DCを開設しており、2013年中をめどにシンガポールと香港でDCサービスの立ち上げを検討しています。シンガポールは現在の印西DCの規模とほぼ同等の大きさで、香港は約半分ほどの大きさをイメージしています。
これまで印西DCを含め、首都圏3か所、関西圏1か所の4か所体制でしたが、これからは段階的にアジアの金融都市を中心にDCサービスを展開していこうと考えています。国内でも、先ほど触れた通り、首都圏でのDC設備の拡張を行う予定ですし、このバックアップ先の役割も兼ねて関西圏にもDC増設を視野に入れています。
当面は国内DCを4か所から6か所体制へ、海外DCを釜山、香港、シンガポールの3か所体制へと拡充していく予定です。印西DCは当社が自ら建設したものですが、すべてを自前でつくるのではなく、借りたり、買ったりと、資本効率が最もよくなるようバランスよく調達していく方針です。
──アジア主要都市に通信やDCサービスを展開していくのは、日系企業がアジア市場への進出を加速させているからですか。また、香港ではなく、中国本土でのサービス展開はどうでしょうか。 東瀬 当社は日本に本社を置く会社ですので、日系企業のアジア進出を支援していくのも重要な要素の一つです。これに加えて、欧米企業がアジア市場でビジネスを展開していくときのITインフラサポート、それから成長著しいアジア地場企業も当社にとって有力な顧客となります。実際、当社の直近の約2000社の顧客のうち、日系が6割余り、外資系顧客が4割近くを占めています。
中国本土については、規制が多いこともあって検討段階ではありますが、将来は金融都市である上海でDC設備の確保を目指したい。
──イギリスのコルト社とは兄弟関係にあるとうかがっています。 東瀬 コルトは当社と同じ米大手投資会社のフィデリティ・グループが出資している会社で、当社とは共通の大株主という意味で兄弟会社に相当します。コルトは欧州34都市にネットワークを展開し、19か所のDCを運用しています。顧客数は約3万5000社ですので、むしろ当社よりも会社の規模は大きい。コルトは欧州中心、当社はアジア中心という違いがありますが、ユーザー企業がグローバル展開を加速させ、経済そのものがボーダレス化していますので、コルトとの相互接続の強化を通じて顧客の要望に応えていくつもりです。
SIerやISVへのサプライヤーに徹する
──金融や通信系の顧客が多いとのことですが、ほかにはどういった顧客が御社の通信ネットワークやDCサービスを多く利用しているのですか。 東瀬 顧客構成比は金融系が約45%、通信系が約19%と、金融・通信系が主力なのですが、意外に引き合いが多いのがメディア系なのですね。インターネットゲームやネット通販などが有力で、高品質で大容量なITリソースを求められるケースが多い。欧米系だけでなく日本のデジタルコンテンツもアジアで人気が高いですから、当社と組んでビジネスを行う機会は増えるとみています。
──売り方についてですが、直販以外にどのような販路の拡充をお考えですか。 東瀬 SIerやソフト開発ベンダー(ISV)とは密接に連携していきたい。SIerの多くはアジア成長市場への進出意欲が高いユーザー企業を多く抱えていますし、日本のISVは海外でも自分たちのソフトウェアプロダクトを販売していこうという意識が高まっています。近年ではクラウド/SaaS型での提供形態が主流になりつつありますので、SIerやISVが自らのソフトウェア商材をクラウド/SaaS方式でユーザーに届けるためのITインフラとして当社が役立てると自負しています。
──ISVはともかく、大手SIerは自前でDC設備をもっているケースが多いですが、SIerとは競合しませんか。 東瀬 SIerが自前でDCをもっていたとしても、当社と補完できる関係であることに変わりありません。当社とSIerやISVとの関係をみた場合、当社はあくまでも彼らに対するサプライヤーのポジションです。高性能のDCや高速ネットワーク回線をアジア全域で提供するポジションで、このITインフラの上でSIerやISVが主力とするアプリケーションサービスを展開してほしいわけです。
──御社自身のビジネス目標を教えてください。 東瀬 実数をお話しするのは難しいですが、5年で売り上げを倍増したい。このためには、国内を含むアジア全域でのサービス展開を急ぐ必要があります。目標はアジアでナンバーワンのITインフラ系のサービス会社になることです。アジア地域で通信やITリソースを必要とする顧客に選んでもらえるようサービス拡充に努め、ビジネスを拡大していきます。
・FAVORITE TOOL カナダ製の携帯電話「BlackBerry(ブラックベリー)」。近年ではiPhoneやAndroid機に押され気味ではあるが、開発元のRIM社が運営する独自のネットワークサービスによって「世界中どこにいても電子メールがほぼ確実に読める」ところが気に入っている。出張が多い仕事柄、手放せないようだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
向こう5年で売り上げ倍増を目指すKVHは、持ち前の通信ネットワークや証券取引所との超低遅延接続サービスを武器に、アジア全域でのサービス拡充を急ぐ。KVHのビジネスモデルは同じく外資系のエクイニクスなどと共通する部分が多いとされ、高スペックなサービスは、金融や通信系ユーザーから根強い支持を得ている。
東瀬エドワード社長は、「SIerやISVとの関係では、当社はあくまでもサプライヤーのポジションにある」と、システムの売り手であるSIer、ISVと相互補完の関係を深めることでビジネス拡大を進める。
日系企業のアジア成長市場への進出意欲は一段と強まり、欧米企業からみても世界経済の成長センターであるアジア市場は魅力が増している。地場企業の成長も期待できるという状況は、アジア地域をビジネステリトリーとするKVHにとっては追い風だ。「アジア地域でのナンバーワンが目標」と宣言し、ITインフラ系のトップサービスベンダーを目指す。(寶)
プロフィール
東瀬 エドワード
東瀬 エドワード(ひがせ えどわーど)
1966年、ミャンマー生まれ。88年、米カリフォルニア大学デービス校国際関係学士号取得。90年、米ドレーク大学経営学修士号取得。同年、AT&T入社。98年、デルコンピュータ(現デル)入社。00年、アジアグローバルクロッシング入社。02年、グローバルクロッシング入社。上級副社長などを歴任。12年5月、KVH代表取締役社長兼CEOに就任。
会社紹介
KVHは1999年に設立。出資者は米投資会社のフィデリティ・グループ。本社は東京だが、グループ約450人の社員の国籍は実に26か国に達する。アジア全域でサービスを提供するために、人材を意識的にグローバル化してきた。今後はシンガポールや香港、上海などアジアの主な金融都市で、通信ネットワークやDC活用型のサービスを拡充していく。