沖縄クラウドでアジア市場を視野に
──医療といえば、電子カルテやレセプトコンピュータ(医事会計)が花形の印象がありますが、レントゲン画像の読影とは、またずいぶんニッチですね。 由利 まあ、そうでしょうね。しかし、電子カルテや医事会計は、富士通やNEC、日立といった大手が固めている市場です。それに対して、遠隔読影の仕組みはまだ立ち上がったばかり。医療は規制業種ですので、ITを活用する際にさまざまな制約がかかります。ついこの間まで、カルテなど病院内の重要な情報は外部のデータセンター(DC)に預けることすらできず、院内で保管していたほどです。DCは物理、論理の両面で何重にも防衛線が張られており、病院よりもはるかに情報セキュリティレベルは高いことがようやく理解され、今では信頼のおけるDCにデータを預けられるようになりました。
つまり、外部DCを活用した医療向けクラウドサービスは、まだ始まったばかりなのです。国は高騰し続ける医療費を抑制するため、病院や診療所、介護、検診などを地域医療連携ネットワークシステムで連携させ、地域単位で医療サービスを最適化していく施策を推し進めていますので、今後の市場の拡大も期待できます。
当社の「PACS(画像保存通信システム)」というレントゲンなどのデジタル画像関連のノウハウは、ここ15年ほど蓄積してきた実績があります。先ほどの医知悟のように、読影医や技師の先生方と密接に連携しながら、遠隔画像診断サービスに力を入れることで、この分野では大手が相手でも十分に競争力を発揮できるとみています。有望な市場にいち早く入り組んで、領域を限定しつつノウハウを蓄積することでニッチトップを狙う作戦です。
──先日、沖縄で御社グループ沖縄クロス・ヘッドの渡嘉敷唯昭社長にお話をうかがったところ、沖縄県が推進する「沖縄クラウド」事業と歩調を合わせてユニークなビジネスを展開しておられます。 由利 沖縄は首都圏と1500km以上離れていて、震災などで同時被災の可能性が限りなくゼロに近い。さらに、国内主要都市ではアジアの成長市場に最も近い位置にあるなど、沖縄ならではの地の利があるのですね。沖縄クロス・ヘッドは「CUMO(キューモ)」という独自のクラウドサービスを手がけていて、直近では沖縄と福岡の2か所のDCでサービスを提供しています。今年7月をめどに新たに香港のDCでもサービスを始める予定です。
インドのITベンダーと協業してASEANへ
──沖縄クロス・ヘッドは、グループ会社で沖縄と香港を結ぶグローバルインターネットエクスチェンジ「沖縄GIX」も運営していますね。 由利 アジア市場にこそ沖縄の地の利があるとするなら、やはりアジアのゲートウェイになるための仕かけも必要だと考えたからです。ただ、実際は、沖縄が日本とアジアを結ぶゲートウェイとして、名実ともに存在感を高めてくるまでは、正直、まだ先行投資段階である点は否めません。今は多少苦しくても、将来を見越して投資していきます。
──ネット通販の楽天は御社に31%ほど出資している筆頭株主です。どう連携していますか。 由利 楽天が創業間もない頃、当社の前身のニチメンデータシステム時代に、IT先進国の米国から技術を導入して楽天のシステム構築に協力したことが始まりで、その後、出資もいただいたという経緯です。当社が楽天のすべてのシステムを構築しているわけではありませんが、それでも要所要所で参画するとともに、当社で独自にネット通販の受注管理を大幅に自動化する「楽楽バックオフィス」も開発しています。
ネット通販を手がけるユーザー企業の多くは、自社で通販サイトを立ち上げると同時に、楽天をはじめとする複数のモール型サイトにも出店するのが主流なのですね。複数の直営やモールの出店など複数の店舗から入る受注や配送、在庫管理などのバックオフィス業務を自動化する「楽楽バックオフィス」は、使い勝手のいいSaaS型サービスということもあってご好評をいただいています。
──グローバル展開については、どのように考えておられますか。 由利 この年初に、インドの有力ITベンダーのサティヤムコンピュータサービスと、ASEAN地域におけるヘルスケア市場開拓で提携すると発表しました。先述した医知悟や遠隔読影など医療情報クラウドサービスをASEAN地域で共同で提供するという内容です。サティヤムはシンガポールやマレーシアでDC設備を運用しており、サービスを提供するに当たってはこのDC活用するとともに、今後は人材育成や製品・サービス開発でも協業する方針です。
まずはシンガポールやマレーシア、フィリピン、インドなどいわゆる英語圏とされる地域への進出を優先したい。英語圏は単に言葉が通じるというだけでなく、各種規制も他の英語圏と通じるものが多く、ビジネス環境が比較的整っているからです。また、海外でも自社の強みを生かす“ニッチトップ”のアプローチを前面に出していくことでビジネスを伸ばす考えです。
・FAVORITE TOOL イタリア「Pratesi(プラテージ)」の鞄。「医師だったおじが、患者の一人からプレゼントされた品。高齢でおじが引退した後、譲り受けた」と由利社長は入手の経緯を語る。鞄は今も第一線で活躍中だ。「とても重くて、手がマメだらけになっても、顧客から感謝される大切さの重みだと思い、愛用している」と話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
由利孝社長の会社経営のこだわりは「全員参加の企業文化」である。
大手がひしめく情報サービス市場において中堅SIerが勝ち残るためには、競争力のある事業ポートフォリオをできるだけ多くもっておくことが有利に働く。それぞれの事業部門ごとに、ターゲットとする市場の成長可能性や自社がもつ経営資源、ライバル他社、顧客ニーズを自主性をもって取り組むことで、「アメーバ経営的な強さを発揮できる」と考えるからだ。
2000年に社長に就いてから、これまで最も苦心してきたのが実はこの点で、「もしも、会社という何か既得権益のようなものにぶら下がる考えが蔓延してしまったら、当社クラスの規模ではとても競争力を保てない」と、常に危機感をもって経営に当たってきた。
由利社長は「各部門、各グループ会社のメンバー全員がグループ経営の考えを共有したうえで、それぞれ自立して成長できれば、結果としてグループ全体の成長につながる」と考えて、全員参加の経営を強力に推進する。(寶)
プロフィール
由利 孝
由利 孝(ゆり たかし)
1960年、東京生まれ。83年、早稲田大学理学部を卒業し、ニチメンに入社。87年、テクマトリックス出向。96年、アドバンストシステム営業部長。98年、取締役アドバンストシステム営業部長。00年、ニチメンを退職するとともに、テクマトリックス社長に就任。
会社紹介
テクマトリックスの2013年3月期連結売上高予想は前年度比4.7%増の160億円、営業利益は同9.1%増の10億6000万円の見込み。筆頭株主はネット通販大手の楽天。グループ会社に医療関係者との合同会社や、沖縄クラウド事業を手がける事業会社など幅広い事業ポートフォリオを展開。それぞれの分野で自社の強みを生かしたニッチトップ戦略を展開することで業績を伸ばす。