イノベーションに貪欲な企業文化を重視
──ファイル転送サービス「宅ふぁいる便」を知っている人は多いと思うのですが、平山社長はこのサービスの生みの親だそうですね。 平山 生みの親というか、大阪ガスの情報通信部に在籍しているときに事業化しただけですよ。当初は大阪ガスの社内ベンチャー的に始まったサービスですが、事業化するにあたってグループ会社のエルネットに移管しました。今では個人、法人の両方にご活用いただいています。
──当時としては相当斬新なサービスだったわけですが、保守的な印象がある社会インフラ系企業のなかで生まれたのは意外です。 平山 その印象は必ずしも正しくなくて、大阪ガスは新しいことやイノベーションに貪欲な気質が強い会社なのです。「宅ふぁいる便」もそういう土壌のなかから生まれましたし、ほかにも大阪ガスケミカルなどは光学レンズの役割を果たす特殊な樹脂の開発で有名で、モバイル機器のカメラレンズとしても採用されています。
──御社もそんな気質を受け継いでいる、と……。 平山 もちろんです。むしろ新しい技術にチャレンジしていく企業文化こそがオージス総研の特色でもあり、私が経営にあたるなかで最も注意を払っている点です。具体的にはアジャイル開発と反復開発、OSS(オープンソースソフト)、クラウド基盤の構築などの分野にはいち早く取り組んできました。日本の情報サービス業は伝統的にウォーターフォール型の開発手法が依然として多いのですが、この方式は大規模開発には向いていても、小規模で変化が激しいシステム開発には不向きです。
ご存じの通り、国内情報サービス市場は成熟度が高まっていて、かつてのような大規模システム開発案件はそうそうはない。ユーザー企業を見渡してみると、外部環境の変化に合わせて、既存のシステムに追加するかたちでつくり直すといった中小規模の開発が多くなってきていますし、さらにOSSやクラウドを活用して、早く、安く開発してほしいというニーズが高まっています。
これは国内だけでなく、世界を見渡しても同じような流れがみて取れます。世界のソフトウェア開発の3割余りがアジャイル方式によって開発されており、2割が反復開発。この二つを合わせるとすでに半分余りがアジャイル・反復開発で占められているということになります。国内は恐らく9割方が従来型の開発手法で、残念ながら当社もまだほぼそれに準じた比率に甘んじています。
変化に適応する「100年アーキテクチャ」
──開発手法そのものを見直していく、と。 平山 アジャイル開発については、早い段階で世界水準並みの3割くらいには高めたい。このためにも、現在はアジャイル開発を行える技術者約70人の体制ですが、これを150人体制へと倍増していく予定です。反復開発については、最近、大阪ガスグループ向けの営業支援システムに適用したばかりです。3回ほどの反復で、営業マンが使いやすいものに、素早く仕上げることができました。成果物のプロトタイプが早い段階でできあがりますので、実際にユーザーに操作してもらって手直しをかけていく手法です。最終形態の詳細を開発着手の段階から決めておくウォーターフォール型と異なり、詳細設計などのドキュメントも自ずと簡素なものになります。技術者はプログラムのソースコードを読みながら手直しや開発作業を進めていきますので、ソースコードそのものがドキュメント代わりになるわけですね。
──ドキュメントかソースコードかは、業界内でも意見が紛糾する部分ですが、平山社長はどうみておられますか。 平山 結論からいえば、ユーザーはドキュメントがほしいわけではあません。ITを活用して業務を効率化し、あるいはITを活用して新しいビジネスを生み出したいわけですよね。であるなら、われわれIT技術者は仕様書ではなく、ソースコードを書くべきだと考えています。
──つまり、技術者はソースコードに戻れということですか。 平山 上流工程指向が行き過ぎて、ソースコードが読めない技術者が増えると、必然的にドキュメントが増えます。当社は100年使い続けられるシステム設計、すなわち「100年アーキテクチャ」を標榜しており、どのような外部変化にも対応できる柔軟性を重視していきます。つくっては壊し、つくっては壊し……というコストや労力を無駄にするシステムづくりはもうやめるべきです。当社がOSSにこだわるのも、ソースコードを読める技術者さえいれば、手直しを加えやすいからです。
──外部設計をつくり、あとは開発会社に丸投げという多重下請け構造を残したままでは、ソースコードの中身がブラックボックス化してしまい、とても100年アーキテクチャは実現できません。 平山 SIerやソフトウェア会社の技術者がソースコードに触れる文化が再び戻ってくると考えています。昨年10月、楽天グループのフュージョン・コミュニケーションズと共同でネット通販向けインテグレーションPaaSを構築したときも、OSS方式のエンタープライズサービスバス「MuleESB」を活用しています。クラウドサービスとオンプレミスをインテグレーション(連携)させるPaaSなのですが、変化が早いネットビジネスで柔軟に対応していくためにはソースコードレベルで理解する能力が欠かせない。当社はそうした技術を徹底的に磨くことで勝ち残ろうと考えています。
・FAVORITE TOOL Amazonの電子書籍リーダー「Kindle」。電子ペーパー「E Ink」の読みやすさだけでなく、「文字を選択すると辞書と連動して解説してくれるところも便利。とくに洋書を読むときは、わからない単語を調べる手間が省ける」と、電子書籍ならではの機能がお気に入りの様子だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
平山輝社長は、基本的に新しいもの好きな人である。米国の大学では最先端の人工知能(AI)や音声認識を学んだ。「何事にもチャレンジしないと進歩もないし、変化が激しいIT業界では生きていけない」と考える。
お気に入りのビジネスグッズで挙げてもらったのは、Amazonの電子書籍リーダー「Kindle」だ。ほかにもスマートフォンやタブレットなど、一通りのガジェットを持参していただいた。平山社長は「電子機器一つを挙げても、次から次へイノベーションが起こるのは、それだけチャレンジする人が多いからだ」と、イノベーションでリードするには、チャレンジの件数の多寡でほぼ決まってくるとみる。
情報サービス業においても、日本発のチャレンジを増やさなければ、新しいイノベーションは起きない。「10のチャレンジをしても、実際に実を結ぶのは一つあるかないかの厳しい世界。しかし、チャレンジしなければ何も始まらない」と、挑戦し続ける企業文化を重視する。(寶)
プロフィール
平山 輝
平山 輝(ひらやま ひかる)
1953年、大阪府生まれ。77年、早稲田大学理工学部卒業。大阪ガス入社。カリフォルニア大学修士。米国MIT、SRI Internationalなどで人工知能を中心としたソフトウェア研究開発に従事。大阪ガス情報通信部長などを経て2009年から現職。
会社紹介
大阪ガスグループのオージス総研の2012年3月期の連結売上高は535億円。構成比は大阪ガスグループ向けが約3割、グループ外が約7割。主要グループ会社は、宇部情報システム(山口県)、さくら情報システムで、中国・上海とシンガポールに現地法人を展開する。2020年までにはM&A(企業の合併と買収)も活用しつつグループ年商1000億円規模をイメージする。