MDMを攻めのプラットフォームとして提供
──モバイル系では、MDM(モバイル端末管理)サービス「VECTANT SDM」も好調のようですね。 齊藤 MDMというと、モバイル端末を管理するというセキュリティを中心としたサービスを提供するのが一般的です。当社も、スマートフォンやタブレット端末など、スマートデバイスの管理や制御、盗難や紛失など緊急時のリモートロックというMDMの基本機能を提供しているのですが、そうしたセキュリティ機能に加えて、攻めのプラットフォームとして使ってもらいたいと考えています。具体的にいえば、お客様が現場でスマートデバイスを有効活用するために必要な仕組みを提供しています。スマートデバイスに業務で必要なアプリを表示する機能によって、効率化できることを提案しているわけです。
例えば、店舗のスタッフが在庫管理のアプリを使って来店者を接客したり、レジのアプリで会計したりすることもできます。また飲食店では、来店者がスマートデバイスで注文する仕組みも整えることができます。専用端末なら、コストが非常に高くつきますが、スマートデバイスであれば、1端末あたりの価格が安くなります。お客様にとっては、端末を管理しながら、コストをかけずにワークスタイルの変革を実現することができます。さらに、1台の端末のデスクトップを個人用と会社用に使い分ける「BYOD(私的デバイス活用)機能」にも5月末に対応する予定です。社員の個人用の端末を仕事用にも安全に使うことができるようになります。
──「VECTANT SDM」についても、付加価値を提供する策はあるのですか。 齊藤 先ほど「VECTANT SDM」を“攻めのプラットフォーム”と申し上げたのですが、そのプラットフォームと連携する付加価値サービスとして、「VECTANT SDM」のユーザー企業に「VECTANT マーケット」を提供しています。このマーケットでは、さまざまなアプリケーションを提供する予定で、現在、10社程度のアプリケーションベンダーと話を進めています。今後も、アプリケーションベンダーとのアライアンスを拡大していくつもりです。
──「VECTANT マーケット」は、ビジネス領域を広げることにつながりますか。 齊藤 専用線などネットワークサービスでは、これまで広帯域という点でサービス事業者がお客様になるケースが多かったのですが、「VECTANT マーケット」でさまざまなアプリを提供することによって、一般企業をお客様として獲得できます。一般企業のお客様が「VECTANT マーケット」を使えば、ネットワークが必要となる。その意味では、当社のネットワークサービスを販売しているパートナー企業にとって新規顧客を開拓することにつながります。
また、アプリ開発を得意とするSIerに売ってもらう機会も増やしていきたいと考えています。クラウド事業者とパートナーシップを組むことも視野に入れています。こうした点でも、領域を広げることにつながると捉えています。さらに、アプリケーションを拡充する方法として、別の角度からベンダーとのアライアンスに加えて買収も視野に入れています。
──買収も視野に入れている、と。 齊藤 現段階で具体的な案があるわけではありませんが、アプリ開発で小規模でも尖がった技術をもったベンダーがいれば、積極的に買収したいと考えています。
アプリケーション領域でアライアンスを強化
──「VECTANT SDM」や「VECTANT マーケット」によってビジネス領域を広げようというわけですが、競合が増えていく可能性があるのでは? 齊藤 もちろん、あると思います。ほかのベンダーも同じことを考えているでしょうから。ただ、「VECTANT SDM」や「VECTANT マーケット」のようなプラットフォームをもっているベンダーは少ない。その点では、アドバンテージがあります。しかも、ネットワークサービスを提供していることも強みです。当社のネットワークサービスに加えて「VECTANT SDM」や「VECTANT マーケット」も導入したお客様は、そう簡単にネットワークサービスを他社に切り替えることはできないでしょう。だから、競合が増えたとしても十分に戦えるとみています。
──情報通信関連市場について、どんな見通しをもっておられますか。 齊藤 広帯域の需要はますます増えるでしょう。スマートデバイスが普及すれば、それを支えるネットワークは不可欠となります。さらに、海外拠点との接続など、国内外を問わずにニーズが高まってくるといえます。すでに、100Gbpsを求める声も出ています。広帯域化はますます進んでいくでしょう。一方、サービス料金が上がることはない。つまり、ネットワークサービスだけではビジネスが成立しなくなるというわけです。
──そんな市場で、どのような事業構想を描いておられるのですか。 齊藤 売上比率は現在、専用線が6割、インターネット関連が3割などになっています。今後は、この比率にアプリ関連が加わることになります。アプリ関連の比率は、データセンター関連が1割です。アプリ関連を早期に1割まで引き上げます。ネットワークインフラからアプリケーションまでをカバーして、売り上げの伸びについては2015年度までに現状の15%増を目指しています。
・FAVORITE TOOL 「鞄が大好き」で、ブランドやデザインを問わず、多くのアイテムを集めている齊藤氏が紹介してくれたのが「素材が柔らかくて使いやすい」ということで、一昨年に購入したビジネスバッグだ。気に入ると、「つい購入してしまう」のだとか。そのため、自宅にはコレクションのように、ずらりと鞄が並んでいるそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
丸紅に入社した齊藤秀久氏は、電力業界向けビジネスや社長室など、さまざまな業務を経験し、情報通信事業部長に就任したことをきっかけとして情報通信業界の世界に足を踏み入れた。丸紅アクセスソリューションズの前身となる会社の責任者を任されたのは1999年。その後、複数の海外拠点を経験して、再び社長として手腕を振るうことになった。
情報通信に携わってから10年以上が経過した現在、「昔はブロードバンドといっても1.5Mbps。その時代と比べると、帯域は大きく進化した」と実感している。広帯域化は今も進行中だ。「DC事業者に限らず、今では一般企業でも10Gbpsがあたりまえ」とみている。
そのような世界だからこそ、「社員には、現状に満足しないで新しいことをみつけてほしいと考えている」という。そのなかで、同社が新しいビジネスとして踏み込んだのは、アプリケーション領域だ。「ネットワークインフラをベースに、上のレイヤを中心とした企業として成長する」と断言する顔には自信がみなぎっていた。(郁)
プロフィール
齊藤 秀久
齊藤 秀久(さいとう ひでひさ)
1951年12月2日、東京都出身。75年3月、慶應義塾大学法学部卒業後、同年4月、丸紅入社。情報通信事業部長などを経て、01年7月、ヴェクタントジャパンに社長として出向。02年11月、グローバルソリューションに社長として出向。その後、本社の広報部長、シンガポール支店長、インドネシア総代表、本社の執行役員などを経て、10年4月、グローバルアクセスの社長に就任。同年12月、丸紅アクセスソリューションズの社長に就任、現在に至る。
会社紹介
1997年11月、グローバルアクセスという社名で設立。2010年、丸紅のIT事業戦略を担うヴェクタントグループのグローバルソリューションと統合し、丸紅アクセスソリューションズとなる。通信インフラ、専用線、IP-VPNサービスなどを法人向けに提供。最近は、スマートデバイス関連のMDM(モバイル端末管理)サービス「VECTANT SDM」など、ビジネスの幅を広げている。