石油も先端ITも乏しい現実を見よ
──ITや情報サービスの分野では、残念ながら日本が世界をリードしているとは言い難い状況ですので、世界の最先端技術を目利きできる御社の強みは、やはり“商社的”という印象を受けます。買い付けに有利になるよう、語学力を高めるTOEIC試験などを課しているのでしょうか。 菊地 何か勘違いされているのかもしれませんが、少なくとも私が知っている商社ではTOEIC何点以上とかは、あまり意味がありませんよ。
例えば、石油は日本にありませんから、海外から買ってこなきゃなりませんよね。外国語ができなきゃどうやって買うんですか。ITだってそうでしょう。あなたの言う通り、ほんとうに進んだ技術は海外からもってくることが欠かせないのに、「外国語ができません」ではどうするんですか。技術も学べません。顧客はそうした石油やITのように海外調達が欠かせないものを求めているわけで、当社はそうした需要に応えてきたからこそ、ここまで成長できた。
伊藤忠に入社してエネルギー部門に配属され、その後はロンドンや、中東のオマーンで勤務した経験からそう思っています。ただ、CTCに来てからIT特有のアルファベット2文字とか、3文字のIT用語や概念は、正直、難しい。米国の先駆的なITベンダーのトップに会うたびに、新しい用語や概念を吹き込まれ、帰りの飛行機のなかで反芻するわけですが、そのまま受け売りで顧客に伝えても、何のことかわからない。自分なりに消化して、日本の顧客にわかりやすいよう変えていかなければならない。こうしたことが外国語うんぬんより想像以上に難しくて、苦労しています。ITの世界は進化が速いですから、際限なく学ばなければなりません。
──ただ、そのアプローチですと、NTTデータや野村総合研究所(NRI)のように欧米市場へ進出するのは難しくないでしょうか。欧米と日本・アジアの技術進歩の時差を利用した、ある種の「タイムマシン経営」的な要素が多いですから。 菊地 インターネットが発達し、とくにITでは新しい技術が瞬時に世界中に知れ渡る現代にあって、タイムマシン経営は限界があります。当社が強みとしているのは、あくまでも世界最先端の技術を用いて設計・構築から運用までできるというSIerとしての技術力の高さなのです。ITではたまたま米国が進んでいるので、米国のベンダーから商材を引いてくるケースが多いというだけです。
CTCの強みをまずはASEANに展開する
──最先端の商材を用いたSIerとしての技術力の高さが御社の強みだと。 菊地 そうです。先ほど名前が挙がったようなライバル他社が、当社ほど新しい商材を貪欲に国内へもってきているとは思えません。過去を振り返ってもサン・マイクロシステムズ(現オラクル)のサーバー、シスコの通信機器などをベースにしたSIで、当社技術者は顧客から高い評価をいただいています。この技術力を維持・向上させていく投資は、今、まさに強化しているところです。技術者の評価制度に関しては、例えばフェローのようなすぐれた技術者を積極的に選抜し、報酬とも連動させる。これまでは名誉職的な色合いが濃かったのですが、報酬面でもしっかりと評価できる仕組みにすることで技術力を向上して、国際的な競争力を高めていきます。
──ASEAN以外にも中国や南アジア、欧米などへのグローバル展開を加速させていく、と。 菊地 昨年タイへ進出したばかりで、近隣アジアでやっと3拠点の状態ですから、まだちょっと気が早いですよ。冒頭で指摘されたように、これまでCTCはドメスティックな会社といわれても仕方ない状況でしたので、まずはASEANでの足場をきちんと固めます。グローバルビジネスがあたりまえの商社から来た私からみれば、日本の情報サービス業そのものがドメスティックで、これをどうグローバル化していくかが大きなテーマとなります。
当社が導き出した答えは、繰り返しになりますが、強みである世界最先端のITを駆使したSI、とくに基盤系システム構築の強みを日本国内だけでなく、広くアジア市場へ展開していくことです。欧米の進んだハードやソフトをただアジアにもってくるだけではありません。当社の先端商材を生かした設計・SI力、運営力をアジアで展開するのです。これは当社ならではの強みですので、タイ、マレーシア、シンガポールのそれぞれの会社の強みを学び取るのと並行して、日本のCTCの強みもどんどん向こうに移植していきます。
──海外でのビジネス規模は、どのくらいをイメージしておられますか。 菊地 海外法人のマレーシアとシンガポールの2社については、直近の2社合計の売り上げは約170億円で、今の伸び率を勘案すると早い段階で200億円規模への成長は可能だとみています。将来的なCTCグループ全体の売り上げを目標を4000億円だと仮定すると、うち10%を海外で売り上げようと思っています。逆算してまだ足りない分については、新規のM&Aも視野に入れていきます。
・FAVORITE TOOL 「赤ペン」を愛用している。執務室や自宅書斎など「手に届くところに常に置いている」とのこと。部下から手渡された資料は、緑の蛍光ペンで要点をチェックし、赤ペンでゴリゴリとダメだしする。同社の広報部門にも「真っ赤になった発表資料が社長から戻ってくることもある」と、部員の一人は語る。
眼光紙背 ~取材を終えて~
CTCの菊地哲社長は「場を広げる」ことを重視している。この「場」とはアジア成長市場への進出という「地理的な広がり」を指す。公共・公益分野などこれまでCTCがあまり強くなかった分野を強化する「業種・業態の広がり」。そして従来の客先設置型のシステムからクラウドをベースとした「ITの新しい形態への広がり」である。
折しも国は「3本の矢」(アベノミクス)の一つとして「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」と題した成長戦略や、「社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)」の導入を相次いで打ち出している。国内ではこうした公共・公益分野への深耕を進め、海外ではASEANを軸に進出を加速させる。
「経営リソースは限られており、重点分野を決めてリソースを振り分けるのは経営の仕事」と、広げるべき「場」を明確化することで成長につなげる考えだ。CTCは世界最先端のITを目利きし、基盤系のSIにつなげる突出した技術力を誇るSIerで、この強みを今後も国内外で生かす。(寶)
プロフィール
菊地 哲
菊地 哲(きくち さとし)
1952年、秋田県生まれ。76年、東京大学法学部卒業。同年、伊藤忠商事入社。87年、CIPCO(U.K.)へ出向(ロンドン駐在)。97年、伊藤忠商事マスカット事務所長(オマーン駐在)。06年、執行役員。08年、常務執行役員経営企画担当役員兼CIO。08年、代表取締役常務。12年6月、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の社長に就任
会社紹介
伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の2013年3月連結売上高は前年度比8.3%増の3224億円、営業利益は同9.6%増の271億円。4期ぶりに年商3000億円台に回復した。今期(14年3月期)売上高は同7.0%増の3450億円、営業利益は同3.0%増の280億円を目指す。将来的に年商4000億円を視野に入れつつ、M&Aや技術力向上などへの投資に力を入れる。