ソリューション創造に向けて新組織を設置
──ユーザー企業の業務効率化や生産性向上を視野に入れたビジネスを手がけていくわけですが、一朝一夕には実現できないのでは? 和田 もちろんです。当社自身も大きく変わらなければならない。そこで、今年4月に「ソリューション事業本部」という組織を新設しました。この組織では、製品ありきではなく、お客様のニーズありきでビジネスを手がけ、お客様にとって、どのような製品・サービスが必要なのかをソリューションとして創造していきます。最終的には当社の製品に結びつけることができればベストですが、システム構築や運用保守など機器の販売に特化しないサービスを提供するといった取り組みもどんどん進めていきます。
実は、これまでもソリューションの創造に向けて、いろいろと取り組んではいたのですが、なかなかドライブがかからず、何だかんだいっても最終的にはMFPを販売するという文化が根強く染みついていました。そこで、社内を横断する戦略的な組織として設置することを決めたのです。今後は、ソリューション事業本部を中核に据えてビジネスを手がけていきます。
──ソリューション事業本部は、どのようなメンバーで構成されていますか。 和田 基本的には営業と技術のメンバーで構成していますが、営業担当者や技術担当者は、例えばドキュメント管理やクラウド化など、これまでの機器の販売とは異なるスキルをもっています。これを実現するため、多くの人材がキャリア採用で当社に入社してきており、今後も社内教育を含めて、さらに強化していきたいと考えています。とくに、中小企業のお客様の場合、IT専任者を置いておられるところはまれで、オーナーや幹部は事業の維持拡大のことで手一杯という状況です。「社内インフラをどう最適化すべきか」というところまで、なかなか手が回っていないのが現実だと思います。当社の役目は、お客様の漠然とした思いにさまざまなアドバイスさせていただきながら、最適なかたちで具現化し、お客様のビジネス拡大に役立つことだと考えています。
──中小企業への提供だけでなく、大企業向けなど、ユーザー企業の層を拡大することには取り組まないのですか。 和田 大企業向けソリューションに関しては、当社の親会社であるコニカミノルタとの販売機能統合を昨年4月に実施し、コニカミノルタの開発部隊とも連携を強化しながらお客様の開拓を進めています。大企業のお客様は、システム管理者など専門要員を多く抱えているので、当社への要求も深くて専門的になっています。それに迅速にお応えするためにも、販売力だけでなく開発との連携強化が必要不可欠だと考えています。
社員の意識改革にも着手
──ソリューション事業本部を設置したのは社内の文化を変えることも目的ということですが、各社員にソリューション思考の意識づけも重要になってきますね。 和田 これは、私が社長に就任してから採り入れているのですが、各社員がさまざまな組織を経験するようにローテーション制度を導入しました。その制度で、「管理職になるためには2職種を経験しなければならない」などというルールを決めたのです。この制度によって、技術職から営業職になった人材もいます。一つの組織に属している年数の長い社員が多いと、どうしても縦割りで視野が狭いままになってしまう。しかし、お客様のことを考えると、ソリューションを語る以前に当社の社員が常に活性化している必要がある。ソリューション事業本部がコアとなって、全社の意識改革をさらに加速させることを期待しています。
また、教育にも力を入れているのですが、これについては、まだまだ強化していかなければなりません。せっかく教育を受けたにもかかわらず実践に活用できていないケースがまだまだ多く、お客様のワークフローやビジネスシーンを踏まえたソリューションを創造するには、教育と実践をさらにつなげていくことが重要になってきます。教育したことを現場で使う。現場で出てきた課題を解決するために再び教育する。このようなサイクルを構築していきます。なかには、「教育研修に行く暇があったら現場に行け!」と苦言を呈するマネージャーがいるかもしれない(苦笑)。ですので、そのあたりは意識改革も同時並行で進めていきます。
統合から約5年間が第一期、私が社長に就任した頃が第二期、今後は業界自体が変化を遂げようとしている時代のなかで当社が成長するための路線を敷く第三期と捉えています。その意味でも、社員の意識を改革していかなければならないと感じています。
──売上規模の目標については? 和田 次の目標は2000億円ですね。時期は決めていませんが、できるだけ早い達成を目指していきます。
・FAVORITE TOOL 海外赴任のキャリアが長く、その時から愛用している「BlackBerry」。「メールやメモなど業務には欠かせないツール。データをパソコンにバックアップできるのもいい」と評価する。また、印象に残った言葉などを書き留める際は手書きのノートを愛用している。時には、「その言葉をスピーチなどで使ったりもする」のだとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「平等」というのが信条。決定の権限と義務は上司にあるべきだが、「権限と義務以外は社員が自由に業務を遂行できる組織」の設置を常に意識している。今回のソリューション事業本部の設置は、ユーザー企業向けソリューションの創造が狙いだが、自由な発想から生まれる新しいビジネスモデルの構築も目的としている。
海外赴任が長かったからか、「肩書きを気にしない。社員に名前で呼ぶように言っている」という。新入社員でも自由に発言できる環境づくりの追求。そんな考えから、若手や中堅社員を集めて「維新の会」という議論の場を設けている。地域や組織など立場が違えば、さまざまな意見が繰り出される。その意見をすり合わせて課題を解決。それぞれが現場に持ち帰る。もちろん和田社長も議論に参加して、トップダウンとボトムアップのバランスを保っている。
「さまざまな領域が交錯し、競合関係が複雑化している時代」だと実感している。だからこそ、「当社自身が変わらなければならない」と考えている。(郁)
プロフィール
和田 幹二
和田 幹二(わだ かんじ)
1957年5月23日、大阪府出身。81年3月、慶應義塾大学工学部卒業。同年4月、ミノルタカメラ入社。01年11月、ミノルタのプリンタ事業部プリンタ販売企画室長に就任。その後、Minolta-QMS Europe社長、Konica Minolta Printing Solutions Europe社長、Konica Minolta Business Solutions Europe副社長などを経て、09年4月、コニカミノルタビジネスソリューションズ社長に就任。
会社紹介
コニカとミノルタの統合に伴って、販売会社のコニカビジネスマシンとミノルタ販売も統合して、2003年10月1日にコニカミノルタビジネスソリューションズとして設立。中小企業を主要顧客として、MFPやプリンタなど事務機器の販売を手がける。2012年度(13年3月期)に、1000億円の売上高を達成。機器の販売に加えて、クラウドなどサービスの提供も拡大しようとしている。