海外で自社ブランドショップを展開
──海外事業を手がけているとのことですが、進捗状況を教えてください。 葉田 国内ではすでにスマートデバイスが普及していますが、新興国では今、普及し始めているという状況です。そのため、東南アジアや中南米での事業拡大を重視しています。
──家電量販店がチャネルですか。 葉田 家電量販店で当社製品のコーナーを設置しているケースと、香港や上海、コスタリカなどでは、「エレコムショップ」と称して当社の製品だけを販売する店舗を構えています。実は、このエレコムショップが非常に評判がよくて、今後はさまざまな国で出店することを計画しています。
──具体的には? 葉田 現在、5店舗を展開しているのですが、これを3年後に100店舗、5年後に1000店舗を目指しています。力を注いでいる東南アジアと中南米を中心に、パリなど欧州でも出店する予定です。
──海外事業の拡大による業績面での効果は、どれくらいと試算しておられますか。 葉田 現在、海外事業の売上比率は全体の5%程度です。ただ、この比率を高める目標とか成長率などは定めていません。海外事業は、あまり急いで拡大しようとしても大やけどするだけですから。ただ、軌道に乗っているのは確かなので、間違いなく拡大していくとみています。
──海外進出は「壁が高い」と感じている日本企業が多いようです。なぜ、エレコムはさまざまな国に進出することができるのですか。 葉田 あまり詳しいことは申し上げられませんが、各国のディストリビュータに精通したパートナーを見つけたんです。そのパートナーを経由して、各国で共同出資や代理店の開拓などを行って販路を確保し、家電量販店へのコーナー設置や自社ブランドショップの出店などをしています。
──国内でのエレコムショップ出店は? 葉田 (語調を強めて)絶対にやりません。国内では、家電量販店をはじめとしたパートナ―企業がいますから。海外では、まったく基盤がないからこそ展開できるのです。
国内で新しいビジネスモデルを構築
──国内市場をどのように捉えていますか。 葉田 店頭販売は、消費者がエアコンなど白物家電や4Kテレビに興味を示していて、徐々にではありますが持ち直しているのではないでしょうか。当社のビジネスに関しては、スマートデバイスの普及によって関連アクセサリは依然として順調に推移しています。当社には、コンシューマ向け事業で家電量販店と通信キャリアのショップなどの販路があるのですが、とくに通信キャリア経由の販売は非常に拡大している。この点も、今年度、増収増益を見込んでいる要因の一つでもあります。ちなみにアクセサリに関しては、海外でも力を入れる家電量販店が多く、差異化のために当社のコーナーを設置しているのです。売ることに真剣なことも新興国での事業の魅力です。
──アクセサリ以外はどうですか。 葉田 HDD事業は、今年度に入って順調です。先ほど申し上げたように、一昨年が好調すぎたから昨年度は厳しい状況だっただけです。ただ、実は昨年度、当社が国内で独占販売しているラシーがシーゲートに買収されたということで、少しの間、ゴタゴタがあって、思うように販売できなかったということがありました。今は、買収後によくある“騒動”は解決していますので、今年度は心配ごとがありません。十分にトップシェアが狙えると考えています。また、ストレージ事業という枠まで広げれば、グループ会社のハギワラを中心として堅調に法人顧客を獲得しています。Linux搭載のNASやサーバー用SSDなどが売れていて、一般オフィスやデータセンターなどに提供しています。
ネットワーク事業に関しては、現在、機器の販売だけでなく、例えば飲食店にWi-Fi環境を構築するビジネスに着手して、実を結び始めています。うれしいことに、優秀な人材が入社してきまして、ネットワーク事業で新しいビジネスモデルを構築してくれました。また、コンシューマ向けには年末商戦に合わせて新製品を発売する予定ですので、市場でのシェアが拡大することを確信しています。
このように当社の事業領域は広がっていて、競合他社とは一線を画しています。これは、時代の流れに当社がマッチしているということでもあります。3年前に「パソコンが終焉する」と予測したのですが、今、スマートデバイスがパソコンに取って代わり、当社にとって新しいビジネスモデルを構築しやすい環境になったというわけです。
──どのあたりまで事業領域を広げていくのですか。 葉田 「ヒューマンインターフェース関連製品を提供する」というコンセプトを変えるつもりはありませんので、基本的には大きく事業領域を広げようとは思っていません。ただ、そのコンセプトを絡めた事業領域なら、積極的に展開していきます。
・FAVORITE TOOL ドイツのブランド、LAMY製のボールペン。「圧倒的に書きやすい」ということで、このブランドを20年前から使っている。「何か思いついた時には必ずメモするから、手離せない」という。字の太さや色にもこだわりがあり、「太く見やすい字を書きたいから、芯はM16の紺を愛用している」とのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「IT業界の異端児」といわれている葉田社長。「今年で60歳になるから、異端児といわれるほどのことは、もうできない。今はおとなしいよ」とつぶやく。しかし、インタビューではスケールの大きな話が次々と飛び出す。まだまだ異端児は健在だ。
「パソコンが終焉する」と宣言して、はや3年。葉田社長が予測した通りに時代は動いている。インタビュー中に「普及すれば必ず頭打ちになる」と、現段階では盛り上がっているスマートデバイスも、いつかは終わると考えている。将来の終焉を視野に入れ、今すべきこと、将来的にやらなければならない次のビジネスを見据える。
「うちの製品は取り扱いが面倒で単価が低く、買い上げが激しい。しっかりとしたカスタマーサポートが必要だ」と認めている。これだけを聞くと、「本当に儲かるビジネスなのか」と思うが、「誰もやりたがらないビジネスだからこそ、他社との差異化につながっている」という。そこにエレコムの強さがある。(郁)
プロフィール
葉田 順治
葉田 順治(はだ じゅんじ)
1953年10月13日生まれ、三重県出身。76年3月、甲南大学経営学部卒業。86年5月、エレコムを設立し、取締役に就任。92年8月、常務。94年6月、専務。94年11月、取締役社長(代表取締役)に就任、現在に至る。趣味は読書、ゴルフ。
会社紹介
1986年にOA家具メーカーとしてスタートし、さまざまなアクセサリを展開。今では、ネットワーク機器やストレージ機器なども発売している。コンシューマと法人の両市場でビジネスを手がけているほか、海外にも進出している。ハードの販売だけでなく、最近ではネットワーク分野でWi-Fi構築サービスなども提供している。