安倍政権は、成長戦略の柱に「IT」を据え、今年6月、新たなIT戦略として「世界最先端IT国家創造宣言」を発表した。国内で高度IT利活用社会を実現するのはもちろん、IT産業の国際競争力強化も重要施策として打ち出している。この分野で、行政の立場から重要な役割を果たすのが、総務省の情報通信国際戦略局だ。地デジ日本方式やICTインフラの輸出で、意欲的に施策を展開している。最近では、政府開発援助(ODA)を活用したミャンマーのインターネット環境整備事業を住友商事、NEC、NTTコミュニケーションズのコンソーシアムが受注するなど、案件も具体化している。これらの施策をリードする関総一郎次長に、日本のIT産業が世界で存在感を発揮していく方策をたずねた。
<総務省の国際競争力強化施策>
グローバルな視点で、ICT分野の研究開発や標準化活動、国際展開活動などを推進する。具体的には、主に南部アフリカや中南米諸国に対して、地上デジタル放送日本方式の採用に向けた積極的な働きかけや普及活動を行っているほか、ASEAN地域へのICTインフラ、ICTシステムの輸出支援にも力を入れ、「ASEANスマートネットワーク構想」の実現を目指している。
ICTインフラの基本構想づくりに食い込む
──6月に政府の新たなIT戦略が発表されましたが、これに先がけて今年3月には、内閣官房長官を議長、関連省庁の大臣を構成員とする「経協インフラ戦略会議」が設置され、ICTを含むインフラ輸出に力を注ぐ現政権の姿勢が鮮明になっています。こうした施策の行政側の受け皿である総務省の取り組みの現状について聞かせてください。 関 ICTインフラの輸出について、総務省は現在、大きく分けて2種類の施策を展開しています。一つは、開発途上国の基盤的なICTインフラ整備に対する支援。そしてもう一つ、その次の段階ともいえるのですが、ICTシステムやソリューションを、相手国の社会インフラに実装するための対話・コミュニケーションを進めています。
後者については、インドネシアで、防災システムを充実させるためのモデルプロジェクトを展開していますし、ベトナムでは、センサネットワークを使って河川の水位をモニタリングし、水資源を管理する実証実験なども行っています。
この二つのうち、日本のITベンダーが海外市場で活躍するための環境づくりという点でより重要なのは、前者の取り組みです。
──前者が重要というのは、なぜですか? 関 ICTがそれほど普及していない開発途上国では、ICTインフラを整備するための基本構想策定のプロセスで、どこかの先進国ががっちりと食い込み、全面的に協力しているケースが多い。そうなると、最後の調達の段階になってからほかの国のベンダーが出ていっても、うまくいくはずがありません。
開発途上国でのICTビジネスでは、いかにインフラ整備の基本構想から入り込めるかという、国単位の競争に勝つことが大事なんです。そして、この競争に勝つためには、相手国の政府と対話を重ね、先方のビジョンを理解したうえでの提案が決め手となるので、官民が連携して知見を集積する必要があります。結果的に、日本がここでイニシアチブを握ることができれば、日本のITベンダーにとってのビジネスチャンスも非常に大きくなるといえます。
──政治的な働きかけも必要というように、通りいっぺんの売り込みだけではうまくいかない事業という気もしますが……。 関 その通りです。相手国の政治的な思惑も大いに関係してきます。それも踏まえたうえで、ODAを使える国に対しては、資金面の協力も実行するなど、多角的な視点で戦略を練っていく必要があります。
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