来年4月までにソフトのライセンスも取得
──グロスディーの設立によって、日本IBMの主要VAD3社は「イグアス、NI+C、トッパン エムアンドアイ」から、「イグアス、NI+C、グロスディー」に変わりました。ちなみに、イグアスとNI+Cは、IBMのハードとソフトの両方を販売するライセンスを取得していますが、御社は、ハードのみのライセンスをもっておられるそうですね。ソフトのライセンスを取得する予定はありますか。 森田 ソフトを販売するためのライセンスについては視野に入れていて、来年4月までに結論を出したいと考えています。実数は公開していないので申し上げられませんが、グロスディーを設立して、トッパン エムアンドアイの旧VAD事業の売上高を、2016年までに現在(2013年9月時点)の6倍に引き上げることを目標に掲げています。そのために、ソフトのライセンスも取得して、早いうちにIBM製品を全方位で取り扱う体制を整えたいと思っています。さらに、IBM以外の製品の取り揃えにも動いています。ヒューレット・パッカード(HP)や富士通、NECなど、販売パートナーがエンジニアリングできる製品を数多く集めて、メーカーと販社の仲介役になって、ディストリビュータとしての総合力を磨きたい。
さらに、外部の専門家を採用して、マーケティングの強化を目指しています。米国にAvnetという大手のITディストリビュータがいて、米IBMのVAD事業を展開しています。AvnetのIBM関連の売り上げは約3000億円だ聞いています。なぜ、そこまで大きくなることができたかというと、地域別のマーケティング用データベースをもっているからです。Avnetは、販売パートナーから「この地域でこの製品を売りたい」とのリクエストを受けて、顧客情報を蓄積したデータベースを活用して、「このお客様にこの方法で提案してみて」と迅速・的確にアドバイスし、拡販につなげています。
当社は、まだAvnetの100分の1程度の売上規模ですが、同じような仕組みをつくって、販売パートナーの提案活動を支援したいと考えています。
──ソフトライセンスの取得にしても、マーケティング支援にしても、森田さんは、トッパン エムアンドアイの旧VAD事業を大胆に変えようとしておられますね。 森田 私はグロスディーの社長になっていますが、自分をCEO(最高経営責任者)というよりも、むしろ、事業運営を統括するCOO(最高執行責任者)と捉えて、日々、動いています。人材を適材適所に配置し、グロスディーとして描いている戦略をスムーズに実行することが、私のミッションです。
地方に密着して他社にないサポートで輝く
──日本IBMは14年1月から、販売店との直取引を廃止して、米国と同じような形態で、すべての販売をVAD経由で行うことを決めています(関連記事)。12年に米IBM本社幹部のマーティン・イェッター氏が社長に就任し、日本IBMはグローバルスタンダード化を進めている印象があります。その流れの一環として、グロスディーが設立されたという理解でよろしいでしょうか。 森田 いや、実は逆なのです。おっしゃる通り、日本IBMは日本IBMで、グローバルスタンダード化に取り組んでいます。しかし、システム構築をSIerに外注する習慣が根づいている日本IT市場の特性に十分に配慮しなければ、お客様を置いてけぼりにする可能性があります。長年、日本IBMにいた私はそう確信しています。だからこそ、SIerと太いパイプを築いて、彼らを技術やマーケティングで支援する“日本流”のVADが必要だと考えて、グロスディーを立ち上げたわけです。
私は1998年からの3年間、日本IBMの当時の東日本支社で企画管理部長を務めました。その後、日本IBMは地方の支社を閉鎖し、地域ビジネスの展開を東京本社に集中する体制に切り替えました。そのとき、私は、どうしても地方のお客様に身近な所で支社を構えることが欠かせないと考えて、地方支社の閉鎖に反対しました。残念ながら、地方支社は閉鎖となったのですが、その結果、日本IBMは多くの地方のお客様を失ったことを実感しています。現在は、あらためて地方支社を設立していますが、失われた信頼を取り戻すまで、少なくとも5~10年はかかるでしょう。
そんな経験から学んで、私はあえて地方に密着することをグロスディーの方針としています。兼松エレクトロニクスは全国に営業拠点をもっているので、これらのリソースを活用し、地域のお客様にIBM製品を提供したい。
──日本IBMが販売をVADに集約することは、VADにとって売上拡大の大きなチャンスになる一方で、VAD同士の競合が激化する可能性があります。森田さんのお話をうかがって、他社との差異化を図る決意がひしひしと伝わってきます。 森田 市場が成熟しているサーバーを中核とするVAD事業は、そう簡単に利益を上げることができるビジネスではありません。当社は、サポート体制への投資を回収するために、販売を大きく伸ばさなければ、利益の捻出が非常に難しくなります。だから、どこのVADよりも充実したサポートを用意し、それによって、当社を仕入先に選んでくださる販売パートナーを増やすことに力を入れます。
私の経営者としてのモットーは「Do Things Different」──。「やり方を変えてみればどうか」ということを社員に言っています。合弁によって、外部メンバーとの接触があって、ビジネスを進めるうえでの新しい刺激が増してきています。これを生かして、すぐれたチームワークができるよう、“COO”としてまい進していくつもりです。

‘私は、地方支社の閉鎖に反対でした。日本らしいVAD展開を目指して、地方のお客様にIBM製品を提供したい。’<“KEY PERSON”の愛用品>ボールペン付きのカード入れ グロスディーの森田真也社長は、伊東屋や東急ハンズで便利な小物を選んで買うことが好きだそうだ。写真のカード入れは小型ボールペン付きで、簡単なメモを取る・入れるのに最適で、常に持ち歩いているという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「会社の立ち上げを率いたのは今回が初めて」。森田真也社長はインタビューの最初にそう語り、グロスディー設立に至るまでの苦労を口にした。10月1日に営業を開始したばかりのグロスディーは、トッパン エムアンドアイの本社内に仮設のオフィスを構える。近々、東京・大崎のビルに移転し、物理的にもトッパン エムアンドアイとの距離を保つという。
エレベーターを降りると、森田社長自身が記者とカメラマンを迎え、会議室に案内してくれた。森田社長の話し方はストレートで、曖昧な言い方をしたり、直接の回答を避けたりすることはない。取材後に、「NG発言はたくさんあったと思うが」と少し心配げに言って、一瞬考えた後、「でも、大丈夫ですよ」と笑ってつけ加えた。率直さを武器に、意見をはっきりと伝えることを重視している。
日本IBMの新生VAD、グロスディー。日本IBMの販売体制が大きく変わるなか、IT業界は森田社長の動きに注目している。(独)
プロフィール
森田 真也
森田 真也(もりた まさなり)
1958年、三重県生まれ。81年、名古屋工業大学経営工学科を卒業後、日本IBMに入社。東日本支社の企画管理部長、システム製品事業ミッドレンジサーバー事業の営業部長、グローバルビジネスサービス事業のオペレーションズマネージャーなどを務める。2013年、トッパン エムアンドアイに入社し、執行役員としてパートナー事業を担当。同年10月、グロスディーの代表取締役社長に就任した。
会社紹介
IBM製品を中心に、情報システムを総合的に取り扱うVAD(Value Added Distributer)事業を手がける。トッパン エムアンドアイ(出資率61%)、兼松エレクトロニクス(34%)、東京日産コンピュータシステム(5%)の3社による合弁会社として、2013年10月1日付で設立された。資本金は8000万円。トッパン エムアンドアイが分社したIBM製品のディストリビューション事業を引き継ぎ、IBM製品の構築に強い兼松エレクトロニクスと東京日産コンピュータシステムのリソースを活用して、ディストリビューション事業の拡大に取り組む。従業員数は約40人。