オープンデータが国のIT施策の根幹に据えられ、マイナンバー制度もロードマップが決まるなど、公共分野の情報化促進ニーズはますます大きくなっている。イーコーポレーションドットジェーピーの廉宗淳代表取締役社長は、佐賀市の基幹システムオープン化のコンサルティングをはじめ、自治体の情報化推進に尽力してきた。現在は、佐賀県統括本部情報課情報企画監や青森市情報政策調整監、大阪市特別参与を務めるほか、2009年からは総務省電子政府推進員としても活動した経歴をもち、この分野の識者・論客として注目を集めている。電子政府・自治体の先進国である韓国出身で、日本でITの技術・ノウハウを学んだ廉社長に、日本の公共IT、そしてIT産業の問題点を聞いた。
国のIT戦略は現場と乖離している
──今年のIT業界の大きなトピックとして、国の新IT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」の策定があります。これにより、廉さんが長年取り組んでこられた日本の自治体の情報化が一気に進む気運が生まれたという見方もできそうですが、どうみておられますか。 廉 率直にいって、新戦略の内容と自治体のITシステムの現場との間には、ものすごく大きな乖離があります。現実を無視した目標ありきで、目標達成のためのロードマップも不十分です。
これまでも、政府がさまざまなIT戦略を策定し、みんな汗をかいて努力してきた。それは評価すべきことですし、私もそういう人たちと一緒に仕事をしたい。しかし、頑張ることと結果を出すことは違います。現状認識をしっかりしたうえで明確な目標を定め、それに向かうための最善策を詳細なロードマップに落とし込んでいかなければならないのです。とくに、誰が何をどういうふうに実行するかという点が大事なのに、政府のIT戦略は、未だに「関係者が努力する」というレベルにとどまっているようにみえます。ここが変わらないままなのに、成果を得ることなどできるでしょうか。
私がいうまでもなく、日本のIT業界もみんなそれに気づいているはずです。でも誰も発言しない。日本人は空気を読むことには長けていますが、これでは「馬を指して鹿と為す(中国の故事、馬鹿の語源)」ということになってしまいます。
──なかなか手厳しいですね。廉さんからみた自治体のITシステムの現場とは、どんな状況なのでしょうか。 廉 2000年代中盤に、佐賀市役所の基幹システムの刷新を手がけたときの話をしましょう。佐賀市長に相談されたのは、「基幹システムがベンダーロックインによって『人質』になっていて、システム更新の際も随意契約しかできず、不合理だ」ということでした。システムの詳細を調べてみると、確かにブラックボックスばかりでした。そこで、システム開発の発注の際に、ソースコード、仕様書をオープンにし、システムは従来のようなレンタルではなく買い取りにすることなどを条件にしました。そうすれば、開発ベンダー以外の地元ベンダーも保守に入札することができるようになります。
結果的に、日本のベンダーではなく、サムスンが受注しました。すると、いろいろな方に、納期をちゃんと守れるのかとか、ものすごく難しい仕事だからできないんじゃないかといわれました。しかし、結果はご存じのとおり、Javaなどの最新技術を使いながら、システムを佐賀市の規模に合ったかたちにダウンサイジングすることで、無事に2005年に稼働にこぎ着けました。佐賀市の職員の方々の多大な努力があったことも成功のポイントでした。
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