「サーバーメーカー」の認知度を高める
──しかし、UCS事業が伸びているとはいえ、母数が小さいことを考えると、先ほどおっしゃったパートナー支援策では、販売体制の強化はまだ十分ではないと思われます。 平井 本格的な成長につなげるために重点的に進めていくのは、SIerに加えて、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)とも連携して、UCS製品を業務アプリケーションとのセットで販売していただくということです。昨年11月に、ISVが開発したアプリケーションをUCS上で実行し、統合管理できるツール「アプリケーション セントリック インフラストラクチャ(ACI)」を発表しました。これから投入し、ISVとの関係を密にしたい。
さらに、専属のビジネス開発チームも立ち上げました。このチームは、アライアンス責任者や営業担当など、5人ほどの当社社員で構成しています。チームのメンバーは、SIerやISVに入り込んで、パートナーと一体になって、UCSの提案を行います。
私は、販社のスキル向上はもちろんのこと、サーバーメーカーとしてシスコの認知度を高めることも重要と考えています。そこで、今年からユーザー企業へのハイタッチ営業を強化してシスコの存在感を示し、パートナーにとってUCSを売りやすくする環境を整えるつもりです。
──日本ユニシスが今年3月に、グループ会社のネットマークスをユニアデックスに統合します。シスコのネットワーク機器の有力販社であるネットマークスとUCSのサーバー構築を手がけるユニアデックスが一緒になって、ワンストップでのソリューション提案が可能になります。御社にとって、両社の統合は朗報ですね。 平井 先日、ネットマークスの佐藤(宏)社長とユニアデックスの入部(泰)社長にお会いして、シスコの全ポートフォリオの展開に関して、私が期待している旨をお伝えしました。今後、当社製品を日本ユニシスグループのシステム構築力と組み合わせて、日本ユニシスが強みとする金融業界に向けたビジネス展開に注力したい。
──平井社長に「UCSの話題だけか」と怒られそうですが……。 平井 すみません、UCS関連でもう一つのトピックをお話ししてもいいですか。
──はい、ぜひ聞かせてください。 平井 ヴイエムウェア(V)の仮想化ツール、シスコ(C)のUCSサーバー、EMC(E)のストレージを組み合わせて、統合クラウド基盤「Vblock」として展開する共同出資会社であるVCEがこのほど日本法人を設立し、(13年9月まで日本アバイアの社長を務めた)ロバート・スチーブンソン氏が社長に就任しました。日本法人ができたのをきっかけとして、販売パートナーへの支援を厚くし、「Vblock」の本格的な展開に取り組んでいきます。
「地方の力」を確信し、ピンポイントで提案
──平井社長は徳島県のご出身。Facebookのサイトで、博多弁をしゃべると書いておられます。地方に根づいた平井社長は、地方市場の開拓について、どのような思いを抱いておられますか。 平井 博多弁ができるのは、愛媛県立松山東高等学校を卒業した後、九州大学に入学して、大学時代を福岡で過ごしたからです。
私は「地方の力」を信じています。企業が全国各地に本社を置く米国と違い、日本は企業の本社が東京に集中しています。そんな日本でニーズが旺盛とみているのは、本社を地方拠点につなぐビデオ会議システムなど、「ビデオ」のソリューションです。地方市場を開拓するために、2次店を獲得し、「DC系」や「ビデオ系」というように取り扱う製品を絞って、ピンポイントで提案ができるよう支援したい。
ちなみに、中央官公庁でもシスコのビデオソリューションが活用されています。「産業競争力会議」のメンバーで、経団連の次期会長に内定した榊原定征さん(現東レ会長)が、この間、バンコクに出張中にシスコのバンコクオフィスに立ち寄って、用意されたビデオ会議を通じて、産業競争力会議に参加されたと聞いています。こうしたエピソードが裏づけるように、ビデオ製品は大きな伸びをみせており、UCSに並ぶ当社の注力商材になっています。
──御社は、あらゆるモノがインターネットで接続される「Internet of Everything(IoE)」という概念を打ち出しておられます。「IoE」のビジネス化についてお聞かせください。 平井 「IoE」は、ネットワークでヒトとモノとの「つながり」を実現することによって、ユーザーの行動パターンなどについてデータを収集し、エンターテインメントや出版、広告、金融サービスなど数多くの分野で新しい価値を生み出すための技術基盤を形成します。
私は「IoE」のビジネス化について、2020年の東京五輪開催という絶好のチャンスを生かして、世界トップのネットワークインフラを誇る日本がリードするかたちで実現したいと考えています。今年の3月をめどに、「IoE」に関連する製品群を発表することを予定していて、急ピッチで商材化を進めているところです。
──最後に、日頃、平井社長が経営者としてどのような動きをしておられるかをうかがいます。 平井 先日、関西地区に出張して、ユーザー企業のCEOたちと面談してきました。社長として自ら“営業”に出て、お客様の経営トップに接して、シスコの優位性を訴求しています。

‘UCSの販売体制を強化し、国内市場でもシェアを上位に引き上げたい’<“KEY PERSON”の愛用品>Hartmannのレザーグッズ 米国の老舗革製品メーカー、Hartmannのペンケースや名刺入れなど、レザーグッズ一式。平井社長は、使用するにつれて色が変わる高品質の革がお気に入りで、10年ほど前からこれらの製品を愛用しているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「時間があったら、SMB(中堅・中小企業)ビジネスについても話したかった」。取材後に平井康文社長は少し残念そうに語った。インタビュー中にパートナー施策を積極的に説明する平井社長の話しぶりから、今年から、販社との関係を強化する熱意が伝わってきた。
シスコシステムズの従業員は、「地球時間」で働いている。テレワークなどを活用し、場所や時間を問わずに、どこでもいつでも世界のパートナーやユーザー企業と情報のやり取りができるように、環境を整えている。今後は、シスコのソリューション展開を国内に限らず、アジアという広い枠で実現するために、販売パートナーも地球時間の感覚を身につける必要がある。
シスコシステムズの日本法人が設立されて、今年で22年になる。平井社長は「2014年は、インセンティブを充実させたり、日本独自の支援プログラムを導入するなどして、パートナーの利益拡大に取り組む」とコミットしている。(独)
プロフィール
平井 康文
平井 康文(ひらい やすふみ)
徳島県徳島市出身。1993年、九州大学を卒業後、日本IBMに入社。経営戦略や通信産業事業などのマネジメントに携わる。2003年、マイクロソフトの日本法人(現日本マイクロソフト)に移籍し、執行役専務としてエンタープライズビジネスを担当。08年、シスコシステムズに入社。副社長を経て、10年8月、代表執行役員社長に就任した。米国本社のシニアバイスプレジデントを兼務する。
会社紹介
ネットワークシステムを展開する米国シスコシステムズの日本法人として、1992年に設立された。パートナーを通じて、国内の販売や関連サービスの提供を手がける。従業員数は1288人(2013年1月)。札幌から福岡まで全国各地にオフィスを構える。本社は東京・赤坂。