システムと会計のプロが支援
──ビジネスの拡大を担うTKCの会員を支援する新たな施策は考えておられますか。 角 8800事務所、1万600人のTKC会員のうちの4割は、TKCシステムによる顧問先の自計化を積極的に推進して、先ほどお話ししたようなビジネスの拡大に大きく貢献してくれています。一方で、記帳代行だけでいいという考えをもっている会員も同じく4割程度を占めています。現在、重点的にサポートしているのは、TKCシステムの販売に意欲をもってはいるけれども、売るノウハウに乏しい、残り2割の会員です。具体的には、当社の専属システムコンサルタントを張りつけて、営業を直接支援しています。
さらに、システムの価格を非常に戦略的なレベルまで引き下げて、データを加工し、レポートにまとめたりするサービスも安価で提供するなど、インセンティブも設定しています。一時的に当社の売り上げは減りますが、中小企業向け市場では面を取っていくことが何よりも大事です。
──最近では、中小企業向けだけでなく、中堅企業向けのクラウド型会計システム「FX4クラウド」や、上場企業向けの連結会計、連結納税システムなども急成長していますね。 角 「FX4クラウド」は非常に好調で、2011年6月に提供を開始してから、ユーザーはすでに2800企業グループ、3800社に達しました。受注が急激に増えたため、担当人員も昨年9月に倍に増やしました。人員の増強でさらなる成長が期待できます。このクラスのユーザーは、業績管理や会計のやり方も独自の工夫をしておられることが多く、システム側でそれに応えるためには、最初のセットアップや科目体系の設定、部門設定などを当社がコンサルティングする必要が出てきます。そういうノウハウをもっているのも当社の強みです。
「FX4クラウド」の営業対象は、TKC会員の顧問先企業が中心ですが、CMの効果などもあって、企業から当社に直接問い合わせがくるケースも増えています。その場合は、顧問の会計事務所をTKC会員に乗り換えてもらい、会員経由で納入しています。一方で、上場企業向けの各種システムは、TKCが直販しますが、案件ごとに当社と契約した会計事務所を必ずコンサルタントとしてつけています。いずれも、当社とTKC会員というシステムと会計のプロがしっかりサポートし、コンサルティングするというサービスが競合ベンダーとの差異化要因になっていると思っています。
番号制度で公的認証の基盤ができる
──もう一つの事業の柱である自治体向けシステムでは、社会保障・税番号制度のスタートが大きなトピックですね。中央官庁ではすでにシステム改修がスタートしています。 角 国民一人ひとりの公的な認証の基盤ができあがることは非常に画期的なことで、これをITシステムを利用したさまざまなサービスにどう組み込むかが、ベンダーにとって死活問題になるでしょう。
当社は、住民がインターネット上で公共施設を予約したり、空き状況を検索できるシステムを市町村向けに提供しているのですが、この春に、これをスマートフォンに対応させます。
また、タブレットを活用して自治体窓口業務を効率化する仕組みの開発も進めています。
──自治体向けシステムでは、従来競合だったベンダーが再販パートナーとなっているケースもあります。番号制度をきっかけに、パートナーとのアライアンスを拡充したり、パートナーそのものを増やすことになるのでしょうか。 角 可能性は高いといっていいでしょう。例えば、地方税電子化協議会が運営する地方税ポータルサイト「eLTAX(エルタックス)」と自治体をつなぐ「地方税電子申告支援サービス」で、当社は40%のシェアを獲得しています。これは、システムの製品力を、自治体向けシステム領域でライバルだった地域ベンダーやSIerも認めてくれて、アライアンスを組んだことで実現した成果です。最初はお互いに警戒するようなところもありましたが、長く一緒にビジネスをすることで、基幹系の周辺システムについては、商材の相互提供が始まっていて、ソリューションベンダーとしてのノウハウ構築につながっています。この動きは、基幹系の方向に拡大するかもしれません。
また、介護保険制度がスタートした2000年に、自治体向けシステムのベンダーが、約30社から10社強まで淘汰されました。競争が激しく、制度改正も頻繁で、利益を出せなかったからです。これが、番号制度をきっかけにさらに絞られる可能性が高くなります。自社システムの提供をやめるベンダーに、当社のシステムを再販してもらうことは考えています。実は、すでにそうしたアライアンスが動き始めています。
いずれにしても、番号制度の発足により、自治体向けシステムも、役所のなかだけでなく、その先の住民まで適用範囲が広がっていくでしょう。それを意識して、他社に先んじた技術・製品・サービスを開発していくことが何よりも重要だと考えています。

‘当社とTKC会員というシステムと会計のプロがしっかりサポートし、コンサルティングするというサービスが競合ベンダーとの差異化要因になっていると思っています。’<“KEY PERSON”の愛用品>「日露戦争史」(半藤一利著) 読書スタイルは、「乱読型」で「並行読書型」。常に3~4冊の本を鞄に入れて、栃木本社・東京本社間の移動時や出張時に読む。ジャンルは、ビジネス書から歴史小説、宇宙物理学まで幅広い。「教養がリーダーシップの基盤」という。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ITの商流では、単なるモノ売りではなく、上流のコンサルティングを含むソリューション提案を手がけることが、利益を生み出すためには不可欠になりつつある。会計ソフト分野では、その担い手として会計事務所の存在がクローズアップされているが、TKCは、まさに彼らと密接なパートナーシップを構築し、各ステークホルダーにインセンティブを確保するビジネスモデルをつくりあげた。
角社長が経営の師と仰ぐのは、日本企業の経営手法のすぐれた点を理論化した経営学者の野中郁次郎氏だ。外資系大手ベンダーが大きな存在感を示すIT業界にあっても、日本型経営のポテンシャルは大きいと主張する。「経営を支えるのは、資金力とマーケティングのテクニックだけではない。最も大事なのは、人間、つまり社員」と熱く語る角社長。ヒーローをつくるのではなく、チームを基本に相互の切磋琢磨でイノベーションを促す組織づくりを心がけているという。その成果を、どのように市場に示すのかが興味深い。(霞)
プロフィール
角 一幸
角 一幸(すみ かずゆき)
1948年、北海道生まれ。72年、北海道大学理学部高分子科学科を卒業して、TKCに入社。経理部本部長、社長室長、人事部長、地方公共団体事業部長などを歴任。2001年に専務取締役、08年代表取締役副社長。2011年12月より現職。国立大学法人宇都宮大学経営協議会委員や、公益財団法人飯塚毅育英会評議委員も務める。
会社紹介
1966年、栃木県宇都宮市で創業。現在は、ここと東京に本社を置く。会計事務所向けシステムや、その顧問先企業への財務会計システム提供を中心とする会計事務所関連事業大手。もう一つの主力事業である地方自治体向けシステム事業でも、自治体クラウドなどをいち早く展開している。2013年9月期の売上高は531億円。売上比率は会計事務所関連事業が4分の3を占める。