「IoT」を軸にパートナーシップを拡大
──一方、国内では、どのような分野に注目しているのですか。 江田 今、インターネットにつながる機器が増えていて、2020年にはネット接続に対応する機器が500億個にも達するという予測もあります。パソコンやサーバーのIT機器だけでなく、それ以外の機器もつながる、いわゆる「IoT(モノのインターネット)」が話題になっていますが、これまで接続していなかったものを接続できるようにするには、当社の半導体チップが非常に適しています。共通のアーキテクチャとして搭載してもらい、さらに当社はゲートウェイ製品ももっていますので、それを提供する。機器同士がつながれば、今までなかったデータが発生し、それを分析するソフトが必要になってきます。そのソフトの開発にも投資していますし、さらにセキュリティ関連製品も引き続き強化しています。このように、国内では包括的なソリューションの提供によってビジネスを拡大していきます。
──「IoT」が主流の世界になれば、パートナーシップの領域が広がるなど、今までとはビジネスのあり方が変わってくるのですか。 江田 実際、トヨタ自動車と次世代車載情報通信システムで共同研究を進めていますし、日産自動車がプロセッサ「Atom」を自動車に採用するなど、ほかの業界とのパートナーシップの例が出てきています。今後は、工場や家庭などにも「IoT」の要素が出てきますので、そういった意味では、さまざまな角度でパートナーシップを組む可能性があります。
ただ、だからといって、すでに密にパートナーシップを組んでいる国内のパソコン/サーバーなどITメーカーとの関係をなくすわけではありません。IT関連メーカーは、総合メーカーとして社会インフラなどの幅広いビジネスを手がけています。ですので、今後は、これまで以上にパートナーシップを深めていこうと考えています。
総合力があるので、国内ITメーカーにとって、また当社にとっても「IoT」によって、国内に加えてアジアで新たなビジネスチャンスをつかむことになる。将来はワールドワイドでビジネスを拡大できる可能性があります。当社とパートナーがアイデアを出し合えば、新しいものを生み出すことができると確信しています。
──一概にはいえませんが、新しい領域では主導権を握りたいと考えるメーカーもいるのではないでしょうか。半導体チップを核に、どのような場面にも絡んでくるというのは、脅威というか、あまりよく思われないように感じますが……。 江田 お互いのメリットになるようなかたちで、適材適所でパートナーシップを組むことがポイントになると考えています。今後は、さまざまな場面、さまざまな角度でパートナーシップが生まれてくると捉えています。
ハードウェアは落ち込まない
──クラウドサービスが台頭してきたことで、これからはハードウェアの販売が落ち込んで、サービスの提供が伸びるとの見方があります。 江田 当社はクラウドサービスを提供していませんので、現状のビジネスモデルのままで大丈夫なのか、と聞きたいのでしょう。確かに、市場ではハードウェアの販売が落ち込んでいるというのが実際のところですが、当社はクラウドサービスを提供するデータセンターやサービスプロバイダなどに最新の技術を採用したハードウェアを提供しています。また、ハードウェアを通じて、例えばセキュリティを含めたサービスの提供など、クラウドサービス事業者がユーザーに対して価値を提供できるハードウェアを提供していると自負しています。
──ハードウェアの販売が落ち込むことはない、ということですか。 江田 当社のビジネスに関しては落ち込むことはあり得ません。ハードウェアの提供を通じて、事業者とともに新しいソリューションを創造していきます。また、先ほども申し上げましたが、「IoT」によって機器同士がつながるという世界が広がりますので、今後、インターネットにつながる新しい機器が登場してくれば、大きなビジネスになる。一部のハードウェアが落ち込むことはあるのでしょうが、全体的に落ち込むことはないでしょう。
──そのようななかで、どのようなポジションを確保しますか。 江田 パートナーなどから「トラステッドパートナー(信頼されるパートナー)」と認められる、そのような存在になることを目指します。そのためには、国内だけでなく、アジア、そして最終的にはグローバルを視野に入れてビジネスを手がけていくつもりです。

‘アジアのなかで日本が何をしなければならないのか。パートナーもアジアでのビジネスを拡大しようとしていることから、当社もアジアを見据えなければならない。’<“KEY PERSON”の愛用品>パソコンを入れても違和感がない鞄 1年ほど前に購入したルイ・ヴィトンの鞄。江田氏の鞄選びは、パソコンがすっぽりと入ることが大前提だ。パソコンを入れても違和感のない鞄を見つけると、「パソコンが入ることを言い訳に購入してしまう」のだとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
アジアでの勤務が長かったからか、「日本の技術力は質が高く、非常にすぐれたものが多い」と改めて実感しているそうだ。「日本にいると、技術力に限界があって閉塞感があるように思われがち。でも、外からみると本当にすばらしい」という。そのため、まずはインテル日本法人が海外に発信できる基盤を整えようとしている。社員の意識が変われば、パートナーにも伝わる。「国内パートナーとアジアの現地企業をつなげる」ことが当面の目標だ。
社内では、「現場の意見を最優先して、社員が新しいアイデアを出すことができる風通しのよい環境づくりに力を入れている」という。日本法人の課題を聞くと、「強いていうなら『パラノイア(偏執病)』」という答え。ビジネスが順調でも決して油断しない企業文化が根づいている。これは強みだが、「社員にとってはプレッシャーになり、新しいアイデアが生まれない危険性がある」。危機感をもちながらも常に新しいことに挑戦する──。これが江田氏の印象だ。(郁)
プロフィール
江田 麻季子
江田 麻季子(えだ まきこ)
2000年、インテルに入社。日本法人でマーケティング本部長などを務め、2010年、インテルセミコンダクター(アジア・パシフィック地域統括)でマーケティング&コンシューマー・セールス担当ディレクターに就任。2013年10月10日、インテルの代表取締役社長に就任。米インテルのセールス&マーケティング統括本部副社長も兼任する。
会社紹介
1976年4月に設立。インテル Core i7 プロセッサー、インテル Xeon プロセッサー、インテル Atom プロセッサーなどマイクロプロセッサやフラッシュメモリなどを販売。「vPro」のブランドでセキュリティ管理機能を搭載したプロセッサを法人向けに提供するとともに、マカフィーの買収によってセキュリティ事業も展開している。東京都とつくば市に本社を構える。