産官学連携で養殖管理を商用化
──つまり、地方での受託ソフト開発というビジネスモデルが終わりを迎えて、問題発見型、課題解決型のビジネスはむしろこれから伸びると。毛利 口で言うほど簡単でないのは重々承知のうえです。実際、新会社の売上構成比をみると、NEC本体のSE人員としてプロジェクトに参加しているパターンと、NECとの連携事業ではあるものの、当社がプロジェクトの責任を負って遂行しているパターンの二つが多くを占めます。冒頭に触れた当社が主体となって地域ビジネスを再創造していくパターンは、まだこれからの話です。
──NECグループの再編過程で、地域のSE会社の営業部門をなくした経緯があります。SEだけでビジネスを伸ばすことができますか。毛利 民需が弱まっている地方市場でカギを握るのは産官学の連携です。具体的には、NECソリューションイノベータの発足後、初めての独自ビジネスとして養殖管理のクラウド型サービスを発表しています。水産養殖の飼育業務の記録や報告、水質や養殖物の常時モニタリング、収集したデータの分析と活用まで支援するクラウドサービスで、東京海洋大学と共同で開発したものです。東京海洋大学の飼育ノウハウと、私どもの社内にアワビの養殖設備を設置して実証実験を重ねてきたもので、2014年中の商用化を目指しています。そして、サービス開始後3年をめどに300団体への提供を視野に入れています。
──なるほど、確かに右肩上がりの高度成長期ならいざ知らず、成熟期にある今の地域ビジネスは、これまでとは違う事業創造のあり方が求められているわけですね。毛利 どんな田舎に行っても農業と漁業、観光のどれかは必ずあります。地元の人からは「このあたりは産業らしい産業もない」という言葉を半ば謙遜も含めて聞かされることはありますが、こうした農業、漁業、観光は立派に存在し、これからは産業の変革を支える物流や交通インフラなどの社会インフラも再構築する必要が出てくるでしょう。
製造業だって、昔ながらの重厚長大なものづくりから脱皮して、3Dプリンタなど最新の工作機器やソフトウェアを巧みに活用したファブラボ方式に代表される未来型のものづくりも始まっているじゃないですか。アイデア一つで世界に通用する地域発の製造メーカーになることだってできる時代です。未来を見据えた社会インフラの再構築や、産業構造の変革は、ITなしには語れない。システム構築、プロジェクト遂行に精通した当社SEの能力を存分に生かすことができる領域です。
「顔合わせ、心合わせ、力合わせ」
──この「KEY PERSON」では、登場いただいた方のお気に入りのグッズを紹介しているのですが(15ページ参照)、その候補として『鷹山公に学ぶ十点』『世界でいちばん美しい物語─〈宇宙と生命と人類の誕生〉』(筑摩書房)と菩薩様の肖像画、そして芳香剤をご用意いただきました。紙幅の関係で鷹山公だけの紹介となりましたが、これらに共通するものは何なのでしょうか。毛利 “折れない心”です。諦めない信念とでもいうのでしょうか。私もSEの出身なので痛いほどわかるのですが、プロジェクトというものは順風満帆で進むものばかりではありません。問題を抱えたプロジェクトの原因を突き詰めると、一方的に受注側が悪いとはいい切れないケースも少なくありません。お客様、つまり発注側に起因することだってある。しかし、立場上、部下を厳しく叱責するとともに、その部下を守るのもまた上司の務めなのですね。鷹山公については「慈愛を貫く」「自ら範を示す」「藩主は権力でなく責任」というポリシーに、私がまだ部長だったとき、強く心を打たれました。以来、座右の銘にしています。
──「世界でいちばん~」と菩薩様についてはいかがですか。毛利 どの国も天地創造の神話や宗教が残されていて、実在したかどうかも今となってはわからない人物や神様をつくり出してきました。ひょっとすると、宇宙の法則みたいなものがあって、人間社会や企業経営もこの法則にのっとって動いているのではないか。迷ったときに芳香剤を机の上に置いて、先人の教えを胸に目を閉じると、何かすっと吹っ切れて、進むべき道がみえてくるような気がします。私が新会社の社長に就任することが決まったときは、「選ばれし大馬鹿者」だと自嘲してみたりしました。しかし、引き受けたからには、自身の信念にもとづいて全国の事業所を巡り、今まさに社員との「顔合わせ、心合わせ、力合わせ」に努めているところです。
──「力合わせ」のフェーズまで到達するのに、あとどのくらいかかるのでしょうか。毛利 多くの会社が統合・再編された結果の当社ではありますが、それでも基本的にみなNECグループの会社であり、根っこのところでの「心合わせ」まではできる。あとは、社会のさまざまな課題解決に貢献する「社会ソリューション事業」を推し進めるというNECグループ全社の大方針に向かって、これからはもっと広く、深く心を合わせていけば、自ずと「力合わせ」による成長は成し遂げられると確信しています。

‘地域が抱える課題を解決できたなら、きっと他の国にもって行っても通用する。’<“KEY PERSON”の愛用品>心を満たす「鷹山公の教え」 米沢藩主・上杉鷹山の教えを毛利社長は部長時代から心に刻んできた。組織や教育、責任のあり方など「古くさい」といわれながらも、「切羽詰まったら、鷹山公の教えを読み返す」ことで心を落ち着かせるそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
毛利隆重氏は、NECで流通・サービス業を長く担当してきた。流通・サービス業はコスト意識が強く、ITベンダーはときに過酷な条件を突きつけられることもある。余裕のないプロジェクトで火を吹いたりすることもしばしばで、こうしたなか毛利氏が片時も忘れなかったことが「お客様の笑顔の追求」である。
これは、「人を動かすのは、叱責ではなく、笑顔である」という信念に基づくもので、顧客が笑顔になれば、自ずと自分たちも笑顔になる。さらに笑顔が連鎖して、「自分の笑顔がほかの誰かを守ったり、笑顔にするかもしれない」と考えているからだ。「毛利流 スマイル・スパイラル理論」である。
また、毛利氏が好んで使う「顔合わせ、心合わせ、力合わせ」も、元はといえば、当時、M&A(企業の合併と買収)で大きく成長した顧客経営者からもらった言葉だ。「ご本人から許可を得て、私も使わせてもらっている」と、謙虚に学ぶとともに、顧客の笑顔を追求する姿勢を貫く。(寶)
プロフィール
毛利 隆重
毛利 隆重(もうり たかしげ)
1953年、高知県生まれ。東海大学政治経済学部卒業。89年、NEC入社。05年、業種ソリューションBU第五ソリューション事業本部流通システム事業部長。08年、NECソフト執行役員常務。09年、NEC執行役員。13年6月、NECシステムテクノロジー社長。14年4月1日、経営統合によって誕生したNECソリューションイノベータの社長に就任。
会社紹介
最盛期には20社ほどあったNECの地域SE子会社が、再編・統合を繰り返し、最終的に残った主要7社が統合したのがNECソリューションイノベータである。社員数は約1万2000人、内部取引を消去した旧7社の合算ベースの昨年度(14年3月期)売上高は約2600億円。NECグループの中核的SE会社として今年4月1日付で再スタートを切った。