社員が自己実現できる社内体制をつくる
──松原さんは、これまで、どちらかといえば会社を立ち上げることに取り組んでこられました。そういうキャリアからすれば、今回の社長就任は少し違いますね。松原 振り返ってみると、創業した会社というのは息子や娘のようなもので、「自分の会社」という意識がつい出てしまって、「みんなの会社」と思いながらも、私とスタイルが違う社員には「こうやれ!」だとか「しっかりやれ!」などと檄を飛ばしがちでした。また、「うちは、いい会社だろう」と、社員にアピールするのは自慢話のようで気が引けますし、社員が私と同じ意識レベルで仕事に就いているとは限りません。
一方、インターコムは高橋が築き上げたカルチャーそのもので、その会社で社長を任せられたというのは、確かにこれまでとは違いますし、社員の一人としてミッションを果たすという意識が強いというのが正直なところです。当社のすぐれたところを客観的にみることができます。例えば、日本の「ものづくり」に陰りがみえ始めているなかで、一つの製品に対して、企画から開発、マーケティング、販売までこなす力をもっている点は評価に値すると思います。浮き沈みの激しいIT業界で、30年以上継続していること自体、すごいことです。だから「インターコムは、こんなにいい会社なんだよ!」と、声を大にして自慢できます。
──「社員の一人」として、ほかの社員をどのようにみていますか。松原 自己実現に向かって成長しようとする意識が旺盛な社員が多いとみています。ただ、そのような人材を、これまできちんと評価する制度がなかった。だから、人事制度などを整備して、社員がさらに働きやすい環境づくりに取り組みます。
当社は、社員130人という決して大きいとはいえない会社ですので、社員一人ひとりが、どんな役割を果たしているのかを把握しやすい。たとえて言うなら、一人ひとりが起業家のように働けるんです。しっかりとした制度の下で、社員が積極的に新しいことに挑戦することができる。そんな会社にしていきたいと考えています。
製品拡販のカギをにぎるのは「連携」
──先ほど「インターコムの役割が変わった」という話が出ましたが、具体的にはどのようなことを進めていくのですか。松原 当社は、「通信」に関連するビジネスを手がけて、さまざまな製品を発売してきたのですが、それぞれ独立して展開してきたという経緯があります。しかし、市場は「通信」に関連するビジネスとして、通信事業者による回線インフラの提供、ネットワーク機器メーカーによるネットワークインフラの提供、クラウドサービス事業者によるサービスの提供など、広がりをみせてきています。そのなかで当社は、「通信・連携」をコンセプトに掲げました。このコンセプトを中心に据えて、まいと~くシリーズやEDI連携「Biware」でアプリケーション連携を果たす「通信ミドルウェア」、MaLionで連携コンプライアンスを実現する「運用マネジメント」、LAPLINKを使ったITサポート連携による「サービスデスク」、ナレッジ連携で可能な「ワークスタイル変革」という四つの事業テーマを立てました。この四つの事業を組み合わせながらビジネスを手がけていきます。「ワークスタイル変革」に関しては、現在、製品を開発しています。
──その四つの事業テーマによる製品の拡販策を教えてください。松原 基本的には販売パートナーに拡販してもらうわけですが、メーカー側から製品の位置づけを明確にして伝えれば、販売パートナーが売りやすい環境をつくることができるのではないか。例えば、まいと~くシリーズのユーザー企業は、「アプリケーション連携」は実現しています。今後は、MaLionを使って運用マネジメントを実現しながら「連携コンプライアンス」を提案していきます。既存のユーザー企業に対して、当社の製品を追加で導入すれば、「通信・連携」を実現して社内の各組織がつながることを訴えていきたい。
──しかし、販社がこちらの思い通りに各製品をまんべんなく売ってくれるものでしょうか。松原 よく聞くのは「新規顧客の開拓は難しい」という声です。販売パートナーも、いかに差異化を図ることができるかに知恵を絞っています。だからこそ、当社がコンセプトを明確にして、販売パートナーがすでに獲得している既存のユーザー企業を対象に拡販できる仕組みづくりが欠かせない。当社の製品を連携させれば、ユーザー企業が求めるソリューションを提供できるということを販売パートナーに訴求していきます。また、販売パートナー同士をつなげるビジネス連携にも取り組みます。
「通信・連携」をコンセプトに、現在、法人向けビジネスに軸足を置いています。実は、私が入社した4年ほど前から、徐々にではありますが、法人向け製品の新規開発プロジェクトなどを通じて社内体制の再編を進めてきました。まだ満足のいく体制とはいえませんが、法人市場でビジネスをさらに拡大する土台を整えてきました。
──これまでの取り組みは、売り上げなど、業績数値に現れてきているのですか。松原 今年度(2015年3月期)の上期は、今年4月上旬のWindows XPサポート終了で生まれた駆け込み需要や消費増税などの反動などで、前半は厳しい状況でしたが、予算は達成しました。通期では、2ケタ成長は固いと見込んでいます。

‘市場全体で機器をつなげる意味合いが変化しているなかで、今では当社の製品がこれまでとは違った使い方をされていると考えています。つまり、当社の「役割」が変わってきたということです。’<“KEY PERSON”の愛用品>おしゃれで便利な「クリックリーダー」 「文字を読むのがつらい」ので、老眼鏡を探していたところ、「メガネチェーンが不要で、便利なうえにおしゃれ」ということで購入した。用途に応じて色を使い分けている。「黒は謝罪するとき用」なのだとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
インターコムは、「inter COM:interCOMputer & COMmunication」をコンセプトに掲げている。だからこそ、コンピュータとコミュニケーション(通信)の融合を実現するソフトを開発してきた。通信がつなぐ役割から相互に連携する役割へと進化している状況にあって、「これまでは、高橋(啓介氏)の技術力とひらめきで製品が開発され、一つひとつが立ち上がった。これを連携させることが不可欠」と判断した。
創業者の高橋氏からバトンを受けて、松原社長は「やれるまで社長を続けたい」との考えを示す。現在、63歳。さまざまな会社を立ち上げてきたキャリアを生かして、「これまでのカルチャーを踏襲しながらも、社員がもっと積極的に新事業の立ち上げを実現できる環境づくりに取り組む」という。自身も、プロジェクトに積極的に参画するのだろう。プライベートでは、「最近、趣味でエレキギターを始めた」そうで、まだまだ向上心たっぷりだ。(郁)
プロフィール
松原 由高
松原 由高(まつばら よしたか)
1974年4月、NECに入社。84年7月、米アンガマン・バス入社。87年3月、アライドテレシスを設立して代表取締役社長に就任、94年4月、会長に就任。同年にランセプトを設立し、代表取締役に就任。2010年11月、インターコムに入社して執行役員に就任。12年6月から取締役を務め、14年6月、代表取締役社長に就任。営業本部長を兼務する。
会社紹介
1982年6月8日に設立。FAXソフト「まいと~く」シリーズなど通信を軸としたソフトの開発・販売を手がける。IT資産管理ソフト「MaLion」は、一つのパッケージでWindowsとMacの両方に対応している点で評価が高まっている。これまで創業者の高橋啓介氏が社長を務めていたが、今年6月にアライドテレシスなどを創業した松原由高氏が社長に就任。