ユーザー企業との連携がいいサービスを生む
──保坂社長ご自身は、これまでどんなスタイルで仕事に臨んでこられたのですか。 保坂 私は通信や電力向けの仕事が長く、ネットワーク関連を専門にしていました。忘れもしない失敗談があります。2000年の初め頃、IP電話が主流になると確信し、ある企業に提案して受注したまではよかったのですが、本稼働後に6時間もサービスを停止させてしまうという前代未聞の痛恨のミスをやらかしてしまいました。交換機時代なら、災害以外で電話ができなくなるなんて、少なくとも日本ではあり得ない話ですよね。NEC製品は品質が高いと自負していましたが、いかんせん、IP電話は新しい技術が多く、経験も乏しかった。
──どうやってリカバリされたのですか。 保坂 何とか復旧した後、ユーザー企業の社長に「直接、話を聞きたい」と呼び出されました。出入り禁止の宣告を食らうのは間違いないと腹をくくって出向いたところ、先方の社長が人払いをして、1対1で話したいというのです。まだ私が事業部長の頃で、向こうからみれば格下。そんな相手でも膝を突き合わせて話を聞いてくださるというのだからありがたい。私は「システムが停止してしまったのは当社のミス」と経験不足だったことを心から謝るとともに、「お客様の運用部門ともっと連携できていれば1時間以内に復旧できた」とも申し添えました。それ以降、トップの舵取りの下、その企業の情報システム部門と密接に連携して、サービス品質を格段に高めることができました。
少しおこがましい言い方ですが、いいサービスはユーザー企業とベンダーとの連携によって成り立つものだと思います。すべてはユーザー企業の顧客、つまり、エンドユーザーの満足や、感動のためにあるということです。
海外市場はNECグループの総合力で勝負
──グローバル市場を強く意識しておられますが、今、お話しいただいたようなユーザーとの濃密な関係を、海外でも国内同様につくっていくスタイルでは、少々ハードルが高くないですか。 保坂 本来なら、国内外関係なく、顧客とともにエンドユーザーの満足を見据えたサービスを提供する体制が必要でしょう。とはいえ、NECグループの海外売上高構成比は、まだ20%弱で推移していて、決して高い比率ではありません。語弊があるかもしれませんが、海外ビジネスを伸ばすためには、ある程度、手離れがいい商材が求められます。
例えば、NECグループは、先のサッカーW杯に合わせてブラジルの複数の主要なスタジアムのICTシステムを受注しました。そのときは、通信ネットワークや監視カメラによるセキュリティシステム、防災、映像、照明、空調などの各種制御システムを一括して納品する、いわゆる「フルターンキー」という方式で対応しました。ユーザーは私たちがお渡しした「鍵」を回すだけで、その場ですぐにシステムを使えるようになります。ちなみに、フルターンキーは、一般的には海外へのプラントの輸出や建設工事などで使われる用語です。
──扱いやすくすることで、手離れをよくするわけですね。 保坂 極端な話、スタジアムの建設業者は、サーバーを入れる部屋とケーブルを通す穴、監視カメラやスピーカー、映像機器を設置する場所だけをつくればいい。後は、NECがICTまわりを全部受けもちます。
──先ほどのアプライアンス化したパッケージと似ていますが。 保坂 規模が違います。ソフトなどをハードに乗せるのか、ハードが全体の一部なのか、というイメージです。フルターンキー方式は、われわれ製造会社だけではできないので、NEC本体はもとより、NECグループのソフトウェア開発の中核を担う毛利さん(毛利隆重・NECソリューションイノベータ社長)のところとも密接に連携していきます。
──売り上げの目標を教えてください。 保坂 旧4社の単純合算ベースの売上高は2380億円ですが、これを早い段階で3000億円の大台に乗せていきたい。当社はハード製造会社ですので、一定の規模を維持していかないとコスト高になってしまいますから。もちろん、本日お話しさせていただいた通り、ハード単体での販売ではなく、当社の工場であらかじめソフトやサービスを組み合わせて出荷するスタイルを増やします。これが、当社がNECグループ全体のビジネスを拡大する原動力になると考えています。

‘すべてはユーザー企業の顧客、つまり、エンドユーザーの満足や感動のためにあるのです。’<“KEY PERSON”の愛用品>山梨伝統工芸の名刺入れ 山梨県出身の保坂岳深社長のお気に入りは、地元名産の鹿革の名刺入れ。自身も山梨の観光・物産を宣伝する「やまなしサポーターズ倶楽部所属“やまなし大使”」となり、観光や果物、装飾品などの“歩く広告塔”を担う。
眼光紙背 ~取材を終えて~
コモディティ化が日々進んでいくIT機器は競争が激しく、残念ながら日本の電機メーカーは、この分野で規模だけを追求する状況にはない。生産子会社再編でNECプラットフォームズが発足したのも、こうした背景がある。
苦境のとき、保坂社長が思い起こすのは、IP電話の黎明期に経験した失敗。顧客であるユーザー企業との二人三脚で、サービスを軌道に乗せた。「すべてはIP電話を使うエンドユーザーの満足のため」という一点を支えとして、ユーザー企業との連携の深化につなげている。
直接代金をいただくのは、商品を導入するユーザー企業からだが、「B2Bビジネスはそれだけではうまくいかない」と保坂社長は考える。その先にいる最終消費者、エンドユーザーが満足し、感動してくれるようなサービスに仕上げてこそ、成功がみえてくるという。IP電話の失敗は、ITの歴史からすると小さなできごとに思えるが、NECグループにとっては大きな資産になったのではないか。(寶)
プロフィール
保坂 岳深
保坂 岳深(ほさか たけみ)
1956年、山梨県生まれ。80年、横浜国立大学工学部卒業。同年、NEC入社。03年、ブロードバンドソリューション事業本部電力・公益ソリューション事業部長。04年、キャリアソリューション事業本部キャリア・プロバイダー事業部長。10年、執行役員兼企業ソリューション事業本部長。14年6月、旧NECインフロンティア社長。同年7月1日、NECプラットフォームズ社長に就任。
会社紹介
NECプラットフォームズは、サーバーやネットワーク機器、POSレジなど民生用IT機器を製造する4会社が統合するなどして、今年7月1日付で発足した。社員数は約5400人、旧4社の単純合算ベースの2014年3月期の売上高は2380億円。NECグループの民生用IT機器製造の中核を担う製造会社である。