クリエイター向けのソフトウェアで圧倒的なシェアを誇る米アドビ システムズの日本法人社長に、日本マイクロソフトのCMO(最高マーケティング責任者)を務めた佐分利ユージン氏が就任した。エンタープライズITのビジネスに精通した生粋のマーケッターである佐分利氏が、クライアントソフトメーカーというイメージが強いアドビ システムズ(アドビ)の経営者に就いたのはなぜか。キーワードは「デジタルマーケティング」だ。アドビの新たな主力事業を日本に根づかせるべく、船頭の職を果たす佐分利社長の視線の先は──。
マーケッターとしても魅力を感じたアドビ製品
──佐分利さんは、日本マイクロソフトのCMOを務めた経験をもっておられて、マーケッターとして業界ではおなじみです。 佐分利 確かに、ずっとマーケッターとして仕事をしてきて、マーケティングの仕事に誇りをもっていました。正直にいって、とくに経営者になりたいとは思っていなかった。
──そんな佐分利さんがアドビで経営者になろうと決断した理由は何ですか。 佐分利 アドビという会社にそれだけ魅力があったということです。まず、製品力がすばらしい。ご存じのように、アドビは長年、クリエイター向けに「Photoshop」や「Illustrator」「InDesign」といった製品を提供してきました。世界中で愛用されている製品です。6~7年前からは、マーケティングの新しい手法として主流になっていくであろうデジタルマーケティングの領域にも投資し、先端のソリューションをラインアップしています。マーケッター視点でも、こうした製品は本当に魅力があるんですよ。
ビジネスモデルも革新的です。シリコンバレーでもいちはやく、ライセンスビジネスからサブスクリプションビジネスに思いきって転換しました。業界でもこれは話題になっていて、同じようにドラスティックに変えることができたのは、セキュリティソフトのベンダーくらいじゃないですか。
あとは協業文化が根づいているというのも大きいですね。アドビでは、三遊間のゴロをサードもショートもお見合いして捕らない、みたいなことはあり得ません。人とカルチャーも魅力的でした。
──佐分利さんのキャリアを考えると、やはりデジタルマーケティングツールの「Adobe Marketing Cloud」を国内で普及させていくことがミッションになりそうですね。 佐分利 実際、マーケッターとして、デジタルマーケティングツールの必要性を感じていました。前職では、ソーシャルリスニングのツールを社外から買ってきたり、マーケティングオートメーションのアプリケーションを自前でつくったりして使っていたんですが、結構苦労したんですよ。それに、お金もものすごくかかりました。
──当時、アドビ製品は試さなかったのですか。 佐分利 マーケティングツールとしては使わなかったですね。ただ、アドビがデジタルマーケティングに投資していることは耳にしていましたし、注目はしていました。
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