顧客のグローバル化を全面的に支援
──PCやプリンタ、サーバーやストレージなどを一体で扱ってきたような販売パートナーでは、分社化によって混乱が生じたりしていませんか。 そもそも、分社前のヒューレット・パッカードが1社で何でも売っていたわけではないですよね。ですので、PCやプリンタがなくなったことに、こだわりはありません。インフラをコアにするための製品は揃っています。しかも製品をフォーカスした分、開発に投資するだけでなく、販売パートナーに対して一段と手厚く支援するために投資することもできるのです。もともと製品ポートフォリオが広く、製品ごとに営業担当者がいましたので、当社に窓口の社員がいなくなったということはありません。さらに、製品を絞った分、販売パートナーのメリットにつながるキャンペーンなども強化できるようになります。
──販売パートナー網の再構築などは行っていくのですか。 いえ、当社から再構築を行うようなことはしません。販売パートナーとは引き続き協業を強化していきたいと考えています。
──今後、日本HPとの連携はどうしていくのですか。また、日本HPと競合する他社とのパートナーシップについては、どう考えていますか。 分社したとはいえ、日本HPは当社をよく知っている一番のパートナーです。そのため、組めるところは積極的に組んでいきますよ。ただ、日本HPだけに固執するかどうかについては、将来的に考えていかなければならないことだと捉えています。先ほども申し上げたように、将来を見据えた分社化なので。とくに、(外資系ではない)国内メーカーさんとは、これまでもパートナーシップを組むケースがありましたので、将来的にはパートナーシップを深めていく可能性は十分にあります。
──競合として意識するベンダーは。 「サーバー」「ストレージ」「ネットワーク」など製品カットですと、それぞれに競合はいますが、当社が注力する四つのフォーカスエリアでは競合よりも協業を強化します。当社がインフラを提供する一方、パートナー企業がインフラ以外の部分で製品・サービスを提供する。今は1社だけで何もできないですし、ましてや四つのフォーカスエリアでは、さまざまなベンダーとさまざまなかたちでパートナーシップを組むことが、お客様を元気にすることにつながると確信しています。
──達成したい目標は。 やはり「日本の社会やお客様を元気にする」「お客様の役に立つ」に尽きますね。それには、当社の社員がお客様のグローバル化をお手伝いできなければならない。例えば、グローバルの各拠点に当社の社員がいてお客様を支援する。このような環境をつくっていきます。
──どれくらいの期間で達成しますか。 すぐに達成するのは難しいかもしれませんが、長い時間を費やすことはできません。それを踏まえて、「3年以内」が妥当ではないでしょうか。

‘分社化は将来を見据えたうえでの判断です。製品・サービスを広げたところで、今あるものなので、その製品はいずれ過去になってしまう。’<“KEY PERSON”の愛用品>この本をきっかけに格言を創造 ポール・アーデンの格言集。「大事なのは今のあなたじゃない。この先、どのくらい上を目指そうと思っているかだ」というタイトルに賛同して購入したという。この本がきっかけとなり、「自分でも格言を考えるようになった」そうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
取材の日、吉田社長はジーンズで登場。スーツ姿のイメージが強かったので、「いつもと違いますね」とたずねると、「社内では、いつもこの姿なんです」という答えが返ってきた。楽しみながら仕事をしようというのが吉田社長の信念で、「社員にも、相手に失礼にならなければ、どんな服装でも構わないと話している」とのことだ。
「お客様から、『真面目なところはいいが、もっと踏み込んだ提案をしてほしい』といわれる社員が多い」そうだ。ヒューレーット・パッカードの歴史をたどると、1939年にシリコンバレーで生まれ、長きに渡って次々と革新的な製品・サービスを開発してきた。「シリコンバレーのマザーカンパニーとして、もっとクリエイティブに発想し、お客様に一歩進んだ提案をしようと社員に呼びかけている」。自由な格好は社員一人ひとりの個性を生かすという意味合いも込めているようだ。(郁)
プロフィール
吉田 仁志
吉田 仁志(よしだ ひとし)
1961年、神奈川県生まれ。83年、伊藤忠グループ事業会社に入社。伊藤忠商事を経て、一貫して同グループにおける日米両地域の情報産業分野での業務拡大に従事。その後、ケンブリッジ・テクノロジーパートナーズ、ノベル、SAS Institute Japanなどの社長を歴任。2015年1月、旧・日本ヒューレット・パッカード代表取締役社長執行役員に就任。同年8月1日から現職。米・タフツ大学卒業。スタンフォード大学大学院コンピュータサイエンス研究科で修士号、ハーバード大学ビジネススクールでMBAを取得。
会社紹介
1963年、横河ヒューレット・パッカードとして創立。69年にコンピュータ分野に参入し、95年に日本ヒューレット・パッカードに社名を変更した。02年の米ヒューレット・パッカードとコンパックコンピュータが合併。大手メーカーによる大型統合として業界でも注目を集めた。その後も、数々の合併を進めて、PCやサーバー、ストレージ、ネットワーク機器、プリンタ、ソフトなど、製品ポートフォリオを広げた。15年8月1日、PC・プリンティング事業を日本HPに分割し、エンタープライズ事業を手がける企業として生まれ変わった。