アナリティクス・ソフトウェア市場で孤高ともいえる存在感を放ってきた米SAS Institute。昨年、新たなデータ分析プラットフォーム「Viya」を発表、リリースし、デジタル変革の主役となるべくビジネスモデルをアップデートした。AI、IoTといった新興技術へのSASなりの向き合い方とは――。
成長のDNAが組み込まれたビジネス
──SASは創業以来、40年にわたって連続して増収増益を続けていますが、驚異的ですね。
リーマン・ショックの年も成長しましたしね。SASは、ビジネスモデルに成長のDNAを組み込んでいるんです。
──もう少し詳しく教えてください。
ソフトウェアの会社は、ライセンスを売ってその後に保守料を取るというのが一般的ですが、SASはもともとの発想がサブスクリプションなんです。ソフトウェアの利用に対して料金をいただくモデルなので、お客様がキャンセルしない限り、基本的にビジネスが続いていく。1年目は少し多めにいただきますが、キャンセル率は非常に低い。だから常に成長し続けられるわけです。
──クラウド時代になって、サブスクリプションでソフトウェアを使うのはあたりまえになりつつあります。
創業者のドクター・(ジム・)グッドナイト(CEO)に独自の哲学があったことが、時代を先取りする結果につながったと思っています。SASは、あるタイミングで大きな利益を取ってドカッと儲けていくということを考えませんでしたし、買収をして手っ取り早く成長しようともしませんでした。他のITカンパニーは積極的にM&Aをやっていますが、そのためには、上場して市場から資金を調達する必要があります。SASには、とにかくお客様の経営課題にフォーカスし、そこに対してサービスと製品を投入して、お客様に長く利用していただき、自身のビジネスも拡大していくという発想があるんですね。こうした戦略を採ることができた大きな要因の一つは、42年間ずっとプライベートカンパニーを貫いてきたことです。私はコンサルタントとしてのキャリアが長いですが、SASのビジネスモデルは、いたるところに経営理念や創業者の意志、哲学が埋め込まれているよくできたモデルだと感じています。
Viyaがユーザー、市場のすそ野を拡大
──就任から2年が経って、日本市場でのビジネスについてはどう自己評価されますか。
アナリティクスの市場は、一桁台後半の7%か8%くらいで成長していて、低成長の日本にあって成長市場でビジネスができているというのは幸運なことです。ただ、われわれはマーケットの成長率を超えて成長しなければならないわけで、実際に、市場全体の2倍以上の成長率を維持できているのはポジティブなことだと思っています。
──成長をけん引しているビジネスは何ですか。
SASが一番強いのは、統計解析やデータマイニングなどの高度な分析を行う「アドバンスド・アナリティクス」の市場です。金融におけるリスク管理、取引の不正防止、オムニチャネルでのワン・トゥ・ワン・マーケティング、そしてIoTでもその可能性が大いに注目されています。センサから100ミリ秒くらいの頻度で流れてくるデータを分析することで、物が壊れる前に予測して対応したりといったことが可能になるわけです。
──SASと競合ベンダーの端的な違いは?
領域特化型とか特定機能に絞った製品を提供するベンダーはいますが、アドバンスド・アナリティクスの領域全般をカバーしているベンダーはSASだけです。さらに重要なのは、どこかからデータを引っ張ってきて、それを分析可能な状態に加工して、分析して、分析結果のモデルを実行系のプロセスに埋め込んで業務のフローに乗せていくという一連の作業を一つのプラットフォーム上で全部できることです。それができるのもSASだけです。他のベンダーがM&Aで足りないピースを埋めようと思っても、なかなかうまくいかないことが多いというのは私も経験上よく知っています。やはり42年間アナリティクスだけをずっとやってきたからこその強みだと思います。
──2016年末には新しいデータ分析プラットフォーム「Viya」をリリースされました。狙いは?
Viyaは、これまでSASが強みとしてきた独自のSAS言語だけでなく、オープンソースの言語を使って、SASがもっているアルゴリズムをそのまま直接コーディングしてデータ分析できるようにしています。いわば、SASの世界とオープンソースの世界の共存共栄を図ったわけですが、これは画期的なことです。
実は、アドバンスド・アナリティクスの領域でSAS製品の最大の競合はオープンソースなんです。データサイエンティストの方々が、RやPythonなどを使って自らアルゴリズムを実装して分析するというのが大きなトレンドになってきています。Viyaには、オープンソースコミュニティにもSASユーザーのすそ野を広げていくという大きな役割があります。
さらに重要なのは、近年、ビッグデータ、AI、IoTがトレンドとして浮上するなかでアナリティクスの利用領域が拡大していることです。エンド・トゥ・エンドで異なるシステムをつなぎ、さまざまなところに存在するデータを集めて分析し、一つの大きなプロセスを最適化していく世界が広がってきています。例えば、ファクトリー・オートメーションのシステムから吐き出されるデータを拾ってSAS製品で分析し、リアルタイムで制御系システムにフィードバックしていくような使われ方も出てきています。Viyaは全機能をオープンなREST APIとして公開していますし、現在のアナリティクスを取り巻く大きなエンド・トゥ・エンドのシステム開発の流れにマッチしている。SASがいままでアナリティクスで積み上げてきた知見を広く活用していただける環境ができ、SASにとってのマーケットも大きく広がったといえるでしょう。
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