将来の伸びしろとなる領域を重視
──権田体制となったF5ネットワークスジャパンとしての経営指標を教えてください。
20年までにADC(ロードバランサ)の国内シェアを直近の36%から50%に高める。WAFをはじめとするセキュリティ関連ビジネスを3倍に増やす。DevOps領域の売り上げ貢献度を5%にする。これら三つの柱で日本法人の売り上げを3割増やすというものです。
──マルチクラウド対応に伴う継続課金モデルへの移行を掲げつつ売り上げを伸ばすのは、かなり困難が伴うのではないでしょうか。
「満足ゾーン」の罠ですね。当面の売り上げが小さいからといって、今の満足ゾーンにとどまろうとしてしまう。気持ちはわからなくもないですが、それは悪手です。
日本でもあと数年もすればオンプレミス/プライベートクラウド/パブリッククラウドを自由に使い分ける時代が一層実感できるようになる。そうなったときに、「うちはオンプレミスがメインです」といっていてはアウト。確かに課金型は、従来のように高価な機器を販売するより、一度に立つ売り上げは小さいですよ。でも、長い目でみれば継続課金はストック型の安定収益になります。
20年の段階では売り上げに占める課金型の割合はまだ少ないかもしれませんが、25年には売り上げの半分以上を占めるようになると予測しています。中長期的にみればそのくらいインパクトのある収益モデルの変化なのです。
その頃には、コンテナ型やマイクロサービスといった新しい開発手法が一般化し、例えば「今日はAWSよりGoogleのほうが安いから、そっちで動かそう」とか、今ではあり得ないような柔軟さをもってクラウドを使い分けるようになる可能性が高い。そうした時代になっても当社の製品を使い続けてもらうには、今のうちからマルチクラウド対応や課金型への対応を進めていく必要があるのです。
──DevOpsは開発と運用を一体的に行う手法ですが、これとF5ネットワークスのビジネスがどう関係するのでしょうか。
ここは少しわかりにくいところかもしれません。「Dev」は開発、「Ops」は運用ですよね。当社製品はITインフラ寄りの割合が多いことから、「Ops」の部分をITインフラに置き換えてみるとわかりやすくなると思います。
開発担当者はビジネスで求められるアプリケーションを、とにかく早くつくりたい。ITインフラの担当者からすれば、セキュリティや安定稼働にこだわりたい。両者は微妙に食い違うことが多く、このギャップを当社製品やサービスで橋渡しする。ここに将来に向けたビジネスチャンスがある。
ユーザー企業は、何か新しい事業を始めようとしたら、まずはその事業を支えるアプリケーションをつくらなければなりません。つくったあとはITインフラ上で動かして運用するわけですが、この連携を円滑に行うにはマルチクラウドやセキュリティをしっかり担保する仕組みが必要となります。当社のビジネスターゲットは、直近ではいわゆるITインフラのネットワーク領域が大半を占めています。これを25年までにはネットワーク、DevOps、セキュリティの各領域をバランスよくする。そうして伸びしろとなる領域をどんどん増やしていきたいですね。
「満足ゾーン」にとどまっていては成長はない。
これだけははっきりいえます。
<“KEY PERSON”の愛用品>テニスの話で子どもたちとの会話も増える
子どもたちに影響されて始めたテニス。相手の動きを読み、どこにボールを落とすかの「駆け引きがテニスの魅力」と、すっかり魅了されたと話す。テニスを媒介に子どもたちとの会話も増えた。今ではテニス用具一式が権田社長の愛用品となっている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
権田裕一社長が目標に掲げるのは既存の事業とは異なる領域。マルチクラウド環境や、コンテナ/マイクロサービス、DevOpsといった開発・運用を支援するビジネスだ。ロードバランサをはじめとするネットワーク機器ベンダーにとっては、新しい領域である。
米本国の最先端のデジタル産業ならともかく、国内の業務システム中心のIT市場では、ビジネスとして立ち上がるまで時間がかかるのではないか――。記者の質問に対して権田社長は、「だからこそ市場を新しくつくるんです」と、明確に答える。
強みとするロードバランサの国内市場シェアは約36%。これを2020年までに50%へ高めるとしている。だが、これはF5ネットワークスが得意とする既存の領域。ここで満足してしまっていては、その先はない。新しい市場をつくり、その市場を牽引するリーダーになる意欲を強く感じたインタビューだった。(寶)
プロフィール
権田裕一
(ごんだ ゆういち)
1971年、埼玉県生まれ。94年、米テキサス州オースチンのセントエドワーズ大学卒業。95年、ウェザーニューズ。99年、ユーユーネットジャパン。2001年、ジュニパーネットワークス。09年、フォーステンネットワークス代表執行役社長。10年、ブロケードコミュニケーションズシステムズ執行役員営業本部本部長。17年10月1日、F5ネットワークスジャパン代表執行役員社長に就任。
会社紹介
F5ネットワークスジャパンは、ロードバランサやWAFなど、すぐれた製品を多数もつベンダーだ。米本社の2017年9月期の連結売上高は前年度比4.8%増の21億ドル(約2200億円)。過去最高の売り上げを達成している。