フォー・カスタマーではなくウィズ・カスタマー
――5月に開催した年次イベントでは、新たにセカンダリストレージ向けの製品を発表されました。
HCIの中核は、需要に応じて柔軟にリソースを拡張できるスケールアウト・アーキテクチャーです。また、ニュータニックスのAPIの上にはさまざまなサービスが構築されていますが、その一つがオブジェクトストレージです。これらはセカンダリストレージの用途に非常に適した技術であり、私たちがその市場に参入することは、非常に自然な選択と言えるでしょう。何よりお客様が、セカンダリストレージのサポートを求めています。
また、バックアップソフトウェア企業の多くは、HCIとのインテグレーションを可能にするパートナーを探していました。そこで私たちは 「Mine」 という新製品を導入しました。ヴィーム、ハイク、コンボルト、ベリタスなどのソフトウェア・パートナーと協業し、HCIとバックアップの運用・管理を統合することができます。
最近では、二つの異なるレベルのメタデータを持つようにコアOSを刷新し、「AES(Autonomous Extent Store:自律化エクステントストア)」と呼ばれる新しい機能を備えました。数百テラバイトのローカルストレージを持つ深いノードもサポートし、非常に効率的なやり方でセカンダリストレージのサービスを提供できるようになります。当社は非構造化データでも高いパフォーマンスを実現しており、データの取り扱い全般に関して非常にうまくいっていると言えると思います。
――コンテナのサポートにも注力されていますが、ほとんどの日本企業はコンテナに関心がありながらも、実環境への導入はこれから検討という段階です。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進には、エッジで実行されるアプリケーションが非常に重要な役割を果たすと考えています。その中で例えば、IoTソリューションにおける機械学習やAIエッジ向けアプリケーションは、コンテナ化された形で構築されるのが自然でしょう。また、ここ10年ほどの間に構築されたNoSQL系のアプリケーションは、スケールアウト可能でコンテナ化に適しています。
私たちは「フォー・カスタマー」ではなく、「ウィズ・カスタマー」でイノベーションを実現していこうという企業姿勢をとっています。多くのシリコンバレー企業は、開発した製品を顧客に提供するにあたって、「このソフトウェアはこう使ってほしい、こう使うべきだ」といった強い持論があります。一方、私たちは、お客様と手を取り合って、カスタマーエクスペリエンスをベースに製品を作り上げてきました。私たち自身、さまざまなソフトウェアスタックのコンテナ化に取り組んできました。この経験をお客様やパートナーと共有することで、日本企業のDXにも貢献できると考えています。
――多くのベンダーがカスタマーファーストを掲げていますが、「フォー」ではなく「ウィズ」を強調するというのはユニークですね。
競合製品では、大きなバージョンアップが行われる際、既存製品の顧客に対してアップグレードパスが提供されないという例がありました。いかに優れた機能であっても、当社はパスがない状態でバージョンアップを行ったことは一度もありませんし、これからも行いません。ニュータニックスは常にユーザーの目に見えないところで、ソフトウェアやデータの形式を自動的にアップデートしているので、ユーザーを置いてきぼりにすることがないのです。当社はお客様やパートナーが投資してくれた時間とお金を大切にしています。お客様に代わって、私たちの技術者が常に最適化に取り組んでいるインフラであること。これは、当社のHCIだけが実現できる部分だと考えています。
Favorite Goods
毎日身につけているのは自動巻のアナログ時計。毎晩ワインダー(巻き上げ機)に乗せ、月初には手動でカレンダーの日付を調整しなければならない。しかし、常に変化するテクノロジーの世界で、その一手間をかける時間が、自分を冷静に保つのに役立っているという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
好きな日本語は“Kodawari”と“Gaman”
世界的に見ても日本は、スマートフォン市場におけるiPhoneのシェアが非常に高い国として知られる。使い勝手を高めるためのあらゆる工夫が詰め込まれており、一度使うと多くのユーザーは次もiPhoneを選ぶ。
ニュータニックスのディラージ・パンディCEOは、同社のハイパーコンバージドインフラ(HCI)を通じて、iPhone同様の優れた体験を日本企業に提供したいと話す。「日本市場の顧客は、製品のデザインと、それを通じて得られる体験を非常に重視する。期待に応えるため、当社は細部への『こだわり』を惜しまない」。日本の顧客や報道陣との会話の中で、「こだわり」の部分は必ず日本語で発音する。次もニュータニックスを、と指名買いされるような製品を作り上げるには、機能・性能上の要件を満たすだけでなく、システム担当者の琴線に触れるような快適さを提供することが不可欠という考え方だ。
「こだわり」に加えて、パンディCEOが好きな日本語として挙げたのが「我慢」。革新的な企業ほど、声高にイノベーションを叫んだことで、かえって顧客の離反を招くことがある。そこでグッとこらえて、まずは顧客が本当に欲しているのは何かに耳を傾けることが重要だと説く。
プロフィール
ディラージ・パンディ
(Dheeraj Pandey)
インド工科大学、テキサス大学オースティン校で計算機科学を専攻し、米国でソフトウェア技術者として製品開発に従事。その後、米オラクルでストレージエンジンの開発を主導するシニアマネジャー、米アスターデータ(現テラデータ)でエンジニアリング部門の責任者を務め、2009年に独立しニュータニックスを設立した。
会社紹介
2009年、米カリフォルニア州サンノゼで設立。11年に初の仮想化基盤製品を発売し、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)という新たな製品カテゴリーを形成した。当初はアプライアンス型での製品提供を行っていたが、現在はソフトウェアのサブスクリプションが主力。2019年7月期の売上高は約12億4000万ドル(約1340億円)、世界の従業員数は5340人。日本法人は13年設立。