オートデスクは、製造業、建築業の業務プロセス変革を軸にビジネスを伸ばしている。製造業では仮想空間で精緻な製造シミュレーションをする「デジタルツイン」の推進役を担い、建築業では設計と現場の施工管理のワークフローを支える基盤としての役割を果たす。同社が強みとする三次元CADの技術を応用したもので、製造や建築にかかわる業務プロセスをデジタルによって変革することでビジネスを伸ばしている。単なるツールとしてのCAD製品のビジネスが成熟する一方、製造や建築のデジタル変革を推進する推進エンジンやプラットフォームとして存在感を一段と高めている。織田浩義社長に話を聞いた。
ツールとしてのCADからの転換
――オートデスクの全世界の昨年度(2019年1月期)売上高は、前年度比25%増の25億ドル(約2700億円)と大幅に伸びています。どういった背景がありますか。
私の担当は日本市場ではありますが、大きな流れとしては海外と国内と共通点が多い。三次元CADを活用して生産性を高めたり、AIやワークフローエンジンを使って業務プロセスを変革する動きをうまく捉えた結果だと思います。単純なCADツールとしての製品市場はすでに成熟していますが、三次元CADを軸として、建築業ならば「設計と現場の融合」、製造業ならば「設計と製造の統合」といった業務プロセスを改革をするビジネスが伸びています。これに関連技術を持つベンダーのM&Aなどが加わり売上増につながっている、という構図です。
――三次元CADは以前からある技術だと思いますが、なぜ、今になって再び注目されることになったのでしょう。
CADは、建築業向けのCADと製造業向けのCADの大きく二つに分かれるのですが、例えば建築CADを例に挙げると、建築現場の関係者や発注者といった設計者ほど図面に精通していない人も数多くいます。図面を立体化することで誰でもおおよそのイメージが掴みやすくなる。現場で「こうしたほうがいい」「ああしたほうがいい」といった改善案を立体図に書き込んで設計に戻したり、発注者である顧客に向けて「出来上がりはこんなイメージになる」と提示して、すばやく同意を取り付けるという使い方が増えています。
施工管理者が図面とカメラを抱えて1時間かけて現場に出向いて、施工現場で打ち合わせをするようなケースの課題もあります。現場の写真を撮り、修正が必要な場合は図面に修正を加える。それをまた1時間かけて事務所に戻り、写真を印刷して紙の図面とともに台帳に貼り付ける。もし、クラウド上で全て完結できれば生産性を大幅に高められますし、実際に図面の修正や報告書の作成にかかる工程が40~50%削減できた事例もあります。
――就労人口が減っていく日本では、生産性向上が重要課題になっており、三次元CADを軸としたワークフローは効果的だと言えそうです。
この仕組みは、ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM=ビム)と呼ばれています。三次元CADは単なる立体図ではなく、そこにコストや仕上げなどの管理情報を関連づけて、建築業務のワークフローの基盤として機能させることで生産性向上につなげられます。
国内の建築業界では25年までに就労者の2割が定年退職することが見込まれており、減少分を補うだけの生産性を高めなければ立ち行かなくなる可能性がある。この危機感がBIM需要を呼び起こし、当社の三次元CADを軸としたBIM準拠のワークフローシステム「BIM 360」の販売増につながっています。見方を変えれば、就労者の減少以上に生産性を高めればそれだけ利益増につながるわけで、海外ではもっぱら利益の最大化を主眼としてBIM 360の採用が増えています。
設計と製造プロセスを統合
――製造CADの分野ではどうですか。
製造業ユーザーでは、いわゆる「デジタルツイン」と呼ばれる設計手法が盛んに取り入れられています。三次元CADでコンピューター上の仮想空間に精緻な模型をつくり、それに重さや強度、素材などのデータを付与することで、現実と同じ状態をシミュレーションする手法です。
当社では、これにAI技術を加え、あらかじめ指定した重さや強度、寸法、素材のデータを与えることでAIが何百通りの精密な三次元モデルを瞬時に仮想空間上に生成します。要件や素材データのみならず、今ある既存の生産設備で最も効率よく、低コストでつくれるといった条件を加えていくことで理想の設計モデルを絞り込んでいきます。当社では「ジェネレーティブデザイン」と呼んでいます。
昔は設計したものを生産部門の担当者が勘と経験で生産ラインへと落とし込んでいましたが、今は仮想空間の中で設計と製造を統合し、コンピューターのなかから生産ラインへ最適な状態で出力できるまでデジタルツインの技術が進歩しています。
――デジタルツインという文脈で言えば、建築CADの分野にも応用ができそうです。
ご指摘の通りで、仮想空間でビルの窓の種類や外壁の素材、太陽光に対する建物の角度を変えることで、冷暖房をはじめとするビル全体のエネルギー消費が向こう50年どう変わるのかを仮想空間でシミュレーションするといった用途で活用されています。当社では、三次元CADの技術を応用するかたちで、CG映像の制作ソフトウェアの開発にも力を入れています。実写映画さながらのCG映像に仕上げることで、あたかも本物の建築物や製品がそこに存在するかのようなリアルなシミュレーション、イメージづくりを可能にしています。
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