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進化し続ける「AutoCAD」、No.1メーカー、オートデスクが提案する新時代の設計環境

2011/09/29 19:55

 CADソフトの老舗として、5割を超えるシェアで常にNo.1メーカーの座に君臨してきたオートデスク(鬼澤盛夫社長)。トップの座に甘んじることなく、現在もユーザーの要望を吸い上げて定期的に機能を強化し、使いやすさと効率的な設計環境を提供し続けている。その強みと今後の戦略を探った。

高精度、効率的作図で普及したデファクトスタンダード

 「CADソフトは製造業や土木・建築業を中心にかなり浸透しました。筆記用具と同じような感覚で利用されるようになったといってもいい。『AutoCAD』や『AutoCAD LT』は、設計の規模や内容にかかわらず汎用的に使える充実した機能を備えています。先ごろ本社からも発表がありましたが、おかげさまで前年度比16%の成長を遂げています」と話すのは、草谷裕信プラットフォームソリューション本部長。オートデスクの主力製品であるCADソフト「AutoCAD」「AutoCAD LT」は、「高精度の図面描画」「効率的な作図」「高いデータ互換性」という、創業から30年以上変わらないコンセプトにこだわって開発した製品だ。

草谷裕信プラットフォームソリューション本部長

 設計図面は、複数の設計者が編集・レビューに携わることが多い。業務に支障を来さないためには常に高精度で最新の図面を使う必要がある。「AutoCAD」のデータフォーマット「DWG」は、CAD業界で事実上の標準規格として定着している。業界標準として競合ソフトの多くが互換を謳っているDWGは、もともと「AutoCAD」「AutoCAD LT」のネイティブ・フォーマット。オートデスクでは「TrustedDWG」と呼んでいるが、これがトップシェアの大きな原動力になっている。

顧客の生産性向上とパートナービジネスの創出を両立

 CADソフトの定番「AutoCAD」「AutoCAD LT」の市場をさらに活性化させるために、オートデスクでは「APE(AutoCAD Productivity Enhancement)」という新たなプログラムを展開する予定だ。これは「AutoCAD」「AutoCAD LT」がもつ多くの機能をユーザーに伝えることで生産性向上を支援する、コンサルティングビジネスモデル。今秋から各パートナーで展開できるよう準備中である。

 APEでは、「AutoCAD/AutoCAD LT」を「どのように使っているか」「どの機能を使っているか」などの利用状況を顧客が記入したチェックシートと業務で利用している図面を分析。ここから浮き彫りになる課題に対して改善策を提案する。この提案をするためのスキルを備えたパートナーエンジニアの育成も、着々と進行中だ。

 オートデスクの調査によると、多くのユーザーは「AutoCAD/AutoCAD LT」がもつ機能の約15%しか使っていないという。使っていない複数の機能を使えばどの程度作業時間が削減できるか具体的に提示すれば、もっと生産性は向上できるという“気づき”が生まれ、ひいては新バージョンへの乗り換えも促進される。

 APEはユーザーにとってみれば、業務生産性を向上できるプログラム。設計ソフトはこれから復興計画を軌道に乗せていくためには欠かせない重要なツールである。一方、パートナー企業からみれば、コンサルティングビジネスとユーザーの最新版への移行だけでなく、Windows 7に対応する関連ソフトウェアや、ハードウェアの入れ替えなどの拡販に結びつく活動になる。ユーザーとパートナーの両者にとって、大きなメリットがあるプログラムといえるだろう。

クラウドやスマートデバイス、3Dを活用できるイマドキの設計環境を提案

 もちろん、既存マーケットでのビジネスを広げるだけではなく、新規顧客の開拓も狙っている。CAD市場で圧倒的なシェアを誇る同社だが、草谷本部長は「まだまだ開拓の余地はある」という。

 例えばディスプレイデザインやインテリアデザインの場合、ラフスケッチの後に三次元モデルを作成して、周囲の環境などと照らし合わせてアイデアを検証するという作業がある。設計図面作成においては生産性の高い「AutoCAD」だが、このようなワークフローのすべてをカバーできるわけではないのが実情だ。また、業界にかかわらず、クライアントは設計図面のままでは完成予想図をイメージしにくく、意思疎通が難しいことが多い。

CADソフトの定番「AutoCAD」と、3D導入に最適な新商品「Autodesk Design Suite」

 3次元で表現することでデザインの意図をわかりやすく伝えるという業務ニーズに対応するために、オートデスクが先般発売を開始したのが「Autodesk Design Suite」だ。コンセプトづくりのスケッチに便利な「Autodesk SketchBook Designer」、コンセプトモデリングと基本設計、実施設計に最適な「AutoCAD」、ビジュアライゼーションや検証のための「Autodesk 3ds Max Design」「Autodesk Showcase」などで構成するスイート製品で、設計のための製品とビジュアル化のための製品の連携により、ワークフローを通して同じデータを使うことができ、設計効率を向上したり、設計意図を的確に伝えることができる。

「Autodesk Design Suite」でのコンセプト モデリングとデザイン案検討例

 それに、クラウドやモバイルデバイスへの対応にも積極的だ。昨年夏から、iPadやAndroidの普及と同時に、「いつでも・どこでも・どの端末でも」図面を閲覧・編集・共有できるクラウドサービス「AutoCAD WS」の提供を開始している。

 「AutoCAD WS」は、「AutoCAD」のためのウェブおよびモバイルアプリケーション。オフィスだけでなく、これまで図面を印刷して持ち歩いていた現場業務でも、クラウドを介してモバイル端末上で常に最新の図面データを共有・編集できる。事務所にいったん戻って図面を直して再提出、といった手数が減るし、遠隔地の設計者同士が、リアルタイムで一つの図面を同時に編集するという、これまでとはまったく異なる共同作業ができるようになる。オートデスクは、今後もこうしたオフィスと現場の作業環境を大きく変えるクラウドサービスを拡充していく予定だ。

iPadから「AutoCAD WS」を利用

 「高精度の図面描画」「効率的な作図」「高いデータ互換性」という製品コンセプトを実直に守りつつ、高い生産性を実現する製品を世に送り出してきたてきたオートデスク。ユーザーに、CADソフトのもつ機能をフルに活用してもらうことで生産性をさらに向上させる取り組みを行うと同時に、クラウドやスマートデバイス対応など、新しいテクノロジを用いた作業環境を提供している。厳しい市況感のなかでも、オートデスクが成長し続けているのは、こうした姿勢がユーザーやパートナーに浸透しているからにほかならない。今後もオートデスクがCAD市場をけん引する存在であることは間違いない。
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