パートナーとともに変革を後押し
――90年代は、多くのシステム販売会社に「CAD販売課」があり、製造や建築の業種に向けて積極的に販売していました。そうした強力な販売チャネルが衰えている印象です。
従来のパッケージソフトの売り切り型から月額で利用するモデルに販売形態が大きく変わったのは事実です。また、以前のCADは単なるソフトウェアツールに過ぎませんでしたが、今は業務プロセスそのものを大きく変えるソフトウェア基盤へと変貌を遂げています。従って、当社のビジネスパートナーにおいても、ツールの販売ビジネスからデジタル変革ビジネスへと形態が変わってきています。
初期の建築CADは、紙の図面でやっていたものをデジタル化しただけに過ぎませんでしたが、今ではBIMのように設計から現場の施工管理まで一つのデータで融合し、これをクラウド上で共有してワークフロー全体をデジタル化する基盤として活用できるようになりました。AIによるジェネレーティブデザインは、製造CADのデジタルツインの流れの中で、設計ツールの枠を越え、「人間とAIの共同作業」と言えるまで自動化、高度化し、設計と製造の統合が進んでいます。こうしたユーザー企業のデジタル変革をビジネスパートナーとともに推進していきたい。
――グローバルで見たとき、三次元CADを活用した日本のデジタル変革はどうでしょうか。
そうですね。単純に直近の当社売上構成比で見ると、日本を含むAPAC(アジア太平洋地域)は約20%。米州とEMEA(欧州・中東・アフリカ地域)が約40%ずつを占めています。現時点では欧米のほうが三次元CADを活用したデジタル変革への投資に積極的だと言えますし、一方でAPACには、製造や建築が盛んな日本や中国が含まれていることを考えれば、まだ伸びしろは大きい。
また、ある調査によれば、日本のデジタル競争力は主要国のちょうど真ん中くらいのポジションなのですが、俊敏さだけ切り出してみると最下位グループに属しているという分析もあります。つまり、国内ユーザーの多くはデジタル変革への意欲は高いが、変革のスピードに少々難がある。ここをパートナーとともに変えていきたい。
――業績目標のお話しをいただけますか。
日本法人単体での業績はお話できないのですが、グローバルでは23年1月期の売上高を直近の2倍に相当する年商56億ドル(約6000億円)に伸ばす目標を掲げています。日本法人としては、当然グローバルの伸びと同様か、それ以上の成長を目指していきたいですね。
Favorite Goods
デジカメで職場や家庭のスナップ写真をよく撮っている。特に職場の仲間との写真は「意識して撮らないとなかなか残らない」。ここ20年ほど心掛けてきた。写真を手渡したときの驚き混じりの喜ぶ顔を見るのが楽しみとのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
成功の秘訣は徹底した顧客起点の姿勢
外資系IT企業の要職が長い織田浩義社長に成功への秘訣を聞いたところ、「徹底した顧客起点、市場起点で物事を考えること」との返事が返ってきた。国内の顧客や市場、ビジネスパートナーに対して真正面から向き合い、「課題がどこにあるのかを探求してこそ成長への道筋が見えてくる」と話す。
日本法人の中には、外国本社が打ち出した指針の「実行機関」としての役割をひたすら期待されるケースがあるが、「それだけでは顧客やビジネスパートナーの心は掴めないし、ビジネスの武勇伝も生まれない」。外国本社の意向を汲み取るのは日本法人経営者としての責務ではあるものの、「本当に重要なのはそこじゃない」とも。
その点、オートデスクは「世界各地の顧客、市場、ビジネスパートナーと一緒に考えることを重視する文化がある」と話す。今、本当に必要なものは何かを聞き込んでいくスタイルは、意思決定の時間が長くなる傾向がある。だが、CADが単なるツールではなく、顧客のビジネスプロセスを変革する推進力である以上、「顧客やパートナーと正対する姿勢は一段と重要になってくる」と考える。
プロフィール
織田浩義
(おだ ひろよし)
1960年、兵庫県生まれ。84年、慶応義塾大学経済学部卒業。同年、日本IBM入社。ソフトウェア事業PLM事業部長、理事ビジネストランスフォーメーション・アウトソーシング事業推進担当、理事公共事業官公庁事業部長などを担当。2011年、日本マイクロソフト入社、執行役パブリックセクター担当。14年、執行役常務パブリックセクター事業本部長。18年6月1日、オートデスク代表取締役社長に就任。
会社紹介
オートデスクは米国の老舗CADメーカー。2019年1月期のグローバルでの売上高は、前年度比25%増の25億ドル(約2700億円)。製品別の売上構成比は、建築CADが40%、汎用CAD(二次元CAD)が29%、製造CADが24%、CG映像関連が7%を占めている。