一つのNTT、唯一の存在へ
――事業構造の転換を進めていくに当たり、どこがライバルになりますか。通信キャリアでしょうか。それとも大手クラウドベンダーでしょうか。
世界の大手通信キャリアを見渡してみると、5Gネットワークに力を入れている印象です。NTTグループではドコモが5Gを手掛けていますので、当社はSDPFをはじめとするサービス事業に力を入れています。力を入れる領域が異なるイメージです。
また、大手パブリッククラウドとはユーザー企業のマルチクラウド需要に対応するという文脈で連携する関係にあります。SDPFでもワンクリックでさまざまなクラウドサービスを選択できる利便性を売りにすると同時に、地上や海底に張り巡らせた通信ケーブル、通信衛星、データセンターなどの物理レイアを多く持っていることで役割分担が可能です。
――アプリケーション層では、NTTデータとかぶる部分が出てきませんか。
それはありません。当社のアプリケーションは営業支援やサブスクリプション(課金)型ビジネス支援、AI関連といったサービス単位なのに対して、NTTデータは業種・業態に深く入り込んだSIを主力としています。ビジネス的にかぶる部分はほぼありませんが、海外のユーザー企業に向けては、むしろNTTグループが一つに見えるようにしていく。これが今回の海外事業の再編の狙いでもあります。
米国ラスベガス市のスマートシティ案件を昨年受注したときは、旧NTTコムと旧ディメンション、NTTデータ、NTTコムウェア、NTTセキュリティが参加していますが、顧客から見ると、「いったいどの会社と契約するのか」と非常に分かりづらい状況でした。仕方なく持ち株会社のNTTとの契約となったわけですが、持ち株会社は事業会社ではないので、やはり分かりにくいですよね。
――まだまだ取り組まなければならない課題はありそうですか。
もちろんです。新体制になってこれで終わりではありません。市場や顧客のニーズは常に変化しているわけで、国や地域ごとに「一つのNTT」として柔軟に対応できるよう、これからも変化し続けます。
Favorite
Goods
英国の自動車レースチーム「マクラーレン」のテクノロジーパートナーになっていたことが縁で、チームメンバーから贈られたレース用の特別な靴と手袋。大のクルマ好きで、お気に入りのコレクションとなっている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
まだスピードが足りていない
学生時代は自動車競技のジムカーナやラリーを楽しんだというクルマ好き。社会人になる1977年、自動車業界への就職を真剣に考えた。日本車が海外でよく売れ、外貨を稼ぐ優等生。一方、同じく進路先として検討した日本電信電話公社(現NTT)は、いかにもドメスティックな会社だった。
だが、電電公社の面接で、「庄司さん、これから通信自由化に向けて民営化もするし、海外にも出て行く。いっしょにやらないか」と言われて考えが固まった。通信自由化や民営化を見据えた意識改革がNTT内部ですでに進み始めており、「これから新しいことを自分の手で始められる」と手応えを感じたからだ。それ以来、「自動車業界と同様に、海外で活躍できるNTTグループになるよう尽力してきた」。
座右の銘は著名なレーシングドライバーのマリオ・アンドレッティ氏の「もし全てをコントロールできていると思えるなら、それはまだスピードが足りていない」。たとえ、拙速であったとしても、「全力で前へ進み、先進的であり、海外へと出て行く」攻めの姿勢を貫くのが庄司流の経営哲学だ。
プロフィール
庄司哲也
(しょうじ てつや)
1954年、東京都生まれ。77年、東京大学経済学部卒業。同年、日本電信電話公社入社。99年、NTT持株会社移行本部第五部門担当部長。2005年、NTT西日本人事部長。09年、NTT取締役総務部門長。12年、NTTコミュニケーションズ副社長。15年、社長就任。
会社紹介
NTTグループは、海外売上高を2018年度の189億ドル(約2兆円)から、23年度には250億ドル(約2兆7500億円)に増やす目標を掲げる。その成長エンジンの一翼を担うのがNTTコミュニケーションズと英国に本社を置くNTTリミテッドのタッグだ。これにNTTデータも加わり、NTTグループが一つになって通信インフラから業務アプリケーション、サービスまで世界主要市場で提供していく。