4月、自治体DXを推進する新企業「ガバメイツ」が動き出した。自治体の業務データを可視化して課題を抽出し、パートナーと共にソリューションを提案することで、自治体のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング=業務改革)を加速させる。陣頭指揮を執る別府幹雄社長は、地域のSIerなどとの協業を積極的に推進し、仕事を生み出して「地域で人とお金が回るようにしたい」と意気込む。自治体BPR支援のデファクトスタンダードを目指し、全国の“仲間”と走り出す。
(取材・文/藤岡 堯 写真/大星直輝)
── いよいよ新会社がスタートしました。
正直言って、ほっとしています。ジョイントベンチャーはつくるのが大変でした。双方の弁護士を交えて、解散するときの条件などを決めないといけなくて、「仲良しなのに、なんでそんなことやらなくちゃいけないのよ?」という思いがありました。2021年のクリスマスイブに協議がまとまり、その後も採用活動などを急ピッチで進めてきました。事業が始まり、チェンジの福留さん(福留大士代表取締役)と「これをやりたいね」と話していたことにようやく取り組めます。
愛媛は日本の縮図
それと、周りに納得してもらえる形で松山市に本社を置けたことがよかったです。僕は出身が今治で、松山は特別な場所ですが、だから本社を松山にしたわけではありません。愛媛県は僕たちのやろうとしていることを知事、副知事以下が理解して、全面的に協力してくれています。補助金を出していただくとかよりも、それが一番うれしいです。県と市町の業務を完全に見える化できるのは、僕らにとって大きいものがあります。愛媛県内の自治体の業務量調査を行い、20あるうち14自治体の全庁業務量を把握しました。県内の人口比でいうと93%になります。愛媛の自治体を人口規模別に分けると、50万人規模から、1万人以下の規模まであり、日本全体の縮図のようです。自治体は法律に基づいて仕事をしていて、中身は基本的にどこも同じ。どこかを徹底的に可視化できれば、全国に展開できるはずです。
── BPRを通じて自治体DXや業務標準化を実現するビジネスに取り組まれています。ビジネスを通じて、実現したいことは何でしょうか。
地域でお金が回るようにしたいんです。DX人材を教育するといって、自治体のお金を使って大学や高等専門学校とかでSEを育てても、仕事がなければ東京や大阪に持っていかれるんです。だから仕事をつくらないといけない。そのために地域のSIerの皆さんには地域に根付いて、そこで商売ができるようになってほしい。
地域SIerは「地元に寄り添って」
僕たちが持つ(自治体の)業務フローや可視化した業務データを見て、一緒にサービスやプロダクトを提供していければいいなと思います。地場のSIerが地元の自治体に寄り添うことができれば、大手にお願いするよりも費用も安くなるはずです。
BPRは止まれません。今、最善のことをやったとしても、国が示す業務プロセスの標準が更新されたらまた無駄が生まれます。ずっと改善し続ける必要があります。東京の会社が地域に行って、ちょこっと口を出して、お金を取るやり方ではないのです。寄り添って、ずっとやり続けないといけない。僕たちが支援して、地域で人とお金が回っていくことが一番いいだろうと思っていますね。
── 単純に業務改善できてよかったね、ということではなく、より深い部分で地域に貢献したいと。
そうですね。地域にはSIerだけでなく、自治体にサービスやプロダクトを売りたい企業がたくさんあるでしょう。そういう企業が自治体の業務フローを見れば、新しいニーズに気がつけます。僕たちが想定していなかった企業から声がかかることもあり、最近ではリース会社2社が一緒に仕事をしたいと言ってきました。
パートナーとはデータの活用も進めていきたいです。パートナーの持っているデータと僕たちのデータを合わせることで、何かできることをつくっていきたい。僕たちが現場の泥臭いデータを持っているからこそ、パートナーが、自身のデータを「こういうふうに使えないか」といってきて、そこからいろいろな価値が生まれる。それが面白いと思います。
一方で、大きなベンダー、全国をカバーしている企業には、プラットフォームのようなサービスを一緒に提供できればと考えています。彼らのサービスに僕らを組み込んでもらうのもありでしょう。
理想とするのは、自治体職員が朝に仕事を始めて、パソコンを立ち上げたら、すぐに僕たちのクラウドツールが出てきて、それに従って作業すると仕事が終わるという形です。誰がやっても同じ作業ができて、内部統制的にもいい。時間がどれだけかかっているのか、誰に負荷がかかっているのかもわかります。
自治体職員はさまざまな業務を手掛けています。ルーチン的な業務はいいのですが、年に1人か2人ぐらいからしか申請のない業務が、全体の2~3割もあるんです。引き継ぎされていても、やっていなかったら内容を忘れます。そういう業務に対して、ツールを使えばフローが確認できるようにしたい。負荷が大きいとわかれば応援要員を充てることも、もっとシステム化することもできます。
“コニカミノルタ流”にはしない
── チェンジが協業・合弁のパートナーとなった理由はどの点にありますか。
僕が当時のコニカミノルタの社長(現会長の山名昌衛氏)にいったのは、チェンジに「ベンダーの色がついていない」ということです。大きなベンダーと組めば、敵ができてしまいます。その点が一番納得してもらえました。
協業を考えたのは、コニカミノルタはハードウェアカンパニーだからです。自治体DXのようなビジネスは、アジャイルで、お客さんの要望を聞きながら進めていくしかない。ハードウェアの企業では、それがなかなか難しい。チェンジはプラットフォームビジネスをやっている人たちであり、アジャイル型の考えができます。
資本比率でコニカミノルタ側がなぜマイノリティになったのかとよく聞かれますが、コニカミノルタが半数以上を持っていると、“コニカミノルタ流”になってしまうんです。(コニカミノルタ側の)ガバナンスを効かせる必要もあるし、投資家からも厳しい目で見られます。大企業なので意思決定の時間もかかります。
コニカミノルタ流にならず、オープンイノベーションに取り組んだ方がいいということです。山名からは「絶対にデファクトスタンダードを取れ」といわれています。チェンジとコニカミノルタが持っているものを組み合わせれば、それができる可能性は高いでしょう。
もっと言えば、チェンジがマジョリティであれば、チェンジが主体的にガバメイツの企業価値を上げないと、投資家からは「何をやっているの」といわれます。コニカミノルタ側がマジョリティを持っていても、委託と受託のような関係にしかならない。マジョリティになれば、チェンジグループにとって(ガバメイツのビジネスが)自分ごとになるわけです。
最近は相乗効果が出てきて、(チェンジ傘下の)トラストバンクの販売代理店から、ガバメイツのソリューションを売りたいと話があり、SEを出向するまでになっています。トラストバンクからすれば、クロスセルやアップセルにもつながります。チェンジグループにもいい影響が与えられている形で動き出せたことがうれしいです。
── 今後の目標を教えてください。
次の世代につなげていくことです。自分の思いで始めたことで、新しい会社をつくりました。今度はこれを10年、20年続く会社にしたい。お客様からもパートナーからも愛され、地域にお金が回るようにする。そんな思いを引き継ぎ、体現してくれる人を育て、会社が回るようにするのが一番の目標です。
何のためにこの会社を作ったのかといえば、地域と共創するということがあります。そのために、地域に人が帰るための仕事があるようにする。そこに共感し、アクションを起こしてくれる人を育てていきたいです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
取材では言葉の端々から地域振興にかける熱意が伝わってきた。熱意の源泉は自身のふるさとに寄せる思いがある。
「一人っ子で東京に出させてもらって、好きなこともして。だからノウハウを持って、地元に帰って振興に貢献したいっていうのはずっとありました」。いつ戻っても仕事ができるように、中小企業診断士の資格も取得したほどだ。思い描いた流れではないかもしれないが、地元で地域振興に携わることになった。故郷だけでなく、全国を盛り上げられるポテンシャルを秘めたビジネスだ。
「生まれたところに貢献し、そこをモデルにしたものを全国に展開したい」。そんな気持ちも原動力の一つとなっている。
パートナーなくしてビジネスを広げていくことは難しい。ビジョンを共有し、自治体に寄り添える企業を募っていく。社名にも込めた“仲間”をどれだけ増やせるか。それが思いを実現するキーとなるのだろう。
プロフィール
別府幹雄
(べっぷ みきお)
1964年生まれ、愛媛県今治市出身。84年富士ゼロックス入社、米ゼロックス出向や太平洋地域のマーケティング担当などを経験。2011年、ワールドに入社し、13年にコニカミノルタグループへ。コニカミノルタジャパンで直販部門担当役員を経験後、16年からコニカミノルタで新事業担当。21年にコニカミノルタパブリテック社長、22年にガバメイツ社長。2社の社長に加え、コニカミノルタ関西支社長も兼任。
会社紹介
【ガバメイツ】BPRによる自治体DX支援事業、自治体DX支援のためのソフトウェア開発事業などを展開。IT企業チェンジが60%、コニカミノルタパブリテックが40%を出資して設立し、2022年4月1日に事業を開始。本社を愛媛県松山市に置く。社名は「Government」(行政)と「Mates」(仲間たち)を組み合わせた造語。