チームスピリットは、複数の自社製品を大企業ユーザーで使ってもらえるよう製品ラインアップの拡充を急いでいる。今はERP(基幹業務システム)の前に置いて勤怠や工数の管理、経費精算など行い、従業員の活動データを蓄積、分析するSaaS製品「チームスピリット」を主力としているが、今後はより深い洞察を得て、未来を指し示せる力量を持った製品開発に力を入れる。2023年11月27日に創業者の荻島浩司前代表取締役CEOから2代目を引き継いだ道下和良CEOに話を聞いた。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
活動データから深い洞察を得る
――トップになってから2カ月余りとなりました。まずは経営方針について聞かせてください。
当社の主力製品であるチームスピリットは、ERPの前に置いて勤怠や工数の管理、経費精算などを行います。従業員の活動データを定量的に可視化し、働き方の改善や効率化に役立てられるのが特徴です。11年にサービスを始めてから、これまでに1800社超のユーザーを獲得してきました。
私の代になって力を入れるポイントは、大企業のユーザーをより増やすことと、製品ラインアップを拡充していくこと。また中堅・中小企業ユーザーが引き続き快適に使えるように投資していくことです。
――大企業向けビジネスを重視する理由は何ですか。
ERPフロントウェアの性質上、まずERPを使っている中堅以上の企業が主な販売ターゲットになります。従業員の活動データを定量分析するに当たって、ある程度まとまったデータを蓄積できる規模があったほうがチームスピリットの本領を発揮しやすいのが理由です。大企業ならではの要求に応えていくのと並行して、製品ラインアップを増やしていきます。
大企業はさまざまな部門が比較的大きな裁量権を持って活動しているので、企業内のより多くの部門で活用してもらえる製品を増やしていくことが当社のビジネスの伸びに直結します。従って大企業向けのビジネスを伸ばす上で、主力製品を複数展開しないという選択肢はビジネス戦略上あり得ません。逆に中堅・中小企業ユーザーは、製品単品の利用でもよいのでユーザー数を増やして、すそ野を広げていくことがポイントとなります。
――どのように製品ラインアップを増やしますか。
新製品の戦略はまだ言えませんが、まずは既存製品の強みを補強し、伸ばしていけるような方向性を考えています。勤怠や工数のログの定量的な分析を通じて、業務の無理や無駄を探し出し、生産性の高い働き方へ変えていくのがチームスピリットの強みです。そこからさらに踏み込んで、蓄積した活動データから未来を指し示すような洞察が得られる仕組みなどを想定しています。
兼業を増やして視野を広げる
――どのような経緯で社長の仕事を引き受けることにしたのでしょうか。
まずチームスピリット独自のポジションに伸びしろを感じたのと、個人的には国内上場企業のトップを経験できる機会に恵まれたのも何かの縁だと感じたからです。
――先日、創業者の荻島前代表取締役CEOにインタビューしたとき、「パッケージソフト、SaaS、そしてAIの各ビジネス領域を経験するなど、その時々の技術トレンドに非常に柔軟に対応できる」(本紙24年2月5日 2001号参照)と道下CEOを高く評価していました。
私のキャリアを振り返ると、結果的に技術トレンドを先取りするかたちになったかもしれませんが、実のところ技術だけを見ているわけではなく、IT産業の発展の歴史を踏まえた予測や、市場での競争優位性などを自分なりにそしゃくした結果だと思います。
また、自分の履歴書を持って求職したのは、新卒で入社した日本オラクルのときだけで、その後のセールスフォース・ドットコム(現セールスフォース・ジャパン)やイスラエル発祥のWalkMe(ウォークミー)、LINE(現LINEヤフー)はすべて人の縁でした。22年12月にチームスピリットの営業顧問のお声がけをいただいたのも、その後に社長の声がかかったのもそうなので、そうした巡り合わせを大切にしたいと思っています。
――営業顧問を引き受けた22年12月は、LINEのAIカンパニー・カンパニーエグゼクティブCCOを務めているときですよね。兼業されていたのですか。
そうです。LINEのAIカンパニーの仕事のお声がけをいただいたとき、私はLINEが兼業や副業に理解があることにとても魅力を感じました。日本オラクルからウォークミーまでの四半世紀、与えられた職責をまっとうすることに全神経を集中してきました。干支で言えば2周分に相当し、第一線のビジネスパーソンとして活躍できる期間を考えれば3周目は、もっと視野を広げて若い会社や後輩を支援できるようなキャリアを積みたいと思い、本業以外にも積極的に関わっていく道を選びました。
当時は、チームスピリットの営業顧問を含めて顧問先の会社が計4社、社外取締役が1社と最大で5社をお手伝いしていました。副業や兼業に寛容なLINEの社風のおかげで、さまざまな経験を積むことができました。今もマーケティング支援ツール開発のGROWTH VERSEの社外取締役を兼務しています。
――カリスマ性がある創業社長の後を継ぐのは、いろいろ大変ではないですか。
その辺はあまり意識していません。これまでも米国やイスラエルの豪腕経営者から直で指令がきたり、日本での合弁先の出資企業の意向をくんだりしながら、もろもろ配慮してきた経験を持っています。むしろ株主や顧客の意向を踏まえながら、現場の従業員の声を聞き込んで、経営戦略に落とし込んでいくのが私の仕事だと思っています。
LINEを離れるときの寄せ書きに「経営や組織、人に向き合ってもらってありがたかった」という趣旨の言葉をいただいたのが、何よりうれしかったですし、そういうことを大切にしなければならないと改めて思いました。
30年にARR100億円を視野に
――LINEのAIカンパニー事業はLINE WORKSと統合され、中堅・中小企業のビジネスチャットに生かされているわけですが、チームスピリットでのAI活用はどう取り組んでいきますか。
AI活用は選択肢の一つですが、「AIでおもしろいものをつくりました」よりも「結果的にAIを有効活用できました」のほうが理想です。就労人口が減る中、AIで生産性を高めてカバーするというのは簡単ですが、少し短絡的な気がします。AIはあくまで補助的な役割を担う存在で、働き方を変えたり、もっと幅広く労働に参加できる環境を整えたりと、AI以外の部分でやることはあります。
チームスピリットに置き換えると、もともとは単なる活動ログに過ぎないデータを、インテリジェンスや洞察まで高めていくにはどうしたらいいのかを真剣に考え、提示していくことがビジネスを伸ばす根幹だと捉えています。活動データを分析することで人的資本経営の実践に役立て、さまざまなスキルを持つタレントを生かす科学的な根拠にする唯一無二の存在にしていきます。
――業績についてもお話ください。
弊社はSaaS企業なので、ARR(年間経常収益)が重要な指標になります。昨年度(23年8月期)末のARRは33億円で、過去3年間の年平均成長率は15.6%でした。ここから、26年8月末までの3カ年でARR70億円の達成を目標に掲げています。製品開発などの先行投資のため、昨年度の営業利益は2億円の赤字でしたが、26年8月期には営業利益率15%の確保を目指しています。
ユーザー企業を規模別に見ると、1000ライセンス以上ご契約いただける大規模ユーザーのARR年平均成長率は35%程度、それ以下の中堅・中小規模ユーザーは同15%程度とし、大企業ユーザーの伸びに一段と勢いをつけていきます。さらにその先の30年にはARR100億円を視野に入れています。
――海外市場への進出はどうしますか。
自社製品を複数国・地域に展開できるよう、設計開発の段階から体制を構築するとともに、販売面では徹底的に現地化できる見通しを立てた上で、ぜひとも挑戦したいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「地図よりも羅針盤」は、ビジネスの世界でよく使われる例え話。誰かのつくった地図を当てにするのではなく、経営者が自分の中に明確な指針を持ってかじ取りをすることが大切だと戒めるものだ。
道下CEOは、顧客や株主、経営幹部、現場の従業員の話を徹底的に聞き込み、経営戦略に落とし込んでいくことを得意としている。外部から来た“落下傘経営者”であれば、なおさらステークホルダーとの対話は重要で、「この経営スタイルを自信の指針にしている」と話す。
加えて、IT業界や社会、ビジネスが発展してきた歴史の理解を深め、未来を予測することが重要だと捉える。IT企業である以上、最新技術を追うことはもちろんだが、「市場が求めているものが何なのか、次に来る潮流は何なのかをつかみ取ることそ本筋」。自分の中の羅針盤を頼りに進んでいく。
プロフィール
道下和良
(みちした かずよし)
1974年、東京都生まれ。97年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。同年、日本オラクル入社。13年、セールスフォース・ドットコム(現セールスフォース・ジャパン)入社。16年、常務執行役員。19年、WalkMe(ウォークミー、イスラエル)日本法人のカントリーマネージャー兼代表取締役社長。22年、LINE(現LINEヤフー)AIカンパニー・カンパニーエグゼクティブCCO。22年、チームスピリット営業顧問。23年、ワークスモバイルジャパン(現LINE WORKS)執行役員。23年11月27日、チームスピリット代表取締役CEOに就任。
会社紹介
【チームスピリット】1996年に前身となる受託ソフト開発のデジタルコーストを設立。2011年にERPフロントウェア「TeamSpirit(現チームスピリット)」をSaaS方式でスタート。18年に東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場。本年度(24年8月期)連結売上高は前年度比15.5~18.1%増の44~45億円を見込む。