NTTデータグループは、特色あるビジネスモデルにより世界のSIトップ集団の中で独自の立ち位置を確保していく。日本発祥のSIerで世界第6位の売り上げ規模、データセンター(DC)事業では世界第3位、システム実装力とIOWN構想をはじめとするテレコムグループならではの強みをそろえているSIerは「世界に類を見ない」と、2024年6月にNTTデータグループトップに就任した佐々木裕社長は自負する。その上で「日本のSIビジネスで培った高い品質のサービスを世界で展開する」と、独自のサービス体系でライバル他社との差別化を図り、ビジネスを伸ばしていく考えを示す。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
20年足らずで世界トップ集団に
――25年、新しい年を迎えるに当たり、まずはNTTデータグループの世界市場における現在の立ち位置を教えてください。
当社は世界第6位のポジションにあると認識しています。欧米発祥のコンサルティング系SIerやクラウドベンダー、インド系SIerなどが上位陣を占めており、純粋なSIerだけに絞ると5位以内に入ったとみています。
当社が海外事業に本格的に乗り出したのは05年からで、当時から「将来的に世界5番手のSIerになる」と目標を掲げていました。あれから20年近くの時間がたって目標に到達したというより、ようやく世界のトップベンダーと伍していけるスタートラインに立てたと言うべきでしょう。むしろここからが本当の勝負です。
――ライバルと比べてどのあたりがNTTデータグループの強みとなるでしょうか。
日本発祥のSIerであり、国内ユーザー企業の非常に高い品質要求に応えてきた実績と実力を備えている点が大きな強みとなります。「つくる力」や「実装力」と言い換えることもできます。国内にいると当たり前に感じている品質要求だとしても、海外では相当高い水準にあると自負しており、この強みをどの国や地域に行っても発揮でき、国内と同等の高品質なサービスを均質的に提供し続けることを重視していきます。
もう一つは、NTTコミュニケーションズの海外DC事業の流れを汲むNTT Ltd.(NTTリミテッド)を22年に傘下に収めたことで、DC事業で世界第3位のシェアを持つに至っています。欧米発祥のDC専業ベンダーがトップ集団を形成する中、SIerである当社がここに加わる意義は非常に大きいと手応えを感じています。
当初はSIビジネスとDCビジネスは相乗効果が薄いとの意見を投資家からいただくこともありましたが、生成AIの台頭で計算資源の確保が重要課題として急浮上したこともあり、今ではそうした意見はほとんど聞かれなくなりました。システム設計から実装、計算資源の提供まで一気通貫で行える、世界でも類を見ない事業ポートフォリオを持つことができました。
――NTTグループ全体を見渡せば、次世代通信基盤のIOWN構想などNTTデータグループのビジネスでも活用できそうな技術要素が少なからずありそうです。
IOWNを構成する主要な技術分野の一つとして、端末処理までを含む通信ネットワーク全体を光技術に置き換え、超高速、低消費電力、低遅延伝送を実現する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」があるのですが、例えば、遠隔地にあるDC同士をAPNでつなぐことで、あたかも近隣のDCかのように使える用途を想定しています。NTTグループ全体でみれば複数の研究所を抱えており、APNのような新技術をSIやDCビジネスに応用できることも、通信ネットワークで「つなぐ力」を持つテレコムグループの当社が国際競争で勝ち残る重要な要素です。
700億円の国内M&Aを実施
――佐々木社長は国内事業会社NTTデータの社長も兼任しています。国内と並行してグローバルビジネスも見なければならないのは荷が重くないですか。
国内事業は売り上げの4割を占める主要な柱の一つですので、私が兼務するかたちでトップを務めています。一方、海外については海外事業会社のNTT DATA, Inc.(NTTデータインク)のトップに英国で勤務するアビジット・ダビーに就いてもらっています。ダビーはコンサルティング会社の米McKinsey & Company(マッキンゼー・アンド・カンパニー)に勤務しているとき、NTTグループを約10年にわたって担当した経歴を持っています。21年に英ロンドンに本社を置くNTTリミテッドに入社し、今は私とダビーの二人三脚でグローバルビジネスを推進する体制となっています。
――国内事業のトップとして、25年度までの3カ年で1000億円規模のM&A投資を行うと発表しています。進捗はどうですか。
24年は大手決済サービスプロバイダーのマレーシアGHL Systems(GHLシステムズ)、年商200億円規模の中堅SIerのジャステックの連結子会社化、クラウドインテグレーターとして急成長しているテラスカイへの一部出資などを実施し、すでに当初予算1000億円のうち700億円ほどを投じています。25年度も引き続き国内事業のM&Aに取り組んでいきます。
――GHLシステムズは海外事業ではないのですか。
少しややこしいのですが、GHLシステムズについてはNTTデータが運営する国内最大級のキャッシュレス決済基盤CAFIS(キャフィス)の関連事業と位置づけており、国内事業に含めています。1984年のサービス開始以来40年余り運用してきたCAFISと補完関係にあるGHLシステムズを含め、当社のキャッシュレス決済ビジネスをASEANはじめ、アジア太平洋に展開していきます。
CAFISは先輩方の先見の明があり、キャッシュレス決済基盤の標準的なプラットフォームの地歩を固めることができました。SIサービスの領域で安定収益を確保するにはCAFISのようなサービス基盤を構築するか、売れ筋のITソリューションを見極めて勝ち馬に乗るかが重要になっていきます。プラットフォームの変遷や売れ筋商材の入れ替わりのサイクルが年を追うごとに短くなっていますので、スピード感をもって勝負を仕掛けていきます。
海外DCに1.5兆円余り投資へ
――国内SI業界では大手SIerのSCSKがネットワンシステムズを約3600億円で子会社化するなどトップ集団の業界再編が進んでいます。
国内IT市場が依然として成長領域であることの現れだと捉えています。当社グループの国内ビジネスもそうですが、本年度上期(24年4~9月)の国内業績は増収増益で、営業利益ベースでは前年同期比2桁の成長を達成しています。受注高も堅調でデジタル化への投資の勢いが落ちていません。過去にはユーザー企業のバックヤードを支える裏方の業務がITシステムの主な役割でしたが、今は顧客接点の領域でなくてはならない存在に変わっています。売り上げや利益を伸ばす戦略投資の対象としてITが位置づけられています。
――海外事業はどうですか。
円安のプラス影響を除くと、上期の既存SI事業は全体的に伸び悩んでいます。スペインや南米地域でのビジネスは好調に推移しているものの、米国の急速なインフレやドイツ経済の不調など外部要因の影響を強く受けたのに加え、英国やオーストラリアは当社の内部的な要因が大きいため立て直しの最中です。
一方で、海外DC事業は非常に好調で、上期の売上高は前年同期比1.5倍の1818億円、通期で3000億円以上を見込んでいます。直近で稼働中のDCは全世界70拠点103棟で、計画中や建設中のDCが16拠点24棟と設備面でも増強しており、本年度の海外DC投資額は約4000億円を計画しています。23年度から27年度までの5カ年累計では1兆5000億円余りのDC投資を想定しています。生成AIをはじめ大手クラウドベンダーや一般企業の計算資源を求める需要が高まっていることが業績好調の背景にあります。
――24年は生成AIの話題が注目を集めましたが、SI事業の領域でも生成AIの追い風が相当あったのではないですか。
SI事業における生成AIは確かに世界規模で数多くの案件や問い合わせがありましたが、本格的な投資拡大とまでは至っていないとみています。生成AIの可能性はそんなものではなく、25年以降はさらに大きく伸びると期待しています。生成AIをユーザー企業の業務で役立つように実装して生産性を高め、新しいビジネスを創出するにはもう一工夫が必要で、その一つにAIエージェントが挙げられます。当社では複数のAIエージェントを取りまとめていくオーケストレーション技術を開発するなどしてビジネスを成長させていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
佐々木社長が1990年にNTTデータ通信(現NTTデータグループ)に入社したときの年商は、2000億円余り。事業領域は国内中心のSIerで、「グローバルの“グ”の字もなかった」と振り返る。今では海外売上高が約6割を占め、全世界で20万人近い従業員を抱えるグローバルトップ集団に名を連ねる巨大グループに成長した。
名実ともにグローバル企業へと成長したNTTデータグループのトップに、24年6月に就任することになったときは「不思議な巡り合わせだと思った」と率直な感想を吐露する。
SI事業では欧米印の主要ベンダーと肩を並べ、DC事業では世界第3位の規模を誇る。日本のSI業界で鍛えられた「日本のSIサービスの品質のよさ」を前面に押し出し、コンサルティングが強い欧米、開発力があるインドのベンダーとは違った価値や選択肢をユーザー企業に提供していくことで、NTTデータグループならではの独自の存在感を発揮していく考えを示す。
プロフィール
佐々木 裕
(ささき ゆたか)
1965年、東京都生まれ。90年、東京大学大学院工学研究科修士課程修了。同年、NTTデータ通信(現NTTデータグループ)入社。2003年、法人システム事業本部部長。16年、執行役員ビジネスソリューション事業本部長。20年、常務執行役員製造ITイノベーション事業本部長兼ビジネスソリューション事業本部長。21年、取締役常務執行役員コーポレート統括本部長。23年、NTTデータ代表取締役社長就任。NTTデータグループ代表取締役副社長執行役員を兼任。24年6月18日、NTTデータグループ代表取締役社長就任。
会社紹介
【NTTデータグループ】2025年3月期連結売上高は、前期比1.4%増の4兆4300億円、営業利益は同8.5%増の3360億円の見込み。従業員数はおよそ20万人、うち国内は約4万4000人。