米Omnissa(オムニッサ)は、旧米VMware(ヴイエムウェア)のエンドユーザーコンピューティング(EUC)部門が独立して設立された。仮想デスクトップ基盤(VDI)の「Horizon」、統合エンドポイント管理(UEM)の「Workspace ONE」を引き継ぎ、「デジタルワークスペース」を管理・運用するプラットフォームとして、訴求を強化している。日本法人Omnissa Japanのトップには、ヴイエムウェア時代から長らくEUC事業に携わる竹下雄輔氏が就任。「企業のワークスペースを安全に管理し、従業員が最大限パフォーマンスを発揮できる環境を実現する」と意気込む。
(取材/藤岡 堯 写真/大星直輝)
“ユニーク”な日本市場の声を聞く
──新会社としてスタートを切った今のお気持ちをお聞かせください。
ようやく落ち着いたという感じですね。法人登記は2024年6月ですが、本格的に動き出したのは10月ごろになります。“Day 1”から従業員100人規模の組織となったものの、社内のレギュレーションや、日本市場で会社として存在するために必要なものが抜け漏れていました。本社と侃侃諤諤の交渉をしながら2カ月ほどでなんとか整理ができ、年末からやっと主要なお客様やパートナーにご挨拶ができた、という具合です。
──ご自身が日本法人のトップに就くことは想像していたのでしょうか。
それはありませんでした。正直なところ、自分でもびっくりな流れです。ただ、グローバルで見ると、日本市場はユニークな存在であり、米国や欧州を中心にものを考えて戦略を練る人たちにとっては、本当の意味で理解はできず、しっかりと理解できる誰かがいないとカバーしきれないということなのでしょう。
日本市場は、商慣習が違うことに加え、(ユーザー企業側ではなく)SIer側にエンジニアが多く存在し、お客様のIT環境の実装と運用はSIerなどのパートナーが担い、そこに(ソリューションの)ベンダーがぶら下がっている構図も特殊です。市場規模は米国に次ぐ世界2位ですが、本社からすると「なぜその構図で売れているんだ」と。
一方、過去を振り返ると、VDI製品を積極的に導入していただいた日本のお客様の基準をフィードバックして品質が高まった事実を、今の経営陣は知っています。日本のお客様とパートナーのこだわり、要求事項は高いレベルですが、クリアできれば信頼してもらえるし、他国のお客様にも喜んでもらえる製品が実現できることを身をもって理解しています。その意味で、これまで以上に日本の皆さんの意見を反映できるようにしたいのだと感じています。
──国内市場の現状をどのようにみていますか。
今はリモートワークが普通になり、働き方が多様化した状況において、VDIはどんどんと増える領域ではないとみていますが、最低限のセキュリティーを担保し、稼働を保証すべきシステムに向けては、残るべきソリューションでしょう。 他方で、端末が稼働する業務や場所は多様化しています。タブレットのほうが仕事がしやすい人もいれば、現場専用の端末が必要な人もいる。こういう端末も含めて「デジタルワークスペース」なのです。しかし、真の意味でワークスペースを横軸で考えている企業は少ないようです。大企業でもいまだに総務部がスマートフォンを管理し、統一的なITマネジメントのフレームワークを有していないケースはかなりあるでしょう。
タブレットやスマホにしても、さまざまな機種、OSがあり、そういったものを企業内のワークスペースとして統一して管理できていないと、どこかに問題が生じても、その都度対応するだけで「デバイスを使っている人たちが被害を受けました」で終わってしまいかねません。
企業全体で俯瞰し、従業員がスムーズに働き、パフォーマンスを最大限発揮できるワークスペースを提供できているか、という視点が不足しているのではないでしょうか。ここにわれわれは取り組みたい。企業が有するワークスペースを同じ次元で安全に管理し、従業員の皆さんが用途やロール(役割・立場)に応じて最大限にパフォーマンスを発揮できる環境の実現を目指しています。Horizonでは、よりフラットな位置を目指すために、「VMware vSphere」にこだわらず、さまざまなプラットフォームへの対応を拡大しますし、モバイルでは「Android」「iOS」などを含めて同じフレームワークで運用できるようにするということです。
加えて、従業員体験を測定する部分は、われわれが先行しています。IT人材の少ない地方拠点では、例えばスマホがクラッシュしても「再起動してうまくいったならそれで良いのでは」というような運用がされていると思います。VDIではレイテンシーや使用しているアプリケーションとの相性、ディスプレイ上の発色といった部分で問題があっても、本社に伝わらないことはよくあります。
そういった部分を広くカバーし、クラッシュ数もレイテンシーの問題もスコア化できるほか、全国で一番使われているアプリの特定も可能です。使用実績を基にしてソリューションの利用継続を判断するといった、コストの最適化にも役立つ情報が入手できるのです。
新プログラムは「パートナーにメリット」
──販売面は100%パートナー経由と聞いています。今後のパートナー戦略の方針を教えてください。
私が強く言っているのは、ある程度きっちりフォーカスしたパートナーに対して、まずはしっかりと“リカバリー”をするということです。リカバリーという表現が正しいかは難しいところですが、少なくとも、この2年間、パートナーの皆さんにとっては、(米Broadcomによるヴイエムウェアの)買収によってどうなるかわからず、さらには、EUC部門の売却が公表され、誰が買うのかもわからない状況がありました。この先、この会社が存続し、ソリューションを維持できるのかどうかもわからない。これが続いた2年間でした。
先日、われわれは世界共通の「Omnissaパートナープログラム」(OPP)を発表しました。まず日本の主要なパートナーが販売のために必要な仕組みをどう整備していくかは非常に大切です。今は1年以内に中核を担うパートナーとのビジネスを安定させることに取り組むべきだと考えています。当然、国内市場を大きくするため、今まで関係が薄かったとしても、新しいワークスペースの観点で一緒に歩めるパートナーとは一緒に組みたいです。
OPPはプログラム自体が非常に簡素になり、パートナーのメリットは大きくなったと考えています。クラス分けはシンプルになり「ポイントをこれだけ積めば、このランクになります」といった面ははっきりしていますし、ランクもそれほどハードルが高いものではありません。利益面でもヴイエムウェア時代より優遇できていると思っています。
以前はどうしても仮想化基盤の軸があり、根幹の部分にわれわれ(EUC部門)が触れないところがありました。今回は、(EUCの)パートナーにとって本当に必要なもの、パートナーに還元できるものを考え抜いた上でゼロからつくっています。ですので、繰り返しになりますが、パートナーにとってメリットが多いプログラムになっています。
怒られるまでやればいい
──チームマネジメントの面で取り組みたいことはありますか。
代表を引き受けるにあたり、最低限どのような組織、チームであってほしいかと考えたとき、何かを良くするために、自分たちで考え、計画できる人たちの集まりであってほしいと思いました。会社は全てが変わり、足りないものも多い中で「あれがないからできない」ではなく「あるものを使えば、こうできる」「これとこれを組み合わせれば、次はこう行ける」と前向きに発想できるようになってほしいとの思いです。
そのためには、(会社的に)「正しい」「正しくない」という議論の前に、まず皆さんの発想がきちんと出せる雰囲気が求められます。「うちの上司はこういうだろうな」とか「今までの組織の感覚だったら通らないな」といったことは考える必要はありません。発想し、それを表現する。この二つをどう文化にできるかを考えながらスタートラインに立ちました。
私自身、社内でリーダー層を集める際はそういう雰囲気をつくり、部門が違ったとしても自由に発言してもらうようにしてます。仮にサポート部隊のメンバーが会社のために役立つことを考えていれば、積極的に意見を出してもらい、議論と決定は皆でして、(着地が)難しければ私が最終的に判断します。意見を出し合って、自分たちでどういう方向に持っていくのが正しいのかを考えるプロセスがすごく大事だと考えます。役職や役割は関係なく、皆にとってプラスになったり、会社が前に進んだりするためのアイデアをたくさん引き出したい。そして、ずっと「怒られるまでやりなさい」と言い続けています。会社のルールを逸脱して、おかしな方向に行った場合は、誰かが怒るから、それまでは好きなようにやりなさいということですね。私も今のところ怒られていません(笑)。
眼光紙背 ~取材を終えて~
キャリアの始まりはエンジニアだった。経験から得た信条は「自分の足で難しい場面に切り込み、何かを解決してこそ価値がある」ということ。ビジネス部門にいる今でも、ただ指示を出し、本社とつなぐだけの仕事には意義を見出せない。
旧会社からの独立、全く想定していなかった日本法人の代表の立場も、言ってみれば「難しい場面」かもしれない。そう話を振ると「そうですね。ぴったりというか、今も結構楽しんでいます」と笑う。
この先の抱負を尋ねると、「デジタルワークスペース管理の領域で、顧客で一番に思い浮かべていただく、デファクトのベンダーになりたい」と答えた。それはヴイエムウェアが仮想化基盤で得たポジションと同じことだ。
既存の顧客基盤があるとはいえ、デジタルワークスペース管理の発想は、少なくとも国内ではまだ緒に就いたばかりと言えるだろう。いかに市場で存在感を高められるか。これもまた「難しい場面」ではあるが、厳しい課題を切り抜けた先には、新たな風景が待っているはずだ。
プロフィール
竹下雄輔
(たけした ゆうすけ)
1973年生まれ。明治大学理工学部卒業後、デジタルテクノロジー入社。米Sun Microsystems(サン・マイクロシステムズ)日本法人などを経て、2009年に米VMware(ヴイエムウェア)日本法人入社。エンドユーザーコンピューティング本部統括部長、アジアパシフィック・日本ソリューションエンジニアリング本部長などを歴任。24年、Omnissa Japanに入社。25年1月6日付で現職。
会社紹介
【Omnissa Japan】米Omnissa(オムニッサ)の日本法人。オムニッサは、米VMware(ヴイエムウェア)のエンドユーザーコンピューティング部門が、投資会社である米KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)傘下で独立して設立された。日本法人の顧客数は1500社、パートナー数は300社をそれぞれ超える。