NTTドコモソリューションズは、NTTドコモグループの中核SE会社として、金融関連サービスやマーケティング事業、コンテンツ配信などさまざまなサービスを展開していく上で欠かせないソフトウェア開発を担っている。開発を請け負うだけでなく、グループ全体の提供価値を高められるよう、プラスアルファの価値提案や運用が行えるよう努める方針で、三ケ尻哲也社長は「ドコモの成長に深くコミットしていく」と語る。NTTグループ全体のデジタル変革を支える役割や、NTTのIT戦略立案の補佐も担う同社のこれからを聞いた。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
期待される領域を支える
──7月1日付でNTTコムウェアから社名が変わりました。
社名を変更した狙いは、当社の役割をより明確にするためです。2022年にNTTドコモ傘下に入った当社は、まずドコモグループの成長に貢献すること、次にNTTグループ全体のデジタル変革を推進すること、さらにNTT本体のIT戦略の立案を補佐することの三つを柱にしています。ドコモグループの中核SE会社として、ドコモの成長に深く関わり、さまざまな課題を解決するという意味を込めて、新社名を「NTTドコモソリューションズ」としました。
当社はNTTのソフト開発部門が1997年に独立し、主にNTTグループ向けのソフト開発を手掛けてきました。一部、外部顧客向けの自主ビジネスも行っていましたが、22年のNTTグループ再編の後に、当社の外販事業を担う約400人が、ドコモの法人ビジネスを担う人員約6000人とともにNTTドコモビジネス(旧NTTコミュニケーションズ)に合流しています。ドコモビジネスは法人向けITビジネスを主軸とし、当社はグループ向けソフト開発を担う構図になっています。
ドコモはご存じの通り携帯電話向け通信サービスを提供している会社ですが、それ以外にもクレジットカードの「dカード」、スマートフォン決済の「d払い」、ポイント事業の「dポイント」などの金融関連サービスやマーケティング事業、動画配信の「Lemino(レミノ)」、アニメ配信の「dアニメストア」、電子書籍の「dブック」などのコンテンツ事業といったコンシューマー事業を幅広く手掛けています。どれもNTTグループのなかで大きな成長が期待されている事業領域であり、これらサービスを円滑に提供し、発展させていくためのソフト開発やシステム運用の中核部分を担っているのが当社です。
──NTTグループ全体のデジタル変革では、どのような例がありますか。
分かりやすい実績としては、23年に国内のNTTグループ115社・17万人が利用する基幹業務システムを刷新したことが挙げられます。NTTグループのデジタル変革の一環として刷新したもので、基幹業務システムの「SAP」や、社内業務の管理運用を一元化する「ServiceNow」といったグローバルで事実上の標準となっているパッケージやクラウドサービスを取り入れ、グループ全体の業務効率化を実現しました。このプロジェクトは当然ながらNTT持ち株会社のIT戦略と深く関わる事柄ですので、グループのITガバナンスはどうあるべきかなどについて、持ち株会社のCIO(最高情報責任者)を補佐し、必要に応じて提案や助言をしながら刷新を成し遂げています。
顧客起点のビジネスを展開
──事業セグメント別の売上構成比を教えてください。
金額ではなく、人的リソースの割り当てベースでお答えすると、有期雇用やシニア社員を含めた従業員数およそ7000人のうち、本年度から来年度にかけては、ドコモ向けの割り当て比率が5割を超え、そのほかはNTTグループ向けなどが占める見込みです。ドコモ傘下に入った22年当時は、ドコモ向けの人的リソースの割り当て比率が2割ほどでしたので、ここ数年でドコモ向けの仕事の割合が一気に増えました。ドコモ向けの人的リソースの割り当ては、今後もさらに増える見通しです。
──ドコモ向けのビジネスが伸びる一方で、ドコモソリューションズの自主ビジネスはなくなるイメージでしょうか。
いえ、そうではありません。当社はドコモと共に、ドコモの顧客の需要を取り込み、課題を解決する会社であり、社名に「ソリューションズ」と入れたのも、こうした理由からです。もちろん言われたことはやりますが、それ以上の価値を生み出していくには、徹底した顧客起点のビジネスを展開していくことがとても重要です。私は25年6月に社長に就いてから「顧客起点であること」「常に技術力を高めること」に加え、人と人のコミュニケーションを通じて信頼関係を醸成する「人間力」を重視してほしいと従業員に伝えています。
ドコモ側のメンバーと同じチームに入ってプロジェクトを進めたり、顧客先に同行することも増えています。近年ではアジャイル開発の手法が重視されるようになり、ユーザーと開発者が常に意思疎通しながら開発を継続し、市場環境や需要の変化に合わせてアップデートし続けるためにも、コミュニケーション力が求められています。ドコモに出向しているメンバーとも密に連携をとりながらドコモグループ全体の提供価値を高められるよう、プラスアルファの価値提案や運用を行っていくことが、当社ならではのソリューション力の発揮、価値創出につながります。もしこの部分が弱いとなれば、社名にあるソリューションの会社とは言えません。
CXデザインの力量が問われる
──技術力を高めるに当たり、どの技術領域を重点的に伸ばしますか。
AI、CX(顧客体験)デザイン、DX、IOWNの四つを重点技術と位置づけています。生成AIの急速な進歩によってプログラム開発や運用の自動化が急ピッチで進んでおり、当社も生産革新の文脈でAIの導入を積極的に推進しています。開発や運用部門はもちろんのこと、間接部門も含めた全社員が日常業務でAIを取り入れ、生産性の向上に邁進していきます。ドコモと一緒にAI活用を進める中で、まずは自分たちが実務でAIを使いこなしていなければ話になりませんからね。
当社はもともと画像解析や音声認識の分野で強みを持ち、業務やビジネスに応用してきた実績があります。生成AIの活用においても過去の経験を生かして業務に落とし込んでソリューションとして価値を発揮していきます。
──CXデザインやDX、IOWNはどうですか。
CXデザインは、特にコンシューマー向けビジネスで求められる力量であり、例えば「d払い」ではいかに少ない操作で安全な決済が行えるのか、「Lemino」なども少ない情報量でも使いやすく、見やすいアプリであることが問われています。画面設計からバックエンドのロジックの部分に至るまでCX全体をよりよいものにする力を伸ばしていく必要があります。ドコモが成長する上で、AIの活用やCXデザインは欠かすことができない技術領域だと捉えています。
DXについては、NTTグループ向けの基幹業務システム刷新で培ったデジタル変革のノウハウに磨きをかけるとともに、NTTグループの戦略事業であるIOWNについても、グループの一員として事業化を推進していきます。低消費電力や超低遅延のIOWNのAPN(全光ネットワーク)を駆使して社会課題の解決につなげられるよう、ドコモやドコモビジネスと密に連携をとって事業化していきます。
──三ケ尻社長のキャリアについても教えてください。
私は91年にNTTに入社してから主に固定電話の設備導入を担当し、00年にドコモに転籍したあとは交換機回りやIP網に音声を乗せるVoIPなど音声系ネットワークの開発に従事しました。19年に四国支社長となるまでの四半世紀余りは、設備導入やネットワーク構築に携わっているので、当社のドコモ向けやNTTグループ向けのソフト開発のビジネスと私のキャリアの親和性は高いと感じています。一方で、CXデザインが重要視されるコンシューマー向けビジネスと向き合ったのは四国支社長になってからで、ここで顧客起点とは何かを身をもって学ぶ機会を得ました。
こうした経験を基に、当社の持ち前の技術力を生かし、グループ一体となって顧客への提供価値を高めることで、ビジネスを力強く伸ばしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
NTTドコモで既存回線をIP化するプロジェクトや、IP上に音声を通すプロジェクトなど難度の高い構築案件に携わった。チャレンジ要素が多くなるほど失敗する確率も高まるが、「たとえ失敗したとしても、再発防止の仕組みを残すよう心掛けた」と話す。
再発防止のルールを組織に残せば、自分が異動したあとも失敗経験が生かされる。「組織のためというのもあるが、失敗して回りに迷惑をかけ、悔しい思いをした自分を救済するためでもある」とも。
異動した後、ふと以前の職場の同僚に会ったとき「三ケ尻さんの残してくれた再発防止のルール、あれ古くなったので何度か更新しましたよ」と声を掛けられたときは、「貢献できてよかった」と感じた。再発防止の仕組みを組織に残すことで改善につなげる手法は、今でもドコモグループのなかに根付いている。
プロフィール
三ケ尻哲也
(みかじり てつや)
1966年、大分県生まれ。91年、大分大学大学院工学部修了。同年、日本電信電話(現NTT)入社。2000年、NTTドコモに転籍。15年、ソリューションビジネス部長。19年、執行役員四国支社長。21年、執行役員ビジネスクリエーション部長。22年、常務執行役員スマートライフ推進部長。24年、常務執行役員コンシューマサービスカンパニー統括長。25年6月から現職。
会社紹介
【NTTドコモソリューションズ】NTTのソフトウェア開発部門が独立し、1997年にNTTコミュニケーションウェアとして設立した。2000年にNTTコムウェアに改称。22年にNTTドコモグループに参画。資本構成はドコモ66.6%、NTT33.4%。25年7月1日付でNTTコムウェアから現社名に変更。従業員数は約7000人。