企業の間でやりとりされる帳票をデジタル化する「BtoBプラットフォーム」の利用企業が125万社を数えるインフォマート。1月に就任した木村慎社長は、企業間取引の電子化を軸に、業界特化の横展開に注力する。強みを持つ食品、建設に続く市場をスピーディーに開拓し、成長領域を創出する考えだ。業界に根付いたパートナーの後押しを受けるとともに、自前の拠点や保険大手との業務提携を通じて地方展開も強化。出資や子会社化などグループの拡大も目指す。
(取材・文/春菜孝明 撮影/大星直輝)
建設業でも浸透
――木村社長のキャリアを教えてください。
新卒の就職は食品卸の会社でした。その後はソフトバンクのグループ会社で流通系コンサル事業を経て当社に入社しました。導入や定着支援の役割を経験した後、2015年に開始した請求書に関する新規事業(現「BtoBプラットフォーム 請求書」)の立ち上げに携わりました。請求書システムは、フードサービスを中心に食品業界での圧倒的な知名度を生かし、食品サプライヤーの皆さんに主導いただくかたちで導入が進みました。18年頃からは働き方改革やコロナ禍、インボイス制度が追い風となり、他の業界も含めてどんどんと伸びました。
――請求書システムの提供でインフォマートは食品業界以外に進出したわけですが、どういう意図があったのでしょうか。
当初は、(食品の次に注力すべき業界をリサーチするため)明細書を扱っている量が多い業界を見つける方針のもと、請求書システムを始めました。業界特化のサービスを拡大するには、紙が多い業界に一番出て行くべきだと考えているからです。
業界特化型の事業は地位を確立するまでに時間がかかります。とはいえ、当社は業界経験者を採用して営業する方法をあまり行わず、デジタルプラットフォームの構造や進め方を知っている人たちが開拓しています。商談の場では、当社は業界理解が深いことが好評で、競合と比較になってもそれを理由に選んでいただける場面も多いです。例えば21年に始めた「BtoBプラットフォーム TRADE」について建設業への展開に注力したところ、業界の皆さんの目に付くようになったと言っていいくらい浸透しました。
丁寧に進める一方で、どれだけ早く業界特化のサービスをつくれるかを当社の持ち味にしたいと思っています。
――BtoBプラットフォームの利用企業数は125万社だそうですね。拡大戦略をもう少し詳しく教えてください。
目の前のCS(Customer Satisfaction、顧客満足度)だけを高めて終わりではありません。ユーザーの先にいる取引先に無料でIDを発行しています。取得いただいたIDは、他の企業との取引の際にも使用できるようにしており、利用者はこれを使って発注などをしているだけで業務のデジタル化が進む感覚を得られます。当社ではこれを「ネットワーク効果」と呼んでいて、拡大戦略の一つになっています。
――企業間取引のデジタル化は、取引先が既に他社のサービスを利用しているといった難しさもあります。
売り手側は、買い手側の求めに応じたサービスを使うことになるため、業界全体で単一のサービスになることはないと当社も考えています。そこで、どの会社のデータも受け入れて、つなげるようにしておくことが重要で、当社はデジタルインボイスの標準規格やAPI連携などで対応しています。少しでも業務がデジタル化していれば、当社が別のサービスを始めたときに振り向いてくれる可能性もあるので、つなぐ部分で対価はいただいていません。
DXの聖域は企業間取引
――業界の課題にどのように対応していますか。
業界ごとに困りごとは違うので、システムを入れた後のデジタル化のアプローチは異なります。フードサービスであれば、アレルギーや原産地が分かる「BtoBプラットフォーム 規格書」があります。店舗の人手不足に対しては、日々の業務指示や実施確認を多言語で標準化し、スタッフやエリアマネージャーの負担を減らす「V-Manage」が有効になっています。
小売業は、売り場に並ぶ商品に関する流通のデジタル化はおおむね進んでいる一方、レジ袋やバックヤードで使う備品などはFAXや電話で発注していることも多いです。本業以外のオペレーションへの投資は後回しになりがちだからです。当社のBtoBプラットフォームは安価でWebへアクセスさえできれば使えますから、そういった場面でもご利用いただいています。
――レガシーなプロセスが残っている業務領域を攻めているのですね。
そうですね。デジタル化している業界の中でも、DXが進んでいないところに切り込んでいます。また、DXの最後の聖域である企業間取引に一番先に取り組み、その業界で困っていることを後から解決するというアプローチもとっています。一企業の業務効率化にとどまるサービスとは異なり、当社は取引先との接点まで含めてデジタル化を進められる点が特徴です。
――多くの製品名が出てきましたが、主力サービスを改めて教えてください。
FOOD事業の「BtoBプラットフォーム 受発注」と、(幅広い業界向けの)ES事業の「BtoBプラットフォーム 請求書」が2本柱です。25年にES事業全体の利益を「請求書」がまかなえるようになり、同事業が黒字化しました。さらに三つめの柱として、建設業向けに力を入れています。
――提携や出資も盛んですね。狙いを教えてください。
基本的にバーティカル(業界特化)な機能は自社でつくる一方で、ホリゾンタル(全業界向け)は最適化を目指しており、グループ企業でつくる場合もあるという考え方です。
自社開発のサービスも時間とともに古くなります。請求書システムは10年がたちました。サービスを進化させるべく、出資しているinvoxと新たに業務提携し、サービス開発に取り組むことにしました。invoxはAI-OCRによる読み取りなど請求書に関する知見と導入実績をお持ちです。当社のお客様に関わる部分なので、出資比率を上げた次第です。
24年に子会社化したのがタノムです。こちらは当社で言えばFOOD事業に属するバーティカルなサービスですが、あえて外部のサービスを取り込んだのには理由があります。当社は一定規模以上の企業への導入を得意としてきた一方、個人店への提供は不得意でした。タノムはLINE上で受発注ができ、個人店のような小規模事業者にも導入しやすいサービスです。また、当社が外食企業向けに構築してきたのに対し、タノムは卸企業の業務効率化が出発点です。両社の強みを相互補完する観点から、グループ化に至りました。
営業網を強化
――地方戦略を教えてください。
当社で注力するフード関連業や建設業のニーズを踏まえてエリア戦略を立てています。24年に全国に営業所を開設しており、こうした営業網を広げようと考えています。その一環で2月に第一生命ホールディングス(4月1日に第一ライフグループに社名変更)との資本業務提携を発表しました。同社は全国に拠点を持っており、われわれが営業所を出店する際の展開の高速化が見込めます。地域との密接な関係や、中小企業とのつながりを大切にしたいとの思いもお持ちで、非常に親和性があると感じたことも決め手でした。
――パートナー戦略はいかがでしょうか。
当社のパートナーは幅広いです。まず、BtoBプラットフォームを利用している卸業者が飲食店を紹介してくれるなど、業界パートナーの存在が大きいです。さらに、請求書サービスはITの販売代理店に広げていただこうと、私が先頭に立って5~6年続けてきました。地銀との連携もあります。地場で手広く事業を手掛ける有力企業もパートナーの一つで、請求書の機能を利用してもらうことで、その地域の多くの企業にIDを発行することができます。
――今後の目標を教えてください。
中期経営計画の最終年度ですので、まずは売上高200億円、営業利益50億円という目標の達成を目指します。次の仕込みとしては既存の業界を深掘りしつつ、新しい業界を開拓することに取り組みます。第一ライフグループとの提携をどう生かすか、期待されているので、実行に移していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
利用企業数を伸ばす好調なSaaS企業だからこそ、生成AIの台頭による「SaaS is Dead」というフレーズはいつも頭にあったのだろう。どう受け止めているか聞くと、「企業間取引は、AIではなかなかできないところです」と、すぐさま答えが返ってきた。接点づくりの役割自体はAIには代替できないとの見立てだ。ただ、20年以上のデータを蓄積しているため、それを分析するツールとしてAIは有用との見方を示す。
一朝一夕で築いた業界特化製品ではない、という自負の表れとも聞こえた。食品業界への思いも強く、社会人になる時は「食べ物に興味があった」「レストランを経営したかった」と振り返る。その後も食品に関わるキャリアを重ねる一方、インフォマートでは全業界向けの新事業の立ち上げにも挑戦してきた。特定の業界に深く向き合ってきた経験と熱量が、領域を超えた事業づくりに生きている。
プロフィール
木村 慎
(きむら しん)
1976年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学商学部卒業。2000年に菱食(現三菱食品)入社。ディーコープを経て、07年にインフォマート入社。事業推進・戦略営業部門執行役員やクラウド事業推進、事業企画・戦略営業部門執行役員を歴任。22年に取締役、25年に代表取締役副社長就任。26年1月より現職。
会社紹介
【インフォマート】1998年設立。食品業界向けサービスを祖業に、企業間の商取引を電子化する「BtoBプラットフォーム」を展開。利用企業数は約125万社。2025年12月期の連結の売上高は188億1700万円、従業員数は856人。グループ企業は連結子会社にタノムとRestartz、持分法適用会社にinvoxがある。