経営再建中の東芝は、技術戦略を策定し、グループ全体視点での長期的な取り組みを開始している。2024年5月には中期経営計画の「東芝再興計画」を策定。最終年度となる26年度のROS(営業利益率)10%を必達目標に掲げ、全事業を対象にした収益改善を進めている。研究開発費は削減したものの、無駄の排除と、集中すべき領域を明確化することで、限られた資源を活用しながら、最大限の研究成果を目指している。「技術の東芝」の復活に向けた歩みは着実に前進している。
(取材・文/大河原克行、編集/藤岡 堯)
経営不振に陥った東芝は、23年12月に、日本産業パートナーズの支援を得ながら上場を廃止した。再興計画に基づく取り組みの結果、25年度第3四半期累計のROSは8.8%となり、体質改善は実を結びつつある。佐田豊・上席常務執行役員CTOは「再興計画では、痛みを伴いながらも企業体質の筋肉質化を図り、成長領域にリソースを大胆に移行して、成長の足場をつくっているところだ」とする。
佐田 豊 CTO
重要施策の一つが、固定費の抜本的削減だ。それは技術部門にも及び、研究開発費が圧縮された状況にある。一方で、計画においては、ROS10%達成に向けた経営戦略の中に、「革新的技術の創出と早期事業化」を盛り込んでおり、中長期的な成長ドライバーに「技術」を位置づけている。技術重視の姿勢には変化がないと言えるだろう。
四つの「改革」
佐田CTOは、「日本産業パートナーズや新たな経営陣からは、東芝は技術が大切な会社であり、技術の灯は消さないという姿勢が示された。中長期の研究開発テーマも、一定以上は減らさない方針が出されている」と語り、「テクノロジーに対する大きな期待を感じており、これまで以上に研究開発のスピード、質を高めている」と続ける。
研究開発領域における改革としては、「研究開発体制の再編」「経営・研究開発戦略の統合」「オープンイノベーションの推進」「未来価値創造活動」の4点に取り組んでいる。
一つめの研究開発体制の再編では、「コーポレートラボ」としていた研究開発センター、生産技術センター、デジタルイノベーションテクノロジーセンターの三つの本社研究所と、「ワークスラボ」として展開していた旧東芝エネルギーシステムズのエネルギーシステム技術開発センター、旧東芝インフラシステムズのインフラシステム技術開発センターの二つの事業会社開発センターを、25年4月1日に統合し、「総合研究所」を設立した。
総合研究所は、神奈川県川崎市の東芝小向事業所内に整備され、24年2月から稼働している「イノベーション・パレット」を拠点としている。約340億円を投じて建設した同施設には、半導体事業部などを含めて、約3000人が勤務する。本社の研究開発部門が持つICTやAIなどの強みを、エネルギーやインフラといった事業サイドに近いところにも展開し、ITとOTの融合を積極化させている。
二つめの経営・研究開発戦略の統合では、経営や事業、R&Dが一体となった戦略とテーマ策定の仕組みを導入。透明性を高めた運営を進めている。
従来の体制では、研究所の自律性や独立性を尊重していたことから、ワークスラボに代表される事業特化の開発と、本社部門による革新技術を担う研究開発体制が分離。さらに、経営と研究開発の一体化が十分に図れていないという課題があった。
佐田CTOは、「『技術の東芝』として、技術に自信を持ち、技術にプライドを持っている」としながらも、「高い技術力が、会社の成長や収益性の向上にはつながってこなかったという事実もある」と振り返る。マネタイズが十分でなかったことは、研究開発部門にとっての大きな反省点というわけだ。
新たな体制では、経営と事業、R&Dが協働して攻めるべきテーマ領域を設定し、そこに予算配分する仕組みへと移行。全体最適を基にした考え方へとシフトしている。さらに事業領域を超えた連携も進めやすくなったという。
一例にあげたのが、マルチ電子ビームマスク描画装置である。ニューフレアテクノロジーの装置技術と、東芝グループの技術を結集。研究所だけでなく、半導体事業や原子力事業も加わり、課題を解決し、実用化したという。
佐田CTOは、「分野を超えた融合が加速しているという手応えがある」とする。今後は、AI技術をあらゆる研究領域に広げていく考えも示す。
三つめのオープンイノベーションの推進においては、国内外のトップ大学や研究機関などとの連携を推進。オープンイノベーションによる研究開発や実証を加速する考えを示す。ここでは、イノベーション・パレットを、「オープンイノベーションのメッカ」に位置づけ、共創活動を加速することも盛り込んでいる。実際、イノベーション・パレットには、25年4ー12月に1830人の外部来場者が訪れており、オープンイノベーションが積極化していることをアピールする。
東芝がつくり上げた技術の社会実証や応用に関しても、他社との連携を推進。さらに、日本産業パートナーズの力を活用しながら、東芝が持つ技術の事業化も推進するという。
最後の未来価値創造活動では、数十年後の未来を見据え必要な価値と技術を構想する「技術長計」に基づいた活動を推進している。
広範な技術領域を対象に、どのような技術が、いつ実用化されるのかを描いた技術ロードマップと、非連続的な社会変化を予見するツールを導入することで、約30年先の社会を構想し、そこからバックキャストして、いま備えるべき技術を明らかにする活動を進めているという。
技術のダイバーシティー
島田太郎社長は、再興計画の発表の際に、「技術のダイバーシティー」という言葉を使った。
「世の中にないものを生み出し、お客様に支持され、大きな利益を上げ、それを将来に再投資することができる企業を目指す。そのために必要なのが技術のダイバーシティーである」とし、東芝が持つ発電・送配電、社会インフラ、半導体、ITソリューションという多岐にわたる技術を、適切なかたちでつなげて提供することを差別化とするほか、パートナーとの連携が社会課題の解決には重要だと指摘した。
研究開発領域における四つの改革は、技術のダイバーシティーを実現するための地盤づくりだと言っていい。
東芝が注力している技術の一つが量子である。島田社長は、将来的に量子技術を活用した量子産業が創出され、さまざまなプラットフォームが、業種や業界の枠を超えてつながることになる「QX(Quantum Transformation)」が訪れると予測している。
QXでは、社会から生まれるデータを量子技術によって安全に吸い上げ、複雑な計算処理によって、社会のレジリエンスやウェルビーイングを高めた社会が実現され、東芝の強みが発揮できる領域になるとみる。
すでに、量子鍵配送や量子インスパイアードコンピューターを開発。量子暗号通信では、フランスの通信キャリアであるOrange(オレンジ)と量子鍵配送の商用サービスを開始し、ドイツで配信距離の課題解決に向けた実証実験を展開する。日本では、NTTとIOWN構想で連携している。
また、量子技術を活用したシミュレーテッド分岐マシンは、19年時点で、世界最大規模の組み合わせ問題を最速で計算することを実証。金融のリアルタイム取引や創薬、物流最適化問題に活用している。この分野では東芝が、唯一、組み込み向けを製品化しており、一般的なPCでも利用が可能だ。
さらに、超伝導量子コンピューターのキーデバイスとされる「ダブルトランズモンカプラ」(超伝導量子ビット間の結合を高精度に制御するための素子)の開発に取り組んでいる。周波数が大きく異なる量子ビット間の結合を、完全に「オン」と「オフ」にすることで、量子計算の計算速度と精度の向上に貢献するという。この技術は、理化学研究所とともに実証を進めており、量子コンピューターのスケールアップに有効なデバイスアーキテクチャーも発案したという。
長年の技術蓄積を持つストレージ分野では、データセンター(DC)向けニアラインHDDの大容量化技術で市場をリードしている。具体的には、MAMRやHAMRの二つの次世代アシスト記録方式による高記録密度化、メカ制御技術に基づく低振動化を実現した。東芝によると、DCに蓄積しているデータの約6割でHDDが使用されており、大容量データ保存に対応した進化は、今後も重要になるという。27年度には、40TBのニアラインHDDを製品化する予定だ。
大容量化に対応する12枚積層HDD
「社会創造力」を強化
総合研究所は、東芝グループの経営理念に基づき、社会課題の解決に資する技術の研究開発に取り組んでいる。
佐田CTOは、「総合研究所の幹部や中堅メンバーが約2年にわたり、東芝の研究機能は、どうあるべきかを議論しつづけた。その結果、たどり着いたのが『社会創造力の強化』である。研究開発が強いというだけでなく、その成果を早く事業化することにこだわり、強い技術をつくるのではなく、社会に価値を生むソリューションを設計し、実証する力を伸ばしていくことにした。また、未来を予見しながら、将来必要となる技術を仕込む能力を高めることにも力を注ぐ」とし、「これが、現在の東芝の研究所のかたちである」と語る。
そして、「業績も少しずつ回復してきた。これからは、技術でアクセルを踏むための議論を進めていくことになる」と、新たなフェーズに踏み出す姿勢も見せる。
「東芝の従業員、研究者、技術者は、『人と、地球の、明日のために。』という経営理念に突き動かされている。人と自然が共生する社会、安全・安心な社会の実現に向かって努力を続けている」
「技術の東芝」の復活こそが、新生東芝の成長に欠かせない重要なピースとなるだろう。