鈴与シンワートは、ユーザー企業のAIトランスフォーメーションやDXを伴走型で支援する能力を高めていく。上流のITコンサルティングからシステムの実装、運用支援、BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)サービスまで一気通貫で担う戦略を重視する。本多正樹社長はスポーツになぞらえ「常に選手の隣にいて、日々の練習から食事の取り方、メンタル管理まで支援するコーチのような役割を担う」と話す。人事給与や物流、食品製造など業務・業種の強みを生かし、ユーザー企業に伴走しながらビジネスを伸ばしていく。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
5期連続で増収増益
――トップ就任から2カ月が過ぎ、足元のビジネスをどう分析していますか。
「現場力」が非常に強い会社だと認識しています。現場力とは、品質、コスト、プロジェクト管理をそれぞれの現場でしっかりコントロールできることを指し、前期までの5カ年中期経営計画の期間中は、売上高が1.4倍、営業利益が5.7倍、営業利益率は8.4%まで高めることができました。現場力がなければ、いくら経営陣が号令をかけても結果がついてきませんからね。
鈴与シンワートと言えば、全国45万人に利用していただいている電子給与明細の「S-PAYCIAL(エス・ペイシャル)」や給与計算BPOサービス、運輸業向けの運転前アルコールチェッククラウドサービス「あさレポ」といった独自のサービスを連想する人も多いかと思いますが、ほかにもITコンサルティングや個別SIなどの事業を幅広く手掛けています。私は当社の強みである現場力を引き続き伸ばし、次の成長につなげていきたいと考えています。
――今期からの新しい中期計画はどのようなものになりそうですか。
2027年3月期下期をめどに社内に内示し、本決算の発表のタイミングでしっかり数字で示していきたいと考えています。5期連続で増収増益を達成した前計画の実績を踏まえ、会社として高い目標を掲げ、挑戦している姿がステークホルダーの皆さんにしっかり伝わる指標を開示できるように努めていきます。
――どの事業をどのように伸ばすお考えですか。
まず、SI事業に関しては、客先常駐や請負型などの事業形態でユーザー企業のシステム開発や運用を担うことが多くありました。しかし、ユーザー企業に寄り添い、ユーザー企業のビジネスの成功により深く関わっていくためには、上流工程のITコンサルティングの領域を強化していく必要があるとみています。
ユーザー企業がAIトランスフォーメーションやDXを推進するに当たり、当社が伴走して適切に助言し、新しいシステムや業務プロセスを定着させ、成果に結びつけることで、ITサービスの価値を最大化させます。スポーツで例えれば、常に選手の隣にいて日々の練習から食事の取り方、メンタル管理まで支援する「コーチ」のような役割を担いたいと考えています。
強みの業務・業種を伸ばす
――映画制作でいうところの「名監督の横には必ず名プロデューサーがいる」ようなものでしょうか。
スポーツの世界でも「名選手の横には必ず名コーチがいる」と言われており、ITサービスにおけるユーザー企業とSIerの関係にも当てはまると思います。最終的には選手が自身のやりたいことを決め、結果を出すのですが、コーチは選手の意向を尊重し、寄り添いながら最善の方法を助言し、支えていきます。
ITサービスに置き換えれば、ユーザー企業が自らのビジネスを成功させ、売り上げや利益を得る過程で、ベンダーはユーザー企業に伴走しながら最善の助言をし、ITシステムを構築し、定着させるためのコーチ役を担う構図です。ユーザーのビジネスが成功すれば、自ずと当社業績にも反映されるというものです。
――電子給与明細や給与計算BPOサービスの領域はどうですか。
当社の主要事業セグメントの一つが人事給与や人的資本管理(HCM)分野で、長年にわたって同分野のノウハウを蓄積してきた強みがあります。HCMは業種を問わず、あらゆる企業で必要とされていますので、SaaSやBPOサービスのみにとどまらず、当社がコーチ役となってHCM変革に向けたコンサルティングを提供します。
HCM領域の業務変革の実績を積み上げていくことで、「HCMといえば鈴与シンワートだ」とユーザー企業から広く認知してもらえるよう努めます。
また、これまで当社のBPOサービスは給与計算メインで手掛けてきましたが、領域を広げて、HCM以外においてもITコンサルティングからシステム開発、BPOサービスへと“三段重ね”でつなげられるようにすることを検討しています。BPOサービスはストック型のビジネスですので安定収益にも役立ちます。
――SIビジネスにおける注力業種はありますか。
親会社である鈴与の傘下には、物流会社群はもちろんのこと、清水食品やエスエスケイフーズなどの食品製造や、鈴与建設など建設・ビルメンテナンス会社が数多くあります。グループ各社で取り組んでいる先進的な業務変革のノウハウを当社のITコンサルティングやSI、SaaS製品に取り入れることで、例えば「食品製造の〇〇業務といえば鈴与シンワート」と想起してもらえるまで認知度を高めていきます。
電子給与明細や給与計算BPOサービス、運転前アルコールチェックなど、強みとなる独自のソリューションやSaaSを数多く持っているのですが、まだ“粒”というか、体系化が十分にできていません。一粒一粒が優れていても成長には限界がありますので、鈴与グループの業務変革のノウハウと組み合わせ、ITコンサルティングやBPO、他社ソリューションと連携させれば、伸びしろが一段と大きくなります。自前主義では粒のままの状態から脱却できませんので、鈴与グループのノウハウや、他社ソリューションを積極的に取り入れて成長に結びつけます。
「変わりたい」へ意識を変革
――経営に当たって重視している点は何ですか。
私は新卒でNTTデータ通信(現NTTデータグループ)に就職しました。当時、SEとして、ある病院に常駐しながら電子カルテシステムの開発に従事した際、病院職員との雑談で「良い病院って、どうしたら分かりますか?」と聞いたところ、間髪を入れずに「それは、自分の家族に勧められるかどうかだよ」との言葉が返ってきたときに、よい職場、よい会社というものは、自分たちの仕事ぶりを家族に誇れるところから始まるものだと痛感したのを今でもよく覚えています。
当社においても自分たちの仕事を誇れるよう、仕事のやり方をどんどん変えていく必要があります。例えば、ユーザー企業にDXを提案するには、当社自身も率先してデジタル変革を実践していかなければなりません。人間は基本的に変化が苦手な生き物である一方で、変わらなければ競争力を失ってしまいます。ここで重要なのは「変わらなきゃ」と重い腰を上げるのではなく、従業員一人一人に「変わりたい」と思ってもらうことです。前者と後者ではマインドやモチベーションに雲泥の差があります。
前職の日本マイクロソフトでも、従業員が業務や組織の変革に適応できるよう、心理的、文化的な面を考慮して、変化を受け入れられるようにするチェンジ・マネジメントに取り組んできましたが、当社においてもまずは経営陣が率先垂範して、それを見た従業員に「私も変わりたい」と思ってもらえるよう努めていきます。従業員と密なコミュニケーションをとって、腹落ちしてもらうことが、当社の強みである現場力を高めることにもつながります。
――鈴与グループとしての目標は何ですか。
当社は鈴与グループ向けのSIビジネスはほとんど手掛けておらず、外部ユーザー企業向けのサービスを基本としています。グループの業務変革のノウハウを当社のITコンサルティングやSIサービス、BPOサービスというかたちに変えて価値をつくり出し、グループ傘下のIT会社の規範となるような成功モデルを確立させ、グループ全体の成長に貢献したいと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
座右の銘は、米国の著名なバスケットボールのコーチであるジョン・ウッデン氏の「成功とは、最高の自分を目指して全力を尽くしたと、自ら納得できることから生まれる心の平穏である」との格言だ。
ここで言う「全力を尽くす」とは、「自分にしか分からないような小さな妥協をしないこと」だと本多社長は解釈している。例えば、SIの現場で「ユーザーのためにはこうしたほうがよい」と内心では思いつつも、ついユーザーの言われた通りにしてしまうことは、本来あってはならない。
ほかの人からは分からないことであっても、自分には「何らかの妥協をしたことが分かる」。それではウッデン氏の言う「成功」には近づけないし、自社の強みである現場力を高めることにもならない。
自分に妥協しないマインドの大切さを従業員一人一人に伝えるのが経営者の仕事だと自負している。
プロフィール
本多正樹
(ほんだ まさき)
1967年、兵庫県生まれ。90年、東京大学工学部卒業。同年、NTTデータ通信(現NTTデータグループ)入社。2003年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校でMBAを取得。06年、アゴス・ジャパン代表取締役社長CEO。11年、日本インター(現京セラ)取締役専務執行役員COO。13年、アドバンスト・メディア執行役員。17年、取締役執行役員。20年、リコージャパン執行役員デジタルビジネス事業本部長。21年、日本マイクロソフト執行役員コーポレート戦略統括本部長。23年、執行役員アジア地域コーポレート戦略統括本部長。26年6月26日付で現職。
会社紹介
【鈴与シンワート】大手物流会社である鈴与傘下のSIer。2027年3月期の連結売上高は前期比6.4%増の220億円、営業利益は2.6%減の17億円の見込み。主な事業セグメントはシステム開発や人的資本管理、クラウド/SaaS、ITコンサルティング。従業員数は約900人。