総務省が実施した「市町村における業務システムの導入および運用に要する経費等の調査」によって、2001年からe-Japan戦略を通じて取り組んできた電子自治体の進ちょく状況が浮き彫りになった。業務システムの導入状況は、市町村によって大きな格差が生じているのが実情であり、今後導入を進めていく必要がある業務システムも多いことが示された。ITベンダーにとっては、各地方自治体の置かれている状況に応じたシステム導入提案を行えるかどうかが、電子自治体ビジネスを拡大するためのカギになるといえそうだ。(千葉利宏(ジャーナリスト)●取材/文)

コスト可視化で課題も浮き彫り

■電子申請、調達は2割以下 フロントエンド系導入に遅れ  

 今回の調査では、28の業務システムについて市町村での導入状況が明らかになった。集計分析によると、業務システムの導入率が80%を超えているのは、情報提供、住民情報関連、税業務、財務会計の4システムだけ。導入率50%以上でみても、上下水道システムや土木積算などを加えて11システムと全体の4割にとどまった。図書館、医療費助成、文書管理など、導入率が20-50%の6システムは、人口規模の大きい自治体ほど導入率が高くなる傾向があり、残り11システムは導入率が20%以下。庶務事務、電子調達、情報公開など7システムは導入率が10%に満たなかった。

 28の業務システムを、住民およびその財産に関する情報を扱う基幹系(住民情報関連、国保・年金、税業務など8システム)、自治体内部の事務処理を行う事務支援系(財務会計、上下水道、庶務事務など12システム)、住民がインターネット経由でアクセスするフロントエンド系(電子申請、電子調達など8システム)の3つにグループ分けして分析した調査結果によると、導入率は基幹系68.3%、事務支援系41.8%に対して、フロントエンド系は18.9%だった。住民にとって利便性を実感しやすいフロントエンド系の導入率アップが、電子自治体を推進していくうえで、大きな課題といえそうだ。

■パッケージ利用は6割以上に カスタマイズ有りが多数

 電子政府・電子自治体のシステム構築では、汎用コンピュータを使ったレガシー(旧式)システムから、オープン系への移行が奨励されてきた。今回の調査では、住民情報関連、税業務、国保・年金などの基幹系で、人口規模の大きい自治体ほど稼働年が古いシステムが多く、汎用コンピュータの利用率が高い結果となった。逆にWeb型でシステム構築しているのは、電子申請、電子調達、グループウェアなど比較的導入が新しいシステムに多いことが分かった。

 システム開発手法では、28の業務システムのほとんどで、パッケージソフトを利用しているケースが6割以上に達し、ゼロから開発する委託開発はそれほど多くないことが明らかになった。ただし、カスタマイズして利用する比率が高く、ノンカスタマイズで利用している比率が高いシステムは戸籍、土木積算、グループウェアなどに限られた。

■オープンと汎用の格差小さく、汎用系がやや下回る事例も


 注目された自治体の人口規模別コスト分析(図2)では、住民1人当たりで換算した導入コスト、業務システム別、システム形態別などのコスト比較を行っている。人口規模の違いによる都市類型別で住民1人当たりの導入コストを分析すると、業務システムによって多少バラツキがあるものの、人口が1万3000人未満の町村で導入コストが顕著に高くなる傾向が出た。人口規模に比例して導入率が低い業務システムも少なくないことから、日立製作所では「人口10万人以下の小規模自治体(全自治体の85%)については共同化などによって住民1人当たりの導入コストを引き下げる工夫が必要」と分析している。

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 業務システム別の導入コスト分析(図1)では、システム構築費用の大きなシステムは戸籍、図書館、税業務、財務会計など、運用経費が大きいのは図書館、電子申請、税業務、情報提供など、保守経費が大きいのは財務会計、図書館、情報提供、上下水道などの結果になった。費用面では、とくに図書館、税業務、財務会計の3システムの負担が重いということがいえそうだ。


 システム形態別では、汎用機とクライアントサーバーとで導入コストに大きな差は見られず、汎用機のほうがコストがやや低いケースもあった。パッケージ利用と委託開発との比較でも「パッケージ=安い」とは一概にいえない結果となり、パッケージ利用でもカスタマイズの有無でコストが変わらないケースもあった。ただし、これらのコスト比較はライフサイクルコストで比べる必要もあり、今後の継続調査が進めばより詳細な分析が可能になると期待される。

■際立つコスト削減効果、ITベンダーには両刃の剣か

 「今回のような調査結果があれば、市町村にシステムの共同利用を呼びかけるのも、データで効果を示せるので楽だっただろう」──電子自治体共同プラットフォーム「HARP構想」を推進する北海道企画振興部IT推進室情報政策課の山谷吉宏課長はそう評価する。単独導入した場合のコストが分かれば、共同利用した場合にいくらコストが安くなるかを具体的な数字で説明できるからだ。

 総務省の共同アウトソーシング事業で業務パッケージを提供したITベンダー各社は、単独導入と共同利用のコスト比較分析を行った(図3)。その結果、初期経費で96%、年間経費で73%の大幅な削減効果が見込まれるなど、いずれも高い効果が示された。しかし、共同利用促進に当たっては、都道府県単位で求心力をどう発揮していくか、公平で分担しやすい費用モデルをどのように構築するか、共同利用における責任の所在をどうするかなどの課題はある。今回の調査でコストの可視化は実現したが、次のステップとして価値(パフォーマンス)やリスクの可視化も必要との指摘もある。

 ITベンダーにとって、共同利用の促進は電子自治体ビジネスを縮小させることにもなりかねない。しかし、小規模自治体も含めて、まずは一定レベルのICT化を実現し、電子自治体のメリットを住民に実感させることが、次世代電子自治体のビジネス拡大につながるといえるだろう。