今年末に、域内での貿易の自由化を図る「ASEAN経済共同体(AEC)」が発足して、これまでバラバラだった「ASEAN」が「一つの市場」として立ち上がる。AECの発足をきっかけとして、合計6億人以上の人口をもつASEAN諸国の経済が活性化し、ITに対する需要も旺盛になる見込み。日本のITベンダーがASEAN事業に力を入れているなかにあって、AECは、ビジネスの追い風となりそうだ。(ゼンフ ミシャ)

EUのアジア版を狙うAEC

 AECとは、「ASEAN Economic Community」の頭文字をとったもの。日本語では、「ASEAN経済共同体」という。ASEANを構成する10か国は、2003年、地域の政治的な安定や経済的な発展を目指し、欧州連合(EU)の“アジア版”を想定した「ASEAN共同体」の設立に合意。09年には、政治や経済、社会・文化など、それぞれの分野でのロードマップを定め、その一環として、AEC発足に向けての準備を進めてきた。発足は、15年末を予定している。

 AECの中核となるのは、モノ・ヒト・サービスに関して、域内での貿易の自由化を図る取り組み。関税の削減や通関作業の簡素化をはじめ、短期滞在ビザの撤廃や出資規制緩和など、国境を越えて経済面での連携を強化する。それによって、周辺国との貿易を活性化させ、安定的な経済成長を目指す。ASEAN加盟国は、AECの前身として、1990年代に「ASEAN自由貿易協定(AFTA)」を創設し、それを基盤に、現在の経済成長につなげた。今後は、AECの下、AFTAの取り組みを進化させ、本格的な経済共同体の構築に動く。

サービスの自由化は遅れ気味

 三菱UFJ投信によると、進捗状況は分野によってまちまちだ。域内関税の削減と短期滞在ビザの撤廃に関しては、取り組みは計画通りに進んでいる。通関作業の簡素化は、おおむね計画通りの進捗だ。一方、エンジニアなど熟練労働者の移動自由化や、小売りや金融といった分野でのサービスの自由化に関しては、遅れ気味の状況だという。ASEANは、異なる宗教、文化的な多様性や言語の多さを特徴としており、10か国での経済の連携を実現するのは、簡単なことではない。そのため、今年末のAEC発足はあくまで出発点で、経済共同体が円滑に動くようになるまでには、まだ時間がかかりそうだ。

日本ITベンダーへの影響は

 簡単にいえば、ASEAN諸国の経済が活性化すればするほど、ITに関するニーズが旺盛になり、日本ベンダーにとっての商機が生まれると考えられる。さらに、AECの発足によって、国境を越えたビジネス展開がしやすくなるので、ASEAN企業のM&A(企業の合併と買収)や拠点の統合が増えるだろう。日本のITベンダーにとっては、基盤の統合を提案するなど、案件の幅が広がることになる。


【告知】「AECスペシャル版」の<下>では、ASEANでの事業展開に取り組んでいる日本のITベンダーが、AECの発足をどう捉え、どのようにチャンスをつかもうとしているかを追う。