【上海発】中国では、小売店におけるモバイル決済への対応が、もはや消費者にとってあたりまえのサービスになっている。「支付宝(Alipay)」や「微信支付(WeChat Payment)」などの第三者モバイル決済が急速に普及し、北京や上海などの沿岸部主要都市では、大型ショッピングモールの店舗やコンビニエンスストアはもちろんのこと、多くの個人商店でも利用可能な状況だ。かなり広域で利用できることから、最近では現金を使わない中国人が増えている。これに対応する形で小売業側も変化しており、今では現金を置かない店舗もみられるようになってきた。(真鍋 武)

 上海市浦東新区のショッピングモール「金橋国際商業広場」に今年1月、新たなスーパー「盒馬鮮生」がオープンした。足を運んでみると、店内には野菜や果物、日常用品に加え、新鮮なカニやエビなどの魚介類、外国産の高級牛肉など、鮮度の高い食料品が豊富に取り揃えてある。平日の昼間だったが、相当数の買い物客が入っていて、賑わいを感じさせる。

盒馬鮮生の店内

 店内の様子は一般的なスーパーと同じだが、支払いエリアは異質だ。多くのスーパーでは、大抵レジ回りが混んでいて、自分の支払いを終えるまでに一定の時間がかかるが、この店では支払い待ちの客がほとんどいない。また、多くのスーパーが大きなPOSレジを構えているのに対して、盒馬鮮生のレジ回りはやけにさっぱりとしている。よく見ると、現金が置かれていない。客も、カバンから財布を出すそぶりをまったくみせない。

 この店では、支払いはすべてアリババグループの「支付宝」を利用する。自分のアカウントのQRコードをみせて、レジ店員がもつ専用端末でスキャンしてもらうことで決済する仕組みだ。なじみの客が多いのだろう、レジ回りで支払い方法に困っている人はおらず、主婦も老人もみな「支付宝」で平然と会計をすませていた。

現金は無く、支払いはすべてモバイル決済

 また、盒馬鮮生では、商品の配送サービスも提供しており、消費者は、遠隔地から専用のモバイルアプリを通じて、店舗の商品を注文・購入することができる。盒馬鮮生の店内をよく観察してみると、天井付近には、商品を運ぶためのレールが設置されているのに気づく。配送サービスの注文を受け付けたスタッフは、これを使って、店内の商品を効率的に外で待機する配送員に送る。盒馬鮮生では、早期に店舗数を10店に拡大させる方針を示している。

 上海最大規模の繁華街、南京東路沿いのショッピングモール「恒基名人広場」には、「Coffee Box」というカフェがある。店内は無駄な装飾がないシンプルなつくりで、この店も現金を置いていない。Coffee Boxが支払いに採用しているのは、騰訊(テンセント)グループが提供する「微信支付」だ。店内に張られたQRコードを「微信(WeChat)」を通してスキャンすると、Coffee Boxのアカウントに接続され、そこで好みのメニューの注文と決済を行うことができる。支払いを終えると、店舗側のタブレット端末には注文内容が通知され、スタッフはこれをみて商品を用意する。

Coffee Boxの実店舗

 Coffee Boxを運営する上海連携商務諮詢は、中国のオンライン決済市場の急成長を商機と捉えて発足した企業の一つ。設立は2014年で、実店舗に加え、モバイルアプリを活用した飲料の出前サービス(外売)を展開している。現金を置かない店舗は、盗難や強盗のリスクを抑えられるほか、販売状況をあらかじめデータとして管理することで、会計処理を効率化できる。上海連携商務諮詢は、すでに出前の店舗を含めて、北京、上海、広州に35程度のサービス拠点を保有。今年4月には、シリーズBラウンドを通じて、5000万元の資金を調達している。

注文情報は店舗のタブレット端末に瞬時で反映

 調査会社の艾瑞咨詢(iReseach)によると、2016年4~6月の中国第三者決済取引総額は9兆4000億元。前年同期比で274.9%増と急速に成長している。市場シェア約50%で1位の「支付宝」は、登録ユーザー数が4億5000万人を突破。一方、「微信支付」を提供するテンセント傘下の財付通もシェア約40%と2位につけ、両社は競争関係にある。決済事業者側には、小売業との提携を通して、自社の決済サービスを優先的に採用させることで、消費者の囲い込みを図る狙いがある。