総額1.7兆円規模の設備投資と研究開発投資を向こう5年で計画している東芝グループ。その重点投資領域の一つであるデジタル分野の未来像の一端が、11月に都内で開催された年次イベント「東芝オープンイノベーションフェア2018」で明らかになった。同フェアは、東芝グループのIoT戦略の中心を担う東芝デジタルソリューションズが主催。強みとするコミュニケーションAIやアナリティクスAIを駆使した新商材をレポートする。(取材・文/安藤章司)

 東芝デジタルソリューションズは、デジタル/IoT戦略の基本コンセプトである 「SPINEX(スパインエックス)」において、AIを重点要素に位置付けている。東芝オープンイノベーションフェア2018では、自然言語処理を中心とするコミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」や、ビッグデータ分析を中心とするアナリティクスAI「SATLYS(サトリス)」を活用した新商材の展示に力を入れた。
 

自然言語処理で入力時間を4割削減

 会場でひときわ注目を集めていたのが、「RECAIUS報告エージェント」だ。外回りの営業担当者が、外出先から音声を使って営業日報などを入力するシステムだが、単なる音声入力ではない。営業担当者が話している言葉をスマートフォンのアプリを通じてRECAIUSが分析。営業日報の入力項目に沿って自動で入力してくれる。
 
RECAIUS事業推進部
参事
杉浦千加志氏

 例えば、「今日東芝へ営業に行き生産管理システムの商談をした。山田課長は前向きに検討。詳細な見積もりがほしいとのこと」と話しかける。

 すると、営業日報の訪問先の項目には「株式会社東芝」、案件には「生産管理システム」、先方担当者には「山田課長」、進捗状況には「詳細見積もりを後日送付」といった具合に入力される。

 もし、「受注見込みの感触」という項目があったならば、「どのくらいの受注見込みの感触がありましたか?」と、エージェント側からスマートフォンのチャット画面を通じて問いかけて空欄を埋めていく。

 RECAIUS報告エージェント事業を担当するRECAIUS事業推進部事業開発担当参事の杉浦千加志氏は、「入力項目はユーザーが自由に選ぶことができ、対話シナリオの作成も簡単にできる」と、項目を起点に自然言語処理を行うアプローチに新規性があると話す。先行導入したある顧客ではこの仕組みを使うことで「入力時間を4割削減できた」と、業務効率化に効果を発揮している。
 

機械も会話に加わる次世代トランシーバー

 RECAIUSを活用した自然言語処理では、ほかにも“次世代トランシーバー”と銘打った「RECAIUSフィールドボイスインカムExpress」が注目を集めていた。イベント会場や旅館・ホテル、警備業務などの担当者の多くはトランシーバーを使って情報を共有している。これをスマートフォンを使った音声チャットに切り替え、さらにRECAIUSの自然言語処理で文字に起こす仕組みだ。
 
RECAIUS事業推進部
佐伯祐太郎氏

 文字化することで、聞き逃してもチャット画面を見直すことで、誰が何を話したのかを確認できる。また、従来のトランシーバーのような、狭い範囲でしか届かない無線とは異なり、遠隔地でも会話や文字ベースのチャットログを見ることができる。インターネットの音声チャットだからこそ実現できる機能だ。管理者が離れた場所にいたとしても、「現場で何が起きているのか」(RECAIUS事業推進部事業開発担当の佐伯祐太郎氏)を把握できるようになる。
 
ヒトの組織の画像からガン細胞を見つけて着色する

 さらに、設備や機器の状況を読み取って、音声とチャット文字の両方でメンバーに報告することもできる。「IoTの考え方を取り込んだもの」(佐伯氏)で、例えば、ある旅館では大浴場のお湯の温度が40度を下回ったら、IoTの温度センサーから「音声とテキストで通知する」仕組みを実装。イヤホンを通じてこの通知を受けた従業員が、「私が近くにいるので対応します」などと迅速に対応しやすくなり、サービス水準の向上に役立てることができる。
 
音声会話を文字に変換し、チャット形式でスマートフォンの画面に表示する

少ない学習量で高精度な解析を実現

 アナリティクスAIのSATLYSでは、画像解析技術の社会インフラや医療への応用を加速させている。自治体などで使うゴミの焼却炉の炎の色や形から炉の状況を読み取ったり、ヒトの細胞を拡大した画像からガン細胞を見つけ出したりするシステムの開発に取り組んでいる。
 
ディープラーニング技術開発部
橋本隆太郎氏

 いずれも、ディープラーニング(深層学習)技術を駆使。大量の画像データを分析する大規模解析にも対応している。強みとなるのは、「少ないサンプルから精度の高い結果を導き出せる」(ディープラーニング技術開発部開発第二担当の橋本隆太郎氏)という点。業務に画像解析を適用する際、学習に使うサンプル数が少ないほど学習にかかる時間とコストが削減できる。「同じ精度なら、学習に必要なサンプル数が少ないほど競争優位性が高いAIとなる」(橋本氏)と話す。

 開発に当たっては、顧客の業務効率向上や、業務改革に役立つよう、「しっかりと実装していく」ことも重視する。技術的優位性に加えて、顧客の業務課題の解決に結び付けていく姿勢も大切にしている。