【地方IT市場の今・1】政府から新型コロナウイルスの感染拡大防止策でイベントの自粛や人混みへの外出を控える活動要請が出されて、消費をはじめとする経済活動が停滞している。SIerやリセラーなどIT産業に携わる人たちにとっても先が読めない状況にある。しかし、企業に促してきた働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)が、図らずも半ば強制的な外部環境の変化によって進めざるを得ない機運にある。全国でも最大規模の356社(2020年3月1日現在)の会員数を誇る神奈川県情報サービス産業協会(神情協)の常山勝彦会長をはじめとする幹部に、現状と協会の取り組み状況を聞いた。2回に分けて伝える。
取材・文・撮影/細田 立圭志
神奈川県情報サービス産業協会の常山勝彦会長(左から2番目)、前山浩志副会長(左)、
中溝正俊副会長、中山いその副会長
IT系企業の新卒採用活動に影響
――新型コロナウイルス対策で政府から2月26日に、スポーツや文化イベントの自粛要請が出たり、3月9日の米国のニューヨーク株式市場が過去最大の2013ドル暴落するなど経済に大きなダメージを与えています。先行きが読めない状況ですが、(3月10日の取材時で)神情協の会員にはどのようにアナウンスしていますか。
常山会長(以下、敬称略) 神奈川県から要請を受けているアルコール消毒対策や大勢集まるところに行かないようするなどは会員にアナウンスしました。協会のセミナー活動は会員同士の情報交換の重要な場なので自粛していません。ただ、その後の懇親会や飲食を伴う会合は3月いっぱい自粛にしました。直近で大きな影響となるのは21年度の新卒の合同企業説明会で、3月19日を5月19日に延期しました。Skype面接など大学側といろいろと対策を講じているところです。神情協主催の「神奈川IT就職フェア」として、毎年大勢の学生さんが集まる重要なイベントなのですが。
常山勝彦会長
――会員企業の新卒採用計画にも影響が出そうですね。
前山浩志副会長(以下、敬称略) 各大学に出向いて説明する学内説明会の多くが中止や延期になりました。採用計画が破綻してしまうと学生さんへの影響はもちろん、企業運営にも大きな影響を与えます。必要なものはなんとか実施したいと思いましたが、大学側が学生の参加を自粛させるとのことで致し方ないですね。一日も早く新型コロナウイルスが終息して、通常の採用活動に戻ることを願っています。
――会員のビジネスはどうですか。
常山 自社のことでいうと、薬品管理システムで約60社のクライアントを抱えていますが、そのうちの3社から3月中の納期を伸ばしてほしいとお願いされました。会員企業の中には、クライアントの4月以降の業績見通しが立たないため、派遣契約の縮小を何社かから打診されているようです。
前山 SEとして客先常駐で開発している場合、お客様が在宅勤務に切り替わるのでSEも自宅や自社に戻って仕事をするなどの対応に追われています。しかし、想定外に急な一斉在宅勤務になったため、ネットワーク回線が不十分でパンクしてしまってデータ通信ができなくなったり、仕事が進まなくなったりといった問題が出ています。
前山浩志副会長
中溝正俊副会長(以下、敬称略) 在宅勤務といいながら、実質は自宅待機の会社も多いのではないでしょうか。売り上げや支払いが3月末までは大丈夫でも、その先がどうなるか分かりません。インフルエンザと違って、終わりが見えていないのが新型コロナウイルスの厄介なところです。
常山 アジアで事業展開している会員企業では社員の入国禁止や一時的な在宅待機によって社員が動けないという問題も出ています。
中溝正俊副会長
リモートワークが普及するチャンス
――厳しい状況ですね。逆に新型コロナをチャンスに変える動きはありますか。もともと東京五輪・パラリンピック中の在宅勤務やピークオフ通勤が課題でしたが、図らずも新型コロナによって進んでいる状況です。
前山 確かに、これを機に在宅勤務を早急に構築しようという動きはあります。お客様のほうでも東京五輪でまた同じような事態が起きるだろうと、セキュリティ面を強化した海外からのリモート開発も可能なネットワーク構築に舵を切ってくるでしょう。
――在宅勤務でセキュリティは欠かせませんね。
中山いその副会長(以下、敬称略) 弊社でも時差通勤からスタートして、また小学生から中学1年生までの子どもがいる方は週に3日、テレワークを導入しています。ビジネス的にもお客様がテレワークを進めていて、われわれがチームの方々と連携しながらサポートする仕事などが増えています。また、もし社員に感染者が出た場合、消毒作業などで会社を一時的に閉鎖しなければならなくなります。お客様のヘルプをしていたわれわれが出社できない可能性もあるわけです。われわれは奄美大島にもオフィスがあるので、いざというときはそこで対応することも考えています。
中山いその副会長
――実際に感染者が出た企業では、近隣を含めたビルごと一時的に閉鎖しましたからね。事前のリスクヘッジも大切ですね。
中山 北海道の会社との開発や連携でも、5月までは案件が動いても6月以降は業務がなくなる可能性があったりします。その会社が大丈夫でも、周囲の活動が止まってしまっているので不安ですね。
クラウドの備えが役立つ
中溝 いい話としては、われわれの子会社に中国の吉林省の会社がありますが、今までは政府から外出禁止の指示が出ていて事業がストップしていました。路線バスなどの交通機関もすべて止まり、街中を歩いている人が一人もいなく、店も閉店していました。しかし、3月9日から人が密集しない会社から営業許可が出始めました。バスも動き始めて、やっと市民生活が普通の状態に戻ってきているということを聞き、少し安堵しているところです。両国の行き来はまだできませんが、明るい材料です。
――世界にとっても明るい情報ですね。
中溝 中国で事業展開していることもあって、われわれは2年前に自社サーバーを持たずにすべてクラウドに移行しました。シンクライアントがあれば世界中のどこからでもクラウドにアクセスして仕事ができるので、リモートワークの移行に抵抗感はありませんでした。中国からも日本からも同じデータを見ていないと仕事にならないので。
――すでにリモートワークに移行している企業と、これから始める企業ではスピード感にも違いが出てくるので、クライアントからの要望も増えそうですね。
中溝 弊社はセキュリティをどうするかなど、中国の子会社とやり取りするためにクラウドに移行していましたが、日本ではそのようなニーズはそれほど高くありませんでした。これを機に進むと思います。(つづく)